質問主意書

第103回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

奄美群島の振興に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  昭和六十年十一月二十八日

下田 京子   
市川 正一   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   奄美群島の振興に関する質問主意書

 政府は、奄美群島に対して昭和二十九年以来、国の特別措置に基づく復興・振興・振興開発の事業を進めてきた。
 しかし、群島住民の一人当たり所得は、全国平均の七割を下回る水準で、人口の減少、高齢化も進み、さらに、農林漁業や大島紬、観光など、地域の基幹産業が停滞し、このままでは本土との格差が是正されるどころか、広がることは必至である。
 こうしたおくれた地域に対し、国の手厚い援助によつて振興し、住民生活の安定と向上を図ることは、つりあいのとれた日本経済の発展にとつても重要な課題である。同時に、この開発が、亜熱帯地域に位置し、美しい自然に恵まれているという特性を真にいかしてこそ、奄美群島の豊かな発展が保障されると考え、以下、当面する奄美群島の振興に関連して質問する。

一 奄美群島振興予算の拡充について

(1) 新奄美群島振興開発計画(昭和五十九年六月十三日、内閣総理大臣決定、以下「新開発計画」という。)がスタートして以来、奄美群島振興開発事業関係予算は、年々削減され、六十一年度概算要求においても、前年度比一億千三百万円減となつている。
 「新開発計画」によれば、「計画の推進に必要な行財政・金融に関する有効適切な特別措置を積極的に講ずる」とあり、予算削減はこの総理決定にも反するものと考える。本土との「所得格差是正」目標達成のためには、奄美振興事業関係予算の拡充が不可欠と考えるがどうか。
 また、予算の重点を、農林漁業、農水産加工、大島紬、黒糖酒、観光など、地場産業を振興し、所得向上につながる諸対策に向けるべきと考えるがどうか。
(2) 「新開発計画」において、「特に厳しい自然的、社会的条件下にある」としている大島南部地域及び加計呂麻島地域について、他地域と均衡のとれた地域社会の形成のため、特別に交通・産業基盤の整備を推進することが重要と考えるがどうか。
 この南部大島の振興・開発は、石油企業、原子力船「むつ」母港化、核燃料再処理工場、低レベルの放射線の廃棄物を含む産業廃棄物の施設、自衛隊の一個師団の誘致など、公害のおそれや平和をおびやかすものであつてはならない。地道ではあつても、この地域の美しい豊かな自然をいかした、農林水産業をはじめ地場産業の総合的振興を図るべきと考えるがどうか。

二 海洋の赤土汚染防止等について

(1) 奄美の振興開発の大原則は、公害のない、美しい自然環境を保全するものでなければならない。
 ところが、徳之島をはじめ奄美群島周辺海域では、赤土汚染が広がり、沿岸漁場で豊富にとれていた多種多様の魚も激減し、漁民の生活と営業を圧迫し、観光にも深刻な影響を与えている。
 徳之島では、昭和五十一年からの徳之島町神嶺地区県営畑地帯総合整備事業がはじまつたときから赤土汚染が表面化したといわれており、こうした開発行為が赤土汚染の根本原因であると考えるがどうか。
(2) これ以上汚染が進めば、“半ば死にかけている海が完全に死んでしまう”危険性が強い。
従つて、これを未然に防ぎ、開発のツケを海にまわさないために、第一に、海洋汚染の実態調査を早急に実施すべきと考えるがどうか。
 第二に、微細な赤土粒子の流出防止対策は、川に流れる前の流出源で講ずることが最も重要かつ効果的である。従つて、今後の開発行為については、設計の段階から万全な赤土流出防止対策をおりこみ、しかも、防止工事を先行させることが重要である。また、こうした防止工事に伴う地元負担については、その軽減のため国の特別の財政援助を検討すべきと考えるがどうか。
 第三に、現に汚染されている海域について、その海域の地形条件等に合わせた浄化技術を確立し、きれいな海を取り戻す積極策をとるべきと考えるがどうか。
(3) 赤土汚染によるサンゴの死滅とともに、サンゴをガンのようにむしばみ死滅させる“黒い病気”(黒いサンゴ)が、日本で初めて徳之島沿岸で発見され、感染が急速に広がり、このまま放置すると奄美群島のサンゴは全滅する恐れが生じている。
 この「黒いサンゴ」の発生原因を早急に究明し、根本的対策を講ずるべきと考えるがどうか。
 また、奄美群島国定公園に指定されている瀬戸内海中公園のサンゴは、数年前にほぼ全滅の状態にあり、大島海峡一帯のサンゴも壊滅的な状態にあることが明らかにされている。
 「きらめく太陽、かがやくサンゴ」と、奄美群島の美しい自然の象徴とされ、貴重な観光資源であり、優良な漁場を形成しているサンゴを保護するため、五つの海中公園を含めた周辺海域のサンゴ被害の実態を調査し、残るサンゴの徹底した保護策をとるべきであると考えるがどうか。
(4) 赤土汚染による沿岸漁業(定置網等)の被害について、実態を調査し、国及び県の責任において、その被害を補償すべきと考えるがどうか。
 また、奄美群島の水産業振興のため、漁獲高増につながる浮き漁礁設置に国の助成策をとるとともに、並型・大型漁礁設置事業を積極的に進めるべきと考えるがどうか。

