質問主意書

第104回国会(常会)

質問主意書


質問第四号

四国ドック株式会社の労使紛争に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年十二月二十四日

寺田 熊雄   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   四国ドック株式会社の労使紛争に関する質問主意書

 高松市朝日町所在の四国ドック株式会社(以下、単に「会社」という。)では、昭和五十五年五月、親会社たる三井造船株式会社常務取締役たりし河面良治氏が社長に就任して以来現在まで、自己の好まざる労働組合の壊滅をめざす露骨な不当労働行為が継続して行われ、労使紛争が絶えない。
 会社には、総評所属の全日本造船機械労働組合四国ドック分会(以下、単に「分会」という。)と、第二組合たる同盟所属の全国造船機械労働組合連合会四国ドック労働組合(以下、単に「第二組合」という。)とが併存するが、河面社長は、第二組合を礼賛する一方、分会を論難し、昭和五十七年以降、毎年、春闘時の賃上げや夏季及び年末一時金要求に対して、殊更、分会が受け入れ難いことが予測される労使関係協定書の改定や新協約を前提条件として提案し、分会がこの前提条件を受諾しない限り、賃上げや一時金に関する協定を結ばないというかたくなな態度をとり続けたばかりか、分会との団体交渉をも拒否する戦術をとつている。
 一方、第二組合は、常に労使関係協定書に関する会社提案を受諾するため、賃上げ及び一時金についての協定が難無く成立して、その組合員が新賃金及び一時金の支払を受けるのに反し、分会所属組合員は、毎年、数カ月遅れて支払を受ける差別的取扱いのパターンが続き、生活に窮する分会組合員の離脱現象が生じている。
 かかる事態にかんがみ、政府は、次の事項を明らかにされたい。

一 政府は、かくのごとき陰惨なる労使紛争の実体を把握しているのかどうか。もし、把握していなければ、速やかに調査の上、その経過と現状を明らかにされたい。

二 企業内に二つの労働組合が併存する場合、企業が賃上げや一時金について一方の労働組合が受け入れ難いことが予測される前提条件を提示して譲らず、そのため、これらに関する協定が容易に成立しないのに反し、もう一方の労働組合は右の前提条件を受諾して団体交渉を妥結させ、いち早く賃上げや一時金協定を締結するため、これら給与の支払について両組合員間に差異を生じ、一方の組合員らに深刻な生活上の困難を生ぜしめるような労務対策は明らかに不当労働行為であると考えられるがどうか。また、このようなケースについての最高裁判所の判例があれば示されたい。

三 政府は、右に述べた陰惨なる労使紛争や露骨な不当労働行為については、適切な指導を行い、その速やかな是正を図るべきであると考えるがどうか。

四 会社が、昭和五十六年中、賃上げや一時金に関する協定締結の前提条件とし、分会がやむなくこれを受諾したものに、土曜を休日とする週休二日制の実施と引換えに他の就労日の労働時間を七時間五分から八時間に、休憩時間を四十五分から六十分に、拘束時間を八時間から九時間にそれぞれ延長した上、さらに従来の休日を一日減らすこととする労働条件の変更があり、そのため、年間の総労働時間がふえるという結果を招来した事実があつたのではないか。
 そうとすると、週休二日制の実施と引換えに年間の総労働時間を増加せしめるような労務対策は、さらぬだにわが国労働者の労働時間が他の先進諸国に比して、著しく長いという国際的批判にかんがみ、労働時間の短縮をめざす政府の指導方針に反するのでないか。政府の率直な見解を伺いたい。

五 会社は、就業時間五分前に音楽を流し、管理職を動員し、自由参加という名目の下に、事実上、従業員に就業時間外の体操を強要しているのではないか。政府は、この様な事実について承知しているか。

六 会社は、従業員に対し、昼休みは十二時のサイレンが鳴つてから作業を止め、然る後、ガス・酸素・電気などを止めさせてから食堂に行くことを許し、午後は、十三時から就業という規則にもかかわらず、クレーン職場のごときは第二組合職制の指導下に、任意のサービス労働と称して就業時の十数分前から作業に就かしめ、終業は十七時のサイレンが鳴るまで作業するよう強要し、それ以後電源を切り、ガスボンベのバルブを締め、長さ三十メートル以上の二本のホースを仕舞う作業を行つて後帰宅させるため、労働時間は事実上八時間を超え、休憩時間も一時間より短縮を余儀なくされている。
 かくのごとき労務管理は、明らかに労働基準法に違反するのではないか。現地の労働基準監督署は、任意の労務提供であれば法に違反しないという解釈をとつていると聞くが、経営者に比し弱い立場に在る労働者に、自発的とか任意とかいう名目をもつて、継続的に就業時間外の労務提供をなさしめることを許しては、強行法たる労働基準法は事実上骨抜きになつてしまうのではないか。
 また、かかる封建的労務管理が日本企業の実体であることが外国に報道せられれば、日本の後進性の証左として一層国際的批判を招くのではないか。政府の所見を明らかにされたい。

