質問主意書

第103回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

靖国問題の基本的認識に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年十月十四日

秦 豊   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   靖国問題の基本的認識に関する質問主意書

 去る八月十五日、中曽根総理はじめ多数の閣僚が、靖国神社への公式参拝を強行したが、果たせるかな、日本政府の予想を遥かに超えた厳しい反発が内外で巻き起つている。
 よつて、次の諸点について政府側の基本的認識を伺いたい。

一 そもそも内閣官房長官の私的諮問機関たる「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」に、靖国問題と憲法の解釈についての有権的な結論を打ち出す資格があるのか。

二 昭和五十五年十一月十七日に出された靖国神社公式参拝に関する政府統一見解、即ち、公式参拝が違憲ではないかとの疑いをなお否定できないとする公式見解は、いつ、どういう形式で変更されたのか。

三 政府統一見解が変更されていないとすれば、内閣法制局が中心となつてまとめた公的見解を、一私的諮問機関たる靖国懇の単なる報告書が乗り越えたことになる。新たな閣議決定もなく、公式参拝を敢えて強行した目的と理由、判断の根拠について伺いたい。

四 総理並びに閣僚の靖国公式参拝は、まず憲法第二十条第三項、また憲法第九九条に明らかに違反するとの指摘に対しては、どう答えるのか。

五 去る七月二十七日、軽井沢で行われた自民党セミナーで、中曽根総理は、「米国にはアーリントンがある。ソ連へ行つても、外国へ行つても無名戦士の墓であるとか、そのほか国のために倒れた人に対して国民が感謝を捧げる場所がある。それは当然なことであります。さもなくして、誰が国に命を捧げるか。」等と発言されているが、政府は、アーリントン墓地と靖国神社を同列のもの、同じ性格のものと認識しているのか。

六 純粋に上官の命令に従い、国のために倒れた人々のための無名戦士の墓と、明らかに誤つた戦争を指導したA級戦犯を合祀した靖国神社とを、何故同列にとらえるのか。

七 政府は、日本による侵略戦争の責任を追及した極東軍事裁判総体について、基本的な面で疑義を有しているのか。

八 去る八月十五日の英国BBCテレビは、「中曽根総理の靖国公式参拝は、日本が第二次大戦のことをもはや恥じないという姿勢を示したもの」と論評しているが、このような論調に対してはどう考えるか。

九 去る八月二十一日、中国の新華社通信は、「公式参拝は、日本軍国主義が起こした侵略戦争の性質をあいまいにし、中国人民とアジア各国人民の感情を傷つけるものである。また、この公式参拝は、日本軍国主義の名誉回復を図ろうとする思潮に迎合し、これを助長するものである。」と論じているが、このような論旨は、中国側の誤解と偏見なのか。

十 また、八月十八日、北京大学生による抗議デモが行われたが、これについて、中国要人、例えば胡啓立政治局員などは、「彼らの行為は理解できる。」と肯定的な発言をしている。政府は、抗議デモ並びにその後の中国側の反応については、どのように認識しているのか。

十一 中国側の反応を一過性のものとみなしたり、あるいは、一部の扇動による偶発的なものととらえることは、適当ではあるまい。今後、中国に対しては具体的にどのような対応をするのか。

十二 ASEAN各国の靖国問題に対する反応には、どのような対応をするのか。

十三 先に行われたレーガン大統領の西独ビットブルク墓地参拝は、戦死者のなかにナチス親衛隊員十名が含まれていたため、国際的な非難の対象となつた。
 靖国神社への公式参拝が、同じように、戦争犯罪や戦争の性格をめぐつて、共通した批判を受けるとは考えないのか。

十四 政府は、靖国神社に合祀されているA級戦犯は、故なくして罪に問われたものとしているのか。それとも、明らかに戦争責任を有する者とみなしているのか。

十五 公式参拝によつて、A級戦犯は復権されたのか。

十六 先年のレーガン大統領訪日の際、政府は、靖国神社への参拝を打診したことがあるのか。

十七 政府は、今後とも、総理並びに閣僚の公式参拝を定着させる考えか。

十八 来年五月に行われる東京サミットでは、各国の元首等に対して靖国神社への参拝を要請する考えか。

十九 将来は自衛隊の殉職者も合祀すべきだと考えているのか。

二十 中曽根総理のいわゆる「戦後の総決算」路線の中では、靖国公式参拝問題は、どのような意味合いを有するのか。中曽根政治の理念にかかわる重大性を有しているのか。

  右質問する。