質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第四二号

米軍用家族住宅建設に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年四月二十六日

喜屋武 眞榮   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   米軍用家族住宅建設に関する質問主意書

 宅地や生産の場である農地等を米軍基地として取り上げられた沖縄の人たちが、米軍家族用の賃貸住宅を建設して、生計を立てていることは、既に昭和五十九年の第一〇一回国会における私の質問主意書で述べたところである。
 一方、沖縄駐留の米軍用家族住宅の需要戸数は、現在、約一万二千戸程度であるという。
 ところで、本年三月三十一日の参議院予算委員会における私の質疑に対して、佐々防衛施設庁長官は、現在の沖縄の米軍用家族住宅の戸数について、米軍基地内に約六千五百戸、民間の賃貸住宅が約五千五百戸あると答弁している。ちょうど、米軍の需要戸数に見合う数である。
 しかも、この五千五百戸の民間賃貸住宅のうちには、約一千戸近い空き家があるとも述べている。
 この様な状況にあつて、しかも厳しい財政事情の下で、政府は、米軍に対する「思いやり予算」と称するものを使つて、どんどん米軍用家族住宅の建設を押し進めているのである。
 特に、沖縄県にあつては、昭和五十六年度から六十年度までの五年間で、千六百六十八戸が既に建設され、六十一年度の建設計画は、四百五十七戸であるという。このようにして、政府は、今後も米軍基地内に、更に「数千戸」を建設していく予定であるようだ。
 ところで、沖縄の人たちは、自ら好んであの広大な面積の米軍基地を受け入れているのではない。「日米安保条約」という名の国策の犠牲になつているのではないのか。
 政府は、沖縄県民にその様な状況を強制しておきながら、沖縄県民が、やむを得ず米軍基地に依存する形で、米軍用賃貸住宅を建てて、生計を立てていかざるを得ないという立場にあるとき、政府は、日本を守つてくれているという米軍に対する「思いやり」の心で、米軍基地内に、どんどん住みよい住宅を建ててやつているのである。
 その結果、沖縄の人たちの生活の手段である米軍用賃貸住宅はどんどん空き家となつて、関係沖縄県民は生活の不安におびえているのである。まさに、「踏んだり蹴つたり」、「泣きつ面に蜂」とは、このことではないのか。
 そこで、以下質問する。

一 前記予算委員会における佐々防衛施設庁長官の答弁によれば、「一九七三年に海兵隊の人事政策が変わりまして家族を帯同してよろしいということに変わつたことから住宅の需要が非常に増大をして、特に沖縄において家族住宅あるいは宿舎の建設要求が大きくなつております。」というような状況で、現在、米軍は、沖縄県下に「数千戸」の米軍用家族住宅の建設要求をしているとのことだが、この「数千戸」というのはあいまいなので、具体的には何戸であるのか、数字で示されたい。

二 「思いやり予算」による昭和六十年度の米軍用家族住宅の建設戸数と建設費及び昭和六十一年度の建設計画戸数とその予算額を全国及び沖縄県の分について示されたい。

三 米軍用家族住宅の需給関係は、前述のように、数字の上ではバランスがとれているように思える。それにもかかわらず、民間賃貸住宅の方には、既に一千戸近い空き家が出ているという実情を政府も認めている。
 しかるに、政府は、今後も米軍基地内に「思いやり予算」によつて、なお、「数千戸」の米軍用家族住宅を建設しようというのか。

四 佐々防衛施設庁長官は、「私ども一挙に数千戸建てるというようなことは到底できるわけではございませんで、その意味では需給関係のバランスは余り崩れないであろう。」と述べている。また、「需給関係のバランスを崩すことのないよう配慮しながらやつてまいりましたし、これからもやつてまいりたいと考えております。」とも述べている。
 しかし、この答弁の内容は、どうも事実と一致していないと思われる。既に、一千戸近い空き家が出ていることを認めながら、一方では、「バランスを崩すことのないよう配慮し」というような空々しいことを言つている。このような言動は、誠意あるものとは言えないばかりか、矛盾も甚だしいと言わねばならない。
 そこで、この米軍用家族住宅の需給関係がどうなつているのか、具体的な数字で説明していただきたい。すなわち、米軍の必要戸数と現在基地内にある戸数及び民間の賃貸住宅の戸数を明らかにして、需給関係のバランスがどうなつているのか、具体的に明らかにしていただきたい。

五 現在、民間の賃貸住宅に一千戸近い空き家が出ているということは、沖縄の関係者にとつては、生活上の死活問題であるということは想像に難くない。
 空き家になつた原因について、防衛施設庁長官は、「このあいておる部分は昭和二十年代とか三十年代とかかなり古い時期に建てられたものもございまして、そのためにやはり非常に古くなつて、パイプだとかなんとかもうまくないと、こういうようなことからどうも空き家になつておる、こういう事実があるようでございます。」と述べているが、本当に空き家になつた原因を、建物が古くて具合が悪いというだけの理由に帰してよいのか。
 政府が、基地内に毎年五百戸前後の米軍用家族住宅を増やしている事実や、円高ドル安によつて、米軍関係者が、その消費生活を基地内で済ませるというような傾向等とは一切無関係なのか。沖縄の民間の米軍用賃貸住宅が空き家になつている真の原因について、政府はどのように認識しているのか、あらためて伺いたい。

六 仮に、空き家になる理由が、防衛施設庁長官の言うように、その老朽化にあるとすれば、これ等の家主たちは、その建て直しや修理等によつて顧客を確保して、生計が立ちゆくようにしたいところであろう。
 しかし、現在のように、政府の手で、米軍基地内にどんどん米軍用家族住宅が建てられて、米軍用賃貸住宅市場が狭められたら、建て直しや修理のために金を使う意欲は出てこないと思われる。その結果、更に空き家は増えて、沖縄における米軍用賃貸住宅業は成り立たなくなると思われる。
 もし、そういうことになつたら、沖縄の置かれた現状では、それは、生活不安や社会不安を惹起することは明らかだ。従つて、現在、政府が進めている米軍用家族住宅の建設は、昭和六十二年度以降は中止をして、民間の賃貸住宅業を育成・保護すべきであると考えるがどうか。

七 防衛施設庁長官は、前記の予算委員会において、「この貸し家組合の方々がおつしやることを承つておりますと、喜屋武先生御指摘のとおり、初めは米軍側がそれを奨励し、むしろ協力を求められて建てたんだ、今になつて思いやり予算で米軍の住宅を国が建て、自分たちの建てた家がむだになるというのはひどいではないかと、こういうことはまことにごもつともでございます。」と理解を示している。また、「一挙に鉄筋コンクリートで何千戸建てるというようなことは現在の情勢では不可能でございますし、また可能であるといたしましてもバランスを失したことでございますので、そういうことは日米合同委員会施設小委員会において言うべきことは言い、貸し住宅組合の皆様の主張も十分その中に盛り込んで調和を図つてまいりたい」とも述べている。
 このような言葉が誠意の表れであるとすれば、昭和六十二年度以降の米軍用家族住宅の建設計画を見直して、米軍側にも事情を説明して、民間賃貸住宅の使用をこそ奨励すべきではないのか。

八 前項のような措置をとることこそ、現下の財政事情にも合致し、予算の節約にもなり、民生の安定と民間活力を引き出すゆえんでもあると思う。
 そこで、防衛予算膨張の一因ともなり、民生圧迫の原因ともなつている「思いやり予算」という名の「提供施設整備費」については、厳しく査定をし、昭和六十二年度以降については大幅に削減すべきであると考えるが、財政当局の見解を伺いたい。

  右質問する。