七 分会は、不合理きわまる会社の団交拒否にかんがみ、総評その他の者に団交の権限を委任し、数度にわたる地労委の斡旋により、昭和五十九年十二月七日、ようやく会社と労使関係協定書を締結した。
 この協定書は、組合活動は原則として就業時間外に行うものとしつつも、ただし書により、「執行委員が労使協議会および団体交渉に出席する場合などはこの限りでない。」という例外規定を置いている。
 それにもかかわらず、会社は、分会との就業時間中の団体交渉を拒否しつづけ、その理由として、「業務多忙」を挙げている。
 そのため、分会は、会社との間に、賃上げはもちろん、夏季及び年末一時金の協定が結べないのに反し、他方、第二組合は会社のいうがままに就業時間外に団交を行い、さつさとこれらに関する協定を結んだ関係上、分会組合員と第二組合員との間には、賃金や一時金の支払に関する著しい差別を生じ、分会組合員に動揺を生じている。
 わが国企業の多くが労働組合と賃上げや一時金の交渉を行うのは就業時間内であるというのが、我々の認識であるが、政府はその実態をどのように把握しているか、明らかにされたい。
 また、会社が、多忙を理由に就業時間内の団体交渉を一年近くも拒否し続け、賃上げや一時金に関する協定の締結を不可能にする労務対策をとつていることは、陰湿な組合いじめ以外の何物でもないと考えるが、政府の率直な見解を伺いたい。

八 およそ地労委に対し不当労働行為の申立を行つたり、団体交渉の斡旋申請をしたりすることは、労働組合の正当な行為と目されるから、地労委の調査、審問等に当たり組合が何名の役員を出頭せしめるかは、社会通念に反して著しく多数の者を出頭せしめるような場合は別として、組合が自主的に決定する問題であると考えるがどうか。政府の見解を承りたい。
 然るに、会社は、従来六名の分会役員が出頭するのを認めた事例さえあるにもかかわらず、昭和六十年四月、分会が地労委の不当労働行為審査事件の調査の日に四名の執行委員を出頭せしめんとして許可を求めるや、これを三名にするよう強硬に主張して許可をなさず、四名が地労委に出頭するや全員を無断職場離脱を行つたものとして皆勤手当カットを行い、さらに、分会が陳謝しない限り地労委の審問に三名が出頭することさえも許可せず、審問を終えて帰社しても入門させないという非常識きわまる処置をとつた。まさに学校における「いじめ」と異ならない。
 政府は、かかる企業の組合いじめについて、速やかに実情を把握して報告されたい。
 また、かかる組合いじめについては、適切な行政指導を行うべきではないか。政府の所見を伺いたい。

九 会社は、さらに、昭和六十年九月、労使関係協定書に違反した就業規則の改定を行い、一方的に実施するという理不尽な措置をとつたといわれるが、その事実を明らかにされたい。

十 右に述べたような不当労働行為により分会が賃上げ及び一時金協定を締結し得ないため、会社は、分会組合員が定年退職する場合、賃上げ前の給与による退職金を支払い、離職証明書の記載も旧賃金で行うなど、退職者についても嫌がらせを行い、以て、分会の弱体化を図つているといわれるが、その実態を明らかにされたい。

十一 その他、会社は、昭和五十九年十二月締結の労使関係協定書を一方的に破棄して分会の組合活動を禁止又は制限するばかりか、組合事務所の貸与、構内掲示板の設置、組合員のチェック・オフなどの便宜供与を打ち切るなど、第二組合との間に著しい差別を行い、以て、分会の弱体化を図りつつあるといわれるが、その実態を明らかにせられたい。

十二 会社は、分会執行委員が会社の職制に対し、労使協議会の開催申入れを行い、その交渉がたまたま就業時間に及んだことを理由に、執行委員を五日間の出勤停止にするという非常識きわまる処置をとつたといわれるが、その実態を明らかにされたい。

十三 地労委は労働者の団結権、団体交渉権、その他の団体行動権を擁護することを主要な任務とする機関であるにもかかわらず、現実には、会社の右に述べたような不合理且つ残忍な組合対策や不当労働行為に対しては、殆んど有効な対策を講じ得ないのが実情である。
 昭和二十四年までは、不当労働行為は労働組合法によつて犯罪とせられ、地労委の活動いかんによつては、それはきびしい禁圧を受けたが、その後の法改正により、それは民事上の不法行為に過ぎぬものとなつた。以来、その救済手続には長い年月を要し、公益委員がこれに時間と労力を費やすことが困難となり、不当労働行為救済の意欲さえも失いつつあるのが実状である。
 従つて、憲法第二十八条の規定が実際に機能するよう不当労働行為に対する速やかな是正措置を可能とする法改正を検討すべきではないか。政府の見解を伺いたい。

十四 わが国が世界のGNPの一割を超える経済大国になつたことは喜ぶべきであるが、その陰に、労働者に対する長時間労働の強制、不当労働行為や陰湿な組合いじめによる使用者の好まざる労働組合壊滅工作と御用組合育成策とが広く行われていることは、先進諸国の批判と蔑視とを招くものと考える。
 政府は、この点に留意し、資本家に気兼ねせず、近代的労使関係実現のため、熱意をもつて行政指導を行うべきであると考えるが、これについて政府の率直な見解を伺いたい。

  右質問する。