質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第二三号

北海道の酪農・畜産対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年三月二十日

小笠原 貞子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   北海道の酪農・畜産対策に関する質問主意書

 全国農協中央会は、全国の畜産農家約一万六千戸の経営内容を調査し、「健全な経営」三六%、「やや経営不振」四九%、「かなりの経営不振」一三%、「経営の継続が困難」二%という中間結果の報告を行つた。
 このことにも見られるように、生産資材の高値安定、生産者価格の抑制、規模拡大の投資と償還金増大及び利払いの肥大化、外国農畜産物の輸入増大による国内市場の圧迫などにより、近年の負債整理資金対策の効果を失わせ、農家の必死の努力にもかかわらず農家の経営は危機に瀕している。
 全国生乳生産の三五%を占めるなど「食糧・畜産基地」といわれる北海道にとつて、基幹産業である酪農・畜産業の健全な発展と農家経済の再建は、地域経済にとつても急務となつている。
 私は、市場全面開放などの対米従属的食糧政策、軍備拡大、大企業優先の政治の根本的転換による国内農業の危機打開を求めつつ、とりわけ、北海道の酪農・畜産に関連する当面の諸点について、日本政府の責任において実効ある措置がとられることを強く求めて、以下具体的に質問する。

一 外国農畜産物の輸入抑制

 昨年十二月より生乳「過剰」に対処するため生産者は出荷量の二%以上に食紅を加えるなど、生産抑制に追い込まれた。また中央酪農会議は、昭和六十一年度の出荷目標として前年度比三・一%の減産をきめた。
 生産者が計画生産にとりくんでいる最中、昭和六十年の乳製品輸入は、前年比五・六%増の二百六十四万トン(生乳換算)と史上最高を記録した。これは本道生乳生産量を大幅に上回る膨大なもので、需給関係に重大な悪影響をおよぼしている。

(1) 国会決議との関連

 たとえば、参議院農林水産委員会は昭和五十九年三月二十九日、畜産物輸入の自由化・枠拡大が畜産農家の犠牲となることのないよう、また牛乳・乳製品の国内需給に悪影響を及ぼすことのないよう政府に対処を求める決議をしている。今日の史上最高の輸入は、これまでの国会決議に違反しているとは考えないか。

(2) 輸入の削減

 農林水産省の「農産物の需給と生産の長期見通し」では、牛乳・乳製品の自給率を昭和六十五年八九%としているが、現実には低下傾向にある。擬装乳製品など、外国乳製品の輸入拡大に歯止めをかけ、国内生産を振興し、新年度から輸入を削減する決意で対処すべきであると思うがどうか。

(3) 牛肉等の輸入抑制

 牛肉輸入及び肉用牛の生体輸入について、国内需給及び価格に混乱を生じないよう、抑制指導の措置をとるべきであると思うがどうか。

(4) 輸入制限十二品目

 農産物の残存輸入制限十二品目に対する米国の不当な開放要求への屈服は、北海道農業の多面的発展と生産基盤全体を掘り崩すので行うべきではないと思うがどうか。

二 加工原料乳の限度数量の拡大

(1) 昭和六十年度の過少見積り

 中央酪農会議の生乳需給計画では、加工原料向け需要見込量は二百四十七万トンであるのに、政府は限度数量を二百三十万トンに抑えた。生産者は計画生産オーバー六万八千トンと見込み全乳哺育、特別余乳対策を実施しているが、最近では北海道において七万二千トンの余乳が出る見込みである。
 私は、昨年三月の参議院農林水産委員会で、限度数量枠の拡大を求め、佐藤農林水産大臣は「総合的に勘案、適正に決めたい」と答えた。その後の経過をみると、輸入は史上最高、生産は抑制、そのうえ大幅な余乳による手取り乳価の低下に苦しめられているが、これは政府の限度数量の過少見積りで「適正」な決定ではなかつたからではないのか。
 また、補給金ゼロの乳価を農民に押しつけるのは不当であり、限度数量枠の追加拡大をすべきだと思うが、政府はどう考えるか。

(2) 六十一年度の枠拡大

 北海道酪農協会は加工原料向けとして二百四十五万トンを要望決議している。
 生産者団体は、昨年十二月から生産削減をしているが、中央酪農会議の需給計画で前年度を下回るよう抑えており、国として限度数量の必要枠を拡大し、余乳による低乳価を農民に強いるべきではないと考えるがどうか。

三 生産者乳価引上げと農業経営の再建

(1) 手取り乳価の低下

 「農村物価指数」によると、北海道の生乳農家販売価格(キロ当たり)は、昭和五十八年十二月九一・三円、五十九年十二月八九・五円、六十年十二月八七・九円と、この二年間で三~四円もの実質ダウンとなつている。この点について、政府はどう認識しているか。

