質問主意書

第102回国会(常会)

答弁書


答弁書第四八号

内閣参質一〇二第四八号

  昭和六十年七月二十三日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員秦豊君提出大韓航空機事件についての様々な疑問に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出大韓航空機事件についての様々な疑問に関する質問に対する答弁書

一、二及び四について

 大韓航空機のトランスポンダーの応答波一三〇〇は、自衛隊のレーダーが同機の航跡を捕捉した際に付随して受信したものであるが、同応答波を受信していた時刻等は、記録上明らかではない。
 なお、同応答波は、モード3/Aの質問波に対し得られたものである。

三について

 本件に関するレーダー記録は、三沢の防空管制指令所で総合処理されたものであり、各レーダーサイトごとの探知状況は示されていない。

五及び四十四について

 自衛隊のレーダー記録上、大韓航空機のものと思われる航跡が消滅したのは、午前三時二十九分である。同記録上、午前三時二十九分における大韓航空機の位置は、北緯四十六度三十分、東経百四十一度十五分であり、稚内及び網走の各レーダーサイトから同位置までの平面的直線距離は、それぞれ約百三十キロメートル及び約三百六十キロメートルである。
 なお、大韓航空機の位置の変化についての自衛隊のレーダー記録を詳細に公表することは差し控えたい。

六について

 レーダーの設置地点の海抜は、レーダーの探知距離に関係する事柄であるので、公表することは差し控えたい。

七について

 御指摘の時刻、場所において、逆転層が存在していたか否かについては、承知していない。

八及び九について

 御指摘の昭和四十三年七月一日現在の在職者名等は次のとおりであるが、DC8型機に係る自衛隊のレーダーの探知状況等については、記録が残つておらず、不明である。

図 表

十及び三十について

 御指摘の昭和四十三年七月一日及び昭和五十八年九月一日の個々の業務を実施した運輸省職員及び自衛隊員については、それぞれ組織の一員としてその担当する業務を実施したものであり、氏名等を公表することは差し控えたい。

十一について

 MIG-23の可能性があると判断しているが、現在においても撃墜機の機種を断定することはできない。

十二について

 ソ連軍オガルコフ参謀総長が昭和五十八年九月九日の記者会見で使用した航跡図及びソ連側が国際民間航空機関(ICAO)に提出した航跡図は、大韓航空機がサハリン東方で右旋回を行つたことを示していると承知しているが、その事実関係については承知していない。

十三について

 「昭和五十八年九月一日大韓航空機を要撃したソ連機の交信記録」(以下「ソ連機の交信記録」という。)中、午前三時九分に「目標は方向を変えた。」という交信があることは承知しているが、御指摘の時刻における大韓航空機の状況については承知していない。

十四について

 昭和五十八年九月七日(日本時間)の国連安全保障理事会の会合で公表された交信記録(英文)及び米国が同日の安全保障理事会の会合後配布したオーディオ・カセットは、我が国が収集した交信記録のテープに基づき米国政府が作成したものである。

十五について

 御指摘の資料に関しては、事件の重大性にかんがみ、各主管官庁の責任の下にしかるべく管理しているところである。

十六及び十七について

 昭和五十八年九月七日の国連安全保障理事会の会合で公表された交信記録の具体的な資料については、日米協議の上、その作成事務を米国政府に一任した。他方、当日我が国で公表されたソ連機の交信記録は防衛庁が作成したものである。
 米国が作成した交信記録(英文及び露文)には、受信先がほとんどすべての交信に示されているが、これは米国が種々の情報を総合的に勘案して得られた結果を記述したものと考えられる。

十八について

 昭和五十八年九月七日の国連安全保障理事会の会合後、米国代表団が他国代表団等に提供したオーディオ・カセットには、「標準電波」は収録されていない。

十九及び二十一について

 個別の放送番組の編集については放送事業者の自主性にゆだねられており、政府としては意見を述べることは差し控えたい。

二十について

 御指摘の事実については承知していない。

二十二について

 ソ連機と陸上基地との間の交信について、防衛庁が収集した交信記録には陸上基地からの発信と断定できるものはなかつた。

二十三について

 防衛庁は業務の遂行に伴つて得られたレーダー記録とソ連機の交信記録を公表したが、その後、ソ連が大韓航空機の撃墜の事実を認めるに至り、政府としては自衛隊の活動が事件の真相究明のために大いに貢献したと考えている。
 なお、専守防衛を旨とする我が国の防衛にとつて、警戒監視、情報収集等の果たす役割は大きく、引き続き、これに必要な態勢の充実、強化に努めてまいりたい。

二十四について

 政府は、昭和五十八年十月に来日したICAO調査団に対し、自衛隊のレーダー記録に基づく大韓航空機の航跡図を提供するとともに高度等についても適宜口頭による補足説明を行つた。また、同調査団に対し、運輸省が作成した大韓航空機と東京国際対空通信局との間の交信テープの解析結果を提供した。

