質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第二〇号

日米及び日ソの漁業交渉に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年三月十八日

小笠原 貞子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   日米及び日ソの漁業交渉に関する質問主意書

 米ソ両国の二百カイリ水域を主な漁場とするわが国の北洋漁業は、日米及び日ソの漁業交渉で、米国には大幅な譲歩を強要され、ソ連との交渉は難航しているために、北洋ではたらく漁業者や関連業界はもとより、自治体・住民までがかつてない深刻な事態に直面している。
 北洋ではたらく約五万人の漁業労働者と中小漁業者、約二十万人の家族をはじめ関連産業従事者約二十万人の経営とくらしを守り、わが国の漁業でいぜんとして重要な位置を占める北洋漁業に展望をひらくため、屈服と譲歩を繰り返す対米交渉姿勢の根本的転換と、難航している対ソ漁業交渉の一刻も早い妥結のため、政府の責任ある対策が求められている。
 このような観点から、以下の点について質問するので、明確な答弁を求める。

一 地元の窮状と政府のとるべき緊急対策について

 日ソ漁業交渉の難航による出漁不能という事態が、北洋漁業の基地としてソ連水域の漁業に大きく依存している北海道各地の漁港に及ぼしている影響は特に深刻である。このまま放置されるならば、漁業者はもちろん、関連産業、商店をも含む地域経済や自治体財政にまで甚大な打撃が及ぶことは必至である。
 わが党の調査にもとづいて、以下具体的に各地の実情を述べ、政府の対応と見解を求めるものである。

(1) 根室市
 市内就業人口中に占める漁業従事者数の割合は二三%もあり、伝統的に北洋漁業への依存度の高い漁業基地の街である。
 一月だけで、水揚額十二億七千万円、水産加工業三十八億一千万円、関連商業十億円の合計六十億八千万円の被害額(推定)となつている。自殺者も出ており、二~三月の影響は更に大きいことが予想され、「このままでは根室市は沈没する」と関係者は恐れている。
(2) 稚内市
 昨年一~三月期の同市の漁獲高は、三十一億六千万円でしたが、今年は三分の一を大きく割り、加工業者も昨年比半分から三分の一の仕事量しかない状態で、一、二月だけで約二十四億円の被害が予想されている。
 このままでは、中小業者で成り立つている同市の水産加工業界では、倒産の続出が予想されている。
 また二千人ものパート労働者が、一斉に失業保険を受けるなど「戦後こんなに失業者が多かつたことはなかつた」(市議会議長)という事態がすでに始まつている状況である。
(3) 釧路市
 一月の損害額は、水揚額二億二千二百万円、加工生産額九億七千三百万円、直接関連企業二億三千万円、間接損害額七億七千百万円、合計二十一億九千六百万円である。
 二月もほぼ同額の被害が予想されている。
(4) 紋別市
 一~二月の被害額は、関連企業(二十六社)で三億二千四百万円、水産加工業(四十二社)で十四億五千万円の合計十七億七千四百万円が見込まれる。
 以上は、わが党の調査で判明したもので、被害の一部分にすぎない。
 北海道庁において、現在、全道的な被害の実態を調査中であるが、これが明らかになれば、更に被害額が増大することは必至である。
 政府は、北洋ではたらく漁業者と関連業界等の救済のために、一日も早く以下のような具体的措置を実行すべきであると思うがどうか。

[1] 漁業者への休業手当の支給
[2] 水産加工業者へのつなぎ資金の融資
[3] 過去の制度融資の償還延期と超低利・超長期融資への借換え措置
[4] トラック業者への制度融資の創設
[5] 固定資産税の軽減

二 日米交渉について

 三月八日に合意した「日米サケ・マス協議」の内容は、北洋ベーリング公海上での母船式漁業を、八年後の一九九四年までに段階的に禁漁とするというもので、「アメリカの完勝」(三月九日付読売」)といわれる程、日本にとつては屈辱的なものである。
 しかも、サケ・マス問題の未解決を理由に留保されてきた、米国水域内のわが国への漁獲割当量は、最高でも五十万トンと昨年の九十万トンの五十五パーセントにすぎず、減船問題も避けられないという結着では、「ふんだりけつたり」という声が出るのも当然である。

(1) これは、再開される日ソ漁業交渉にも大きな影響を与えると思うが政府の考えはどうか。
(2) 米国側は、科学的な根拠もなく「日米サケ・マス協議」という非公式な場で、不法にも、わが国にサケ・マス沖どり漁業の撤退を迫つてきた。
 わが党は、四月に予定されている「日米加漁業条約」の正規の機関で、北米系サケ・マスの混獲問題について共同調査や科学的分析をすすめ、その結果にもとづいて、今回の「日米サケ・マス非公式協議」で決められた操業規制を再検討すべきであると考えるがどうか。
(3) またサケ・マス問題とは切り離して、日米両国の漁業・水産関係にふさわしい、米国水域における対日漁獲割当量を、米国側に要求すべきだと考えるがどうか。
(4) わが国への漁獲割当量が減少した場合には、国内配分において大洋漁業、日本水産など大企業への割当量を削減し、中小漁業者への割当量をふやし、操業を保障すべきであると考えるがどうか。

三 日ソ漁業交渉について

 日ソ漁業交渉のゆきづまりによつて生じた、ソ連水域への出漁不能という事態は、漁業労働者、中小漁業者はもとより、関連産業従事者並びに関連地域の経済に深刻な打撃を与えている。
 わが党は、二月二十六日、金子満広書記局長が、ソ連のカメンツェフ漁業相に会つて、「交渉の早急な解決」を要望したところである。事態は一刻の猶予も許さない状況である。
 以下の点について、政府の明確な答弁を求める。

(1) わが国が求めている「昨年なみの割り当て漁獲量と操業条件」は、道理にかなつた当然の要求である。
 これについては、ソ連が「等量主義」を理由に、自国の漁獲能力レベルに合わせた漁獲量や操業条件を交渉の前提にしていることこそ、道理に合わないものである。政府はスジの通つた解決の努力をすべきだと思うがどうか。
(2) ソ連側の要求に対して、みるべき対策をとらず、ソ連側に譲歩だけ求めても真の解決にはならない。
 次の点について政府の具体的な考えを伺いたい。

(イ) 漁業協力金について

 特に中小漁業者の負担を軽くする助成措置を考えるべきこと

(ロ) ソ連漁船の寄港問題について

 効果ある右翼の暴力行為の取締り

(ハ) 日本漁船の違反操業問題を根絶するための具体的措置について

(3) 日ソ漁業交渉難航の根底に、日米安保条約の問題が存在することは、否定できない事実である。
 米国の世界戦略に加担して、対ソ脅迫と核軍拡を推進する自民党政治が、日ソ漁業交渉の解決を妨げているといつても過言ではない。
 真に北洋漁業問題を解決するためには、オホーツク海を「シーレーン防衛」の対象にするような、日米軍事同盟強化の方向ではなく、非同盟・中立の自主的平和的外交への転換こそが強く求められていると思うがどうか。

  右質問する。