質問主意書

第102回国会(常会)

答弁書


答弁書第六〇号

内閣参質一〇二第六〇号

  昭和六十年七月五日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員小笠原貞子君提出中標津空港におけるYS-11型機事故調査に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員小笠原貞子君提出中標津空港におけるYS-11型機事故調査に関する質問に対する答弁書

一について

 事故機には、米国のサンドストランド・データ・コントロール社製FA-五四二型飛行記録装置(FDR)が装備されており、その許容誤差については、米連邦航空局が制定した技術基準に定められている。また、我が国もこの技術基準によることとなつている。
 御質問の許容誤差は、次のとおりである。

(イ) 高度一〇〇〇フィート以下の場合 プラスマイナス一〇〇フィート
(ロ) 対気速度一〇〇ノットの場合 プラスマイナス一〇ノット
(ハ) 機首方位 プラスマイナス二度
(ニ) 垂直加速度 プラスマイナス〇・二G

 事故機のFDRは無傷で回収されたので、専用の較正装置を用いてすべての記録要素についての較正を行い、この較正値によつて記録を読み取り、必要な補正を行つた。
 したがつて、これらの記録に許容誤差を考慮する必要はない。なお、較正装置の精度は、(イ)についてはプラスマイナス三フィート、(ロ)についてはプラスマイナス一・五ノット、(ハ)についてはプラスマイナス〇・二度及び(ニ)についてはプラスマイナス〇・〇八Gである。

二について

(一) 墜落直前の事故機は、着陸装置を下げ、かつ、フラップ角を三五度としているため、着陸復行時の着陸装置を上げ、かつ、フラップ角を一〇度としている場合に比べ空力騒音が大きい。このため、プロペラ騒音のレベルが変わらなくても、墜落直前は着陸復行時より全体の騒音レベルが大きくなる。この際、自動感度調整装置(ALC)が働き、全騒音の録音レベルがほぼ等しくなるので、墜落直前には録音されたプロペラ騒音のレベルが小さくなる。
 したがつて、操縦室用音声記録装置(CVR)に録音されたプロペラ騒音は、着陸復行時においては比較的良く聞こえるが、墜落直前においては聞こえにくくなる。
(二) ALCとは、CVRの録音レベルを適正に保つため、エリア・マイクからの入力音量を自動的に制御する電子回路である。自動利得調整装置(AGC)又は自動音量調整装置(AVC)ともいう。
 事故機のALCは、三〇デシベル以上の音量が入力されると最大音量がほぼ三〇デシベルとなるように全体的にレベルを低下させる機能を有している。

三について

(一) 二番ブレードには、ピッチ上げの方向への残留変形が計測されている。また、当該ブレードのアイボルト・スリーブ・スタッド及びオペレイティング・リンクは、引張応力により破壊し、オペレイティング・ピンの角は高ピッチ側のハブ・センターに強く食い込み、オペレイティング・ピン取付けボルト一〇本及びダウエル・ピンは、ブレードが高ピッチになる方向でせん断していた(昭和五十九年十月十八日航空事故調査報告書五十九ページ参照)。
 以上から、二番ブレードにピッチ上げの方向にねじる力が加わつたことは明白である。
(二) オペレイティング・ピンがハブ・センターに最初に接触する時のブレードのピッチ角度は八七・五度である。この時のアイボルト・スリーブ・フランジとシリンダ底面との間隔は〇・九ミリメートルであり、これは、事故機のプロペラを製作した英国のダウティ・ロートル社の資料によれば約〇・九度に相当するので、アイボルト・スリーブ・フランジがシリンダ底面に底付きする時のブレードのピッチ角度は、約八八・四度と考えられる。
(三) (一)及び(二)において述べたことから、二番ブレード・ピッチ変更機構の破壊過程は、次のように推定される。
 それまで正常であつたピッチ角度が接雪により深くなり、まずアイボルト・スリーブ・スタッドが引き抜け、次にピッチ角度八七・五度でオペレイティング・ピンの角がハブ・センターに接触し、強く押し付けられ食い込んでいつた。その食い込みによりピッチ角度が更に深くなり、約八八・四度でアイボルト・スリーブ・フランジがシリンダ底面に底付きし、オペレイティング・リンクが引張り破断した。更にピッチ上げ方向の力がブレードに加わつたため、オペレイティング・ピン取付けボルト及びダウエル・ピンがせん断により破断した。
 航空事故調査報告書六十四ページは、この破断経過を述べたものである。

四について

 二か所の光つて見える部分については、表面が銅メッキされている部分であり、ロッキング・セグメントを締めつけたために生じた通常の当たり面と認められる。

五について

 CVRの周波数分析の実施場所及び使用機材は、次表のとおりである。なお、周波数分析の実施に当たつては、特段の費用は生じていない。

図 表