質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第五一号

大学の教育研究の質的向上とその適正な評価制度の確立に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年五月十九日

塩出 啓典   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   大学の教育研究の質的向上とその適正な評価制度の確立に関する質問主意書

 今日のわが国の高等教育は、量的拡大から質的充実の時代を迎えているといつてよい。更に、今後予想される教育の国際化、限られた財源内での効率的な教育研究の必要性等の課題を思うと、いかにすれば高等教育の質の向上が可能であるかについて、真剣に検討すべき時期に来ていると考えるものである。特に、技術革新が目覚ましい理工系の分野の教育研究のあり方については、緊急を要することであると考える。
 大学における教育研究の向上の観点から、ここに指摘したい問題は、わが国では大学や学部(又は学科)の設置認可は文部省によつて行われるのであるが、設置後の教育研究の状況についてのフォローアップは十分でなく、各大学・学部の自己評価に任せきりになつていることである。だからといつて、文部省にそのような評価を委ねることには、大学の自治、学問研究の自由の原則からいつて望ましいことではない。
 この点で、米国の制度は示唆的であり、十分参考になると考える。例えば、この国の工学分野では、「工学・技術課程認定協会」(Accreditation Board for Engineering and Technology 略称、ABET)なる機関が設けられている。
 これは、工学関係の学会を主要なメンバーとする政府から独立した全国的団体で、大学の工学関係の、(1)教育プログラムの基準の設定、(2)その基準に合致するかどうかに関する専門家による評価、(3)合格と認定された大学のリストの公表、(4)合格認定された大学に対する定期的訪問調査の実施等を行い、工学分野の教育研究水準の維持向上に努めているのである。
 このような評価制度は、医学、法学、教員養成等、他のほとんどすべての専門分野でも同様に設けられている。この米国方式の特徴は、何よりも学会メンバーである専門家集団による自主的評価であることに注目したい。
 戦後わが国においても、この米国流の大学の集団的自己規制方式の導入が試みられ、大学基準協会等が設けられたのであるが、時期尚早で機が熟さなかつたこともあり、十分な発展をみずに今日に至つている。
 しかし、高等教育の質の向上が焦眉の問題とされている今日、この米国方式を再評価し、その導入の試みがもつと積極的に進められるべきである。
 そこで、以上のような考えから、以下若干の質問をしたい。

一 米国では、民間の資格認定団体による認定(アクレディテーション)が実施され、教育水準の維持に大きく寄与しているが、日本でも米国のような民間団体による認定が必要ではないか。

二 もし、学会や大学団体等が協力して大学や学部を相互に評価する試みがなされる場合、文部省はこれを支援する考えはあるか。

三 大学設置基準(文部省令)による規則があるため、大学教育が画一化、硬直化しているという批判を聞くが、文部省は各大学において特色ある大学教育が実施できるよう、これまでどのような措置を講じてきたか。

四 臨時教育審議会の第二次答申で、高等教育の改革に関し、大学教育の充実と個性化、大学院の飛躍的充実と改革、大学と社会の連携の強化、大学基準協会の活性化等の提言がなされているが、文部省は、今後、どのように対応し、大学における教育研究の質的向上を図つていくのか。

  右質問する。