質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第一五号

高速道路建設・排気ガス汚染問題と肺がん予防に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年三月四日

上田 耕一郎   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   高速道路建設・排気ガス汚染問題と肺がん予防に関する質問主意書

 戦前、きわめて少なかつた肺がんは、戦後、急増しており、がんのなかでの死亡率は胃がんについで第二位をしめている。
 排気ガスと肺がん発生の因果関係の問題に関して、環境庁の依頼で行つた結核予防会結核研究所の研究(昭和六十年大気汚染学会発表)で「ディーゼル車の排気ガスをラットに二年以上吸わせると、四匹に一匹の割合で肺の悪性腫ようが発生」することが判明したことは、今後の予防対策に重要な示唆を与えるものである。
 もちろん、肺がんの発生因子は、複雑であつて単純化はできないにしても、「ディーゼル車の排気ガスを規制して大気汚染の追放につとめる」ならば、肺がんの予防に大きな効果をあげるであろうことは明らかである。
 ところが、各省庁間で、この問題に対する施策の食い違いがみうけられるので、政府としての責任ある見解を示していただきたい。以下、具体的に質問する。

一 排気ガスの規制について

(1) 前文でふれた環境庁の委託で行われた結核研究所の研究について、その結果を明らかにされたい。
(2) 環境庁自動車公害課は、「発がん性物質については、点検の対象になつていない。排気ガス規制については、今までも時々規制を行つているので、それで十分と思う」旨の見解に立ち、肺がんの予防、長距離トラックの噴射弁の違法行為に対する規制の定期実施などの必要性は認めていないようにみられるが、そのとおりか。
(3) 厚生省のがんに対する取り組み方として、例えば、医薬品でがんが発生すると、薬事法施行規則第六十二条の二により、厚生大臣に報告され、副作用委員会にかけられ、その結果、発がんが明らかになつた場合は、例えどんな効果ある医薬品であつても、発売中止となる。発がん物質は、例え微量であつても体内で蓄積されてがんを発生させるので、こうした厚生省当局の施策は当然のことである。発がん性の環境汚染物質は、いや応なく人間の体内にとりこまれるので、医薬品同様の厳格な対応をすべきと考えるがどうか。

二 ディーゼル車問題について

(1) ベンツピレンは、ディーゼル車の排気ガスの中に、ガソリン車のそれより約千倍も多く存在するといわれるが、どうか。
(2) ベンツピレン・ニトロピレンは発がん性の物質である、との研究結果が報告されているが、政府の見解はどうか。
(3) ディーゼル車の排気ガスの規制対策を急ぐべきであると考えるが、どうか。
(4) ディーゼル車は、燃料代が安いこともあつて急増しているといわれるが、最近十年間における台数の推移は、乗用車、トラックのそれぞれについてどのようになつてきたか。また、増加一方のこの傾向に対して、自動車関連税制の見直しを考える必要はないか。

三 道路建設による排気ガスの増加について

(1) 都内では、首都高速道路公団による高速道路王子線(北・板橋区など)、道路公団による外環道路(練馬区)や首都圏中央連絡道路など、高速道路の建設を計画しているが、例えば王子線の場合のように公団・都による環境アセスメントでは、「影響が少ない」などの記述が列記されているだけで、沿道に住んでいる一万人以上の公害患者に対する影響評価あるいは疫学的調査を実施する計画すらないのは、どういう理由か。
(2) また、王子線の場合のように、発がん物質であるベンツピレンを含む排気ガスをもつとも大量にまき散らす、とされている道路構造(高架二段、下が主要道路である明治通り)を採用したのはどういう理由か。

四 代替エネルギーについて

(1) 軽油に代わる燃料で完全に燃焼するメタノール車の開発が急がれるところであるが、運輸、環境、通産の各省ですでに着手されているとのことだが、実用化の見込みはいつか。
(2) メタノール車の実用化普及対策として、税制その他の面で、どのような措置を予定しているか。

五 対がん十カ年計画の推進について

 内閣は対がん十カ年計画を推進中であるが、肺がんの予防に関してどのような施策を行おうとしているのか。また、以上述べた各項目について今後の施策に取り入れる考えがあるかどうか、中曽根内閣の見解を伺いたい。

  右質問する。