三 徳之島地区国営農地開発事業について

(1) 徳之島では、全国の離島では初めての大規模な国営農地開発事業が計画されている。
 農業所得を向上させ、真に農家経営の安定に役立つ農地開発が必要である。同時に、この開発が、現に深刻化している海洋汚染を進行させ、漁業や観光等に打撃を与えるものであつてはならない。
 その点で、第一に、海洋汚染の実態調査を開発に先行して実施し、実効ある赤土流出防止対策をとること。
 第二に、徳之島は、二万五千ヘクタールという小さな、しかも林野率四十六パーセント(昭和五十七年度)という林野の少ない島である。ここで、千七百ヘクタール余(島の六・八パーセントにあたる)の開発、うち伐採する山林が千三百ヘクタールという今回の開発は、自然環境に大きな変化を与えることは必至である。
 従つて、「新開発計画」でも、「環境影響評価等を行うこと等により、公害の防止、及び自然環境の保全について適切な考慮を払う必要がある」と指摘しているように、災害や公害を防止するため、総合的な環境アセスメントを実施すること。
 第三に、受益者である農民はもとより、漁業者、観光業者等、住民の意向を十分くみつくすこと。以上の三点が、開発の大前提となるべきと考えるがどうか。
(2) 会計検査院が六十年度の検査として農用地開発事業を調査した結果、造成農地が未利用になつているなど、事業効果が発現していない事態を指摘している。同じ誤ちを繰り返さないため、受益農家の参加のもと、行政、農業関係団体、専門家の英知を結集して、受益農家の実情や徳之島の特性に適した、現実性のある営農計画を基盤整備に先行して策定することが必要と考えるがどうか。
(3) 特に、導入作物の中心であるサトウキビについて、砂糖の需給事情等を理由に増反にブレーキがかけられているときくが、希望する面積の作付けが可能なのかどうか。
(4) サトウキビの生産者価格は、二年連続据置きが強行されたが、これでは、「農地は造成されたが、農業経営は悪化し、借金だけが残つた」ということになりかねない。従つて、この開発の成否も、今後サトウキビの生産者価格が適正に引き上げられるかどうかに大きくかかつているといつても過言ではない。政府として、責任ある価格対策を明示すべきと考えるがどうか。
(5) また、野菜、果実等の流通、販売対策、機械や施設の整備、後継者育成のための営農、生活両面での資金対策、営農指導体制の整備など、積極的な助成策を基盤整備と合わせて具体化すべきと考えるがどうか。

四 大島紬の危機打開のために

 奄美の基幹産業である大島紬は、長期にわたる消費不況のなかで営業と生活は深刻になつている。今年に入つて、大島紬の荷動きが鈍り、在庫増、減産に追い込まれ、半失業状態の締工、加工者が増え、織賃などの加工賃の引下げで、紬従事者は苦境にたたされている。生産業者は、止まるところを知らない価格の下落で途方にくれ、誂え業者も返品、手形サイトの長期化など取引条件の悪化で苦慮している。就業人口の三分の一は紬に関連している奄美群島では、この盛衰が地域経済の生死を決するといつても過言ではなく、早急な対策が求められている。
 また、この不況の要因の一つに、韓国産大島紬の大量輸入があることは明らかである。業界の韓国での調査によれば、韓国内に締め染め、摺り込み、織りまで一貫生産体制ができあがり、年間二十万反以上の生産がおこなわれており、その全量が日本に輸出されている。日韓両国には現在、協定によつて、年間三万六千反の枠が設けられているが、「紳士協定」であるため、これが遵守されておらず、また、みやげ品など、事実上、韓国紬の日本への持込みは放置されているといつても過言ではない。従つて、二国間協議の枠を守らせるため、強制力のある行政協定にする等、効果的な韓国紬の流入規制を図ることが緊急に求められている。
 そこで、当面以下の対策をとる必要があると考えるので、政府の見解を求めたい。

(1) 織賃や締めなどの加工賃の引下げに歯どめをかけるため、従事者代表、業者代表、関係行政機関の代表などによる協議機関を設けて適正工賃を設定してはどうか。
(2) 紬従業者の生活つなぎ資金を確保するため、手続の簡単な超低利の特別融資制度を設けてはどうか。
(3) 問屋の一方的な価格決定、不当な値引きや返品など不公正な取引をやめさせ、手形サイトの短縮など取引条件を改善するよう関係業界を指導すべきではないか。
(4) 既応借入金の返済猶予を図るとともに、利子を引き下げるなど、返済条件の緩和を図る必要があると考えるがどうか。
(5) 日韓両国の二国間協定で紬の輸入枠三万六千反を守らせるため、現行の「紳士協定」を拘束力のある「行政協定」に改めるとともに、協定数量が守られているかどうか確認するためのチェック体制を確立すべきではないか。
(6) 中小企業基本法第二十二条に基づく輸入制限のための緊急措置をとるべきではないか。

五 航空運賃の割引制度について

 最近、航空運賃の各種割引制度の見直しがおこなわれ、特に、団体包括旅行割引制度(GIT)が北海道、九州路線に新設、沖縄について割引率の拡大が実施された。
 しかし、奄美群島は、今回もこのGITの適用から除外され、現在ですら東京、大阪から奄美群島への航空運賃は、奄美より遠距離にある沖縄までの方がかえつて安いという「逆転現象」があり、これが一層拡大された。
 こうした運賃体系の不合理もあつて、奄美群島への航空機利用の観光客等は年々減少し奄美経済の不況を深刻化させている大きな要因の一つとなつている。
 奄美の中心産業の一つである観光業の振興のためには、こうした運賃体系の是正が早急に講じられるべきと考えるがどうか。
 具体的に、宿泊や観光等の地上サービスと結びついたGITを、東京、大阪から奄美群島の各路線にも適用するとともに、特別乗継割引運賃制度の見直しを図るべきと考えるがどうか。

  右質問する。