(2) 保証乳価の引上げ

 各種奨励金のカット、市乳率の低下、余乳等により、本道生産農民の手取り乳価は低下している。保証乳価の四年すえおきは、国内酪農生産の発展に責任を負う立場ではない。再生産をつぐなえるよう保証乳価の引上げをはかる考えはないのかどうか。

(3) 生産制限による経営困難

 北信連の調査によつても、酪農主産地の宗谷、釧路などの正組合員一人当たりの昨年末借入金(宗谷では前年比三十万円増の千三百八十万円)はかなり増えている。酪農負債整理資金活用農家は、経営改善合理化計画では乳量を毎年五~一〇%ずつ増産することになつているが、昨年暮れからの生産制限はこの前提を狂わせ、資金償還を困難にし、農業経営を危機においこんでいる。
 乳量拡大による増収不能は、諸制度資金の償還を困難にし、その政治責任は史上最高の乳製品輸入などを強行している自民党農政にあるのは明らかである。これによつて経営改善計画の破綻した農家には、政府としてどういう対策をとるのか、明確にされたい。
 更に、農林水産省は昨年十月「今後の酪農負債整理資金対策の進め方について」の通達で、「新たな負債対策を要する場合には、都道府県の責任において自作農維持資金(再建整備資金)の活用を図ること」として、国としての政策展開を放棄し都道府県の責任にしているが、政府として新局面を迎えた農家経営実態を調査し、今後の金融対策を検討すべきであると思うがどうか。

四 牛乳の消費拡大

(1) 還元乳の規制

 昨年の牛乳消費は減少したが、バターと脱脂粉乳等を水で混ぜたいわゆる還元乳は増えている。私は、昨年四月の参議院予算委員会で、還元乳の増により生乳使用率はこの十年で一一%も落ちこんでおり、これによるメーカー利益は六十億円にもなつていることを指摘し、生乳使用率の引上げを求めた。政府は、昭和六十一年度は二十一万トン使用させるよう指導すると約束していたがどうなつたか。実績を明らかにされたい。また、せめて十年前の使用率三五%への復原を早急に実行することは可能と考えるが、どうか。

(2) 保育所など福祉施設等での消費拡大

 発育途上にある幼児の保育所において脱脂粉乳を飲ませている数は約二〇%になる。栄養価豊かな牛乳の消費拡大のため、関連対策事業を拡充するとともに、児童・老人など福祉牛乳がゆきわたるよう、政府として積極策をとる考えはないか。

(3) 学校給食

 かつて国は学校給食普及拡大と、児童・生徒の健全な発達のため、二百CC当たり五円八十銭の助成をしていたが、今は五円に下がつたままである。
 学校給食は、道内飲用乳の一五%を占めており、消費拡大と児童の発育促進のためにも国庫補助金廃止計画をやめて、補助金引上げをはかるべきではないか。また、特に中学校での給食拡大の具体策については、どう考えているのか。

五 配合飼料価格の引下げ

 大蔵省の「日本貿易月表」によれば、輸入飼料のトン当たり平均単価は、昨年十月から急速に低下し、半年前と比較すると十二月で約一万一千円(三五%)も低下している。

図 表

(1) 輸入飼料の引下げ

 生産農民の負担する一トン当たりのバラ価格は、わずか四千円しかダウンしていない。輸入価格の低下が末端小売価格に連動するように、政府として指導すべきであると思うがどうか。

(2) 円高差益の還元

 最近の円相場の高騰は著しいものがあり、昨年九月の二百三十七円が十二月に二百二円、さらにこの二月には百八十円前後となつている。
 これは、トン当たり二千六百円の輸入単価ダウンに相当するものであり、円高差益による不労所得は一カ月で六十二億円となり、これは全農など飼料会社に帰属すべきものではない。これは、ユーザーである農民に還元すべきであると考えるがどうか。
 昨年暮れ、全農は昭和六十年度上半期の単価を二百五円レートと想定して、トン当たり二千七百円を引下げたが、これでは不十分である。期中であつても再引下げをはかるのが妥当ではないのか。また、実勢による利用者還元をはかるべきだと思うがどうか。

(3) 電力料金の引下げ

 規模拡大と省力化など「近代化」の進んだ酪農・畜産農家にとつて、電気代の占める支出割合は年々高くなつている。膨大な円高差益の発生、設備投資の過大見積りなど内部留保の増大分を、農家などユーザーへ還元すべきだと考えるがどうか。もし、還元するつもりなら、その時期と内容について、明らかにされたい。

  右質問する。