質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第四三号

VDT作業者の健康障害と労働安全衛生対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年五月一日

藤原 房雄   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   VDT作業者の健康障害と労働安全衛生対策に関する質問主意書

 今日、マイクロエレクトロニクス技術を中心とした急激な技術革新により、多くの産業分野においてOA(オフィス・オートメーション)化が進行し、コンピュータやワードプロセッサなどを軸とした作業システムが各職場に導入されている。
 この作業システムにおいてはVDT(視覚表示装置)機器が使用されるが、このVDT作業に従事する労働者から、これに起因すると思われる様々な心身の健康障害が訴えられてきている。
 例えば、目の疲れや肩・首筋等の局所的部位の痛みなどの症状をはじめとして、持続的な強い精神的ストレスや焦燥感も挙げられている。さらに、電離放射線等による疲労以外の健康影響についても不安が提起されるに至つている。
 過去、一九六〇年代の事務機械化時代に多数のキーパンチャーが頸肩腕症候群に罹病し、悲惨な苦しみを味わつたことを想起するとき、予防対策がいかに重要であるかを教訓としなければならない。
 そこで、VDT作業に伴う新たな職業病の発生を未然に防止し、VDT作業者の労働安全衛生対策の一層の推進を図る観点から、以下の事項について質問する。

一 VDT作業従事者の心身両面にわたる様々な健康障害の実態を、政府はどのように把握し認識しているのか、明らかにされたい。

二 労働省は、昨年十二月、「VDT作業のための労働衛生上の指針」を作成し、各企業を行政指導するよう各都道府県労働基準局へ通達を出しているが、指針作成までの経緯と、指針に基づく行政指導の効果について、どのように考えているのか。

三 労働省の指針においては、一日のVDT作業時間についての上限が設けられていないが、昨年九月、日本産業衛生学会のVDT作業に関する検討委員会が公表した「VDT作業に関する勧告」では、一日の作業時間は四時間を超えないようにすべきであるとしている。また、総評や同盟などの労働団体におけるガイドラインでも四時間以内としている。
 一日のVDT作業時間について上限を設けるべきと考えるがどうか。

四 VDT作業が妊産婦に及ぼす影響についても大いに懸念される。
 VDT作業の母体及び胎児への影響が解明されるまでは、妊産婦はVDT作業に従事させてはならないこととすべきではないかと考えるがどうか。

五 労働災害の防止のために、VDT機器の安全性についての技術基準についても早期に策定すべきと考えるが、その検討状況と今後の見通しについて明らかにされたい。

六 近年、VDT作業により視力障害を起こした労働者が、労働基準局へ労災認定の申請をしたところ、因果関係が不明であるとして却下された事例も出ている。
 VDT作業による健康障害を理由とする労災認定の申請件数とその認定状況はどうなつているのか、明らかにされたい。

七 VDT作業と健康障害との因果関係が不明であるとして、労災認定が遅れているとすればゆゆしき問題である。
 因果関係を究明するため、専門的研究機関を発足させ、早急に対応を図るべきであると考えるがどうか。

八 日本経営協会の昨年五月のメンタルヘルス対策に関する実態調査では、FA(ファクトリー・オートメーション)やOAなど急激な技術革新の進展や複雑な人間関係の中での「心の病」に対する措置の遅れや把握の限界などが浮き彫りにされた。
 そこで、今後のVDT作業従事者の労働安全衛生対策を強化していくためにも、VDT作業が心身両面の健康に与える影響についての総合的な具体的実態調査を政府として実施すべきではないかと考えるがどうか。

九 先きに触れた日本産業衛生学会の「VDT作業に関する勧告」では、作業者の健康と安全を守るために、安全衛生組織、VDT作業機器、作業環境、作業管理、健康管理について、あるべき条件や望ましい条件について勧告している。
 政府は、この勧告の趣旨を真摯に受け止めて、今後の行政的施策の中に十分生かしていくべきであると考えるがどうか。

十 政府による総合的な実態調査の実施結果を踏まえた上で、VDT作業者の労働条件の改善を図るため、単なるガイドラインにとどまらずに、労働基準法や労働安全衛生法の改正へ向けて、法的規制措置を早急に検討すべきと考えるがどうか。

  右質問する。