二十五及び二十六について

 ICAO理事会は、昭和五十九年二月二十九日から同年三月六日までICAO事務局長報告書及び同航空委員会報告書について審議し、大韓航空機の撃墜を非難するとともに、ICAOによる本件調査等に対するソ連の非協力を遺憾とし、全加盟国に対し再発防止への協力を要請することを内容とする決議を採択した。

二十七及び二十八について

 我が国は、ICAO事務局長報告書及び同航空委員会報告書のいずれも大韓航空機の航路逸脱原因を断定していないことにかんがみ、ICAO理事会において、今後ともICAOによる真相究明のための努力が継続されるべきである旨繰り返し主張してきている。

二十九について

 昭和五十八年九月一日午前三時五十六分ごろ、東京航空交通管制部が自衛隊及び在日米軍に対し、大韓航空〇〇七便について通信捜索の実施を依頼したのは事実である。

三十一、三十二及び六十二について

 運輸省から大韓航空機に関する通信捜索の実施の依頼を受けた自衛隊の部隊は、しかるべく関係部隊に照会の上、その時点における同機の所在は把握できない旨運輸省に回答した。
 なお、当日の個々の業務を実施した自衛隊員については、それぞれ組織の一員としてその担当する業務を実施したものであり、氏名等を公表することは差し控えたい。また、自衛隊における当日の具体的な部隊運用の状況についても、公表を差し控えたい。

三十三について

 大韓航空〇〇七便の飛行計画は、午前一時十四分に運輸省から防衛庁に送信がなされた旨の記録があるので、その後速やかに自衛隊のバッジ・システムに入力されたと考えられる。

三十四について

 航空機の飛行計画等については、政府部内の協力の一環として、運輸省の飛行計画情報処理システム(FDP)から、防衛庁の飛行管理情報処理システム(FADP)に対し、送信がなされている。

三十五及び三十六について

 上品山航空路監視レーダー及び横津岳航空路監視レーダーの覆域は、最大約三百七十キロメートルである。

三十七及び三十八について

 ソ連機の交信記録には、午前三時二十六分二十秒「発射した。」、同三時二十六分二十一秒「目標は撃墜された。」との交信があるが、このような記録に対応する個々の事実については明らかでない。

三十九及び四十について

 政府としては、種々の情報を総合した結果として、午前三時三十八分ごろ撃墜されたものと判断しているものである。

四十一及び四十二について

 政府としては、空対空ミサイルAA-3が本撃墜事件に関係しているか否かについては、確認していない。
 同ミサイルの性能諸元は明らかではないが、「ジェーン兵器・年鑑一九八四-八五」においては、射程が十六キロメートル余りといわれている旨の記述がある。
 同ミサイルの性能諸元が明らかでないため、御質問の場合における所要時間についても明らかではない。

四十三について

 政府が公表した大韓航空機の撃墜時刻及び撃墜地点は、種々の情報を総合的に判断して得られた結果である。ソ連政府がICAOに提出した暫定報告書中の御指摘の部分がいかなる根拠に基づくものであるかについては承知していない。

四十五について

 サハリンの南西部海岸沿いに「プラウダ」という地名(北緯四十六度五十五分、東経百四十二度二分)が存在することは承知しているが、「プラウダ計画住宅地区」の所在については承知していない。

四十六及び四十七について

 政府は、事件の真相究明のための調査・研究を民間の軍事技術専門家、航空技術専門家に委嘱したことはない。

四十八について

 御指摘のような経費について積算することは困難である。

四十九について

 大韓航空〇〇七便と東京国際対空通信局との間の交信並びに大韓航空〇一五便と東京国際対空通信局及び東京航空交通管制部との間の交信については、いずれも、航空機側の通話者が具体的に誰であつたか判別し得ていない。
 また、これらの交信を行つた運輸省職員については、それぞれ組織の一員としてその担当する業務を実施したものであり、氏名等を公表することは差し控えたい。

五十、五十二、五十四及び五十五について

 大韓航空機が人為的操作により下降したか否か及び同機が虚偽の報告を行つていたか否かについては、機体が回収されず、また、パイロットが死亡している等のため、断定できない。

五十一について

 一般的に、高度三万二千フィートから二万九千フィートに下降した場合、パイロットが通常の注意力をもつて高度計等を監視していれば、下降に気がつくものと考えられる。

五十三について

 事件当時、仮に大韓航空機が標準大気に高度計をセットして標準大気より高い気圧帯を飛行していた場合には、機内の高度計は実際の高度より低い数値を示していたと考えられるが、当時の気圧の正確なデータがない等のため、高度計が示した数値を推定することはできない。

五十六から六十までについて

 防衛庁の情報業務の具体的な内容については、事柄の性質上公表することは差し控えたい。
 なお、ソ連機が大韓航空機を撃墜した前後の様子を示す交信記録は、防衛庁が公表したものがすべてである。

六十一について

 ソ連機の交信記録中、午前三時十三分二十六秒「目標はIFFに対し応答しない。」との交信が記録されているが、当該交信で用いられているザプロースという露語はソ連軍の用語としては、敵味方識別装置から発する質問信号をいうものと理解している。