質問主意書

第102回国会(常会)

質問主意書


質問第四〇号

高等学校における交通安全教育に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年五月二十三日

中村 鋭一   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   高等学校における交通安全教育に関する質問主意書

 わが国の運転免許保有者数は、この数年、毎年二百万人の割合で増え続け、昭和五十九年末には五千六十万人を数えた。免許適齢人口に占める運転免許保有者の割合は五十五%で、わが国は確実に国民皆免許時代に突入したといえる。
 また、車両保有台数の点でも、毎年三百万台以上のペースで増え続け、五十九年九月末には六千四百万台の車両が登録されるにいたつている。そして、交通事故もこの数年増加の一途をたどつていることは、新聞ほかマスコミ等でも度々取り上げられているとおりで、その対策を抜本的に構築する必要性が痛感されるところである。
 そうした情勢のもと、昭和五十六年度より交通安全対策基本法にもとづく第三次交通安全基本計画がスタートした。この計画においては、その柱の一つとして、交通安全教育の振興がうたわれ、ことに小・中・高校における交通安全教育の徹底をはかることが強く望まれたのである。
 具体的には、当該計画の中で「交通安全教育は生涯教育」との位置づけがなされ、「交通社会の一員としての責任を自覚し、相手の立場を尊重する良き社会人を育成するため、自他の生命尊重の理念を基本に、各年齢段階に応じ、生涯にわたつて交通安全教育の機会を確保し、交通安全意識の高揚をはかる」とされた。
 そして、特に「学校における交通安全教育の徹底」という一項も加えられ、小・中学校とならんで高等学校において行うべき教育内容として「特別活動のホーム・ルーム、学校行事及び生徒会活動を中心として、良き社会人として必要な交通のマナーを身に付けさせる。更に、生徒や地域の実情に応じて二輪車の安全に関する内容についても適宜取り上げ安全に関する意識の高揚と実践力の向上を図るための指導を行う」と、かなり具体的な交通安全教育の方向が示されたのである。
 このことはつまり、昭和四十六年よりスタートした交通安全基本計画にもとづく関係者の努力によつて減少してきた交通事故をさらに減少させ、安全で豊かな交通社会を実現していくためには、自動車教習所等における運転者教育と同時に、国民の必須の素養として交通安全意識を身に付けさせることが不可欠であると認識されたからにほかならない。
 こうした認識のもと、昭和五十六年六月二十二日には各都道府県知事、同教育委員会教育長らに宛てて「交通安全の確保と交通安全教育の徹底について」と題する文部省体育局長通知が発せられた。その中では、前記第三次基本計画の内容をさらに具体化し、幼稚園から高校まで各学校段階における重点的な指導内容が示された。
 その中で高等学校においては「自転車の安全な利用、二輪車・自動車の特性、交通法規、交通事故と防止対策」について指導すべきであると示されると同時に、「高等学校においては、二輪車の使用規制等の管理的な指導を行つている場合においても、上記の内容について、交通安全教育の徹底を図ること」というただし書も付されたのである。
 このことはつまり、高等学校の入学者が、運転免許適齢の十六歳に達する年代であり、交通社会人としての教育として、自転車ばかりでなく、二輪車、自動車等についても正しい知識をもたせることが、現在及び将来を通じた事故防止策の一つのポイントであるということが、深く認識されたからにほかならないといえる。
 さて、こうしたねらいのもと、前述のように昭和五十六年に第三次交通安全基本計画がスタートしたのであるが、それから四年を経過した現在まで道路交通事故は増加し続けているのが現状である。
 昭和五十九年末においては、対前年比で確かに減少しているものの、その減少はその年前半におけるものであり、後半においてはかえつて事故は増加していて決して楽観できるものではない点が特筆できるところである。
 そして、さらに言えることは、この数年において新聞紙上等をにぎわすほどの社会問題化しているのが、二輪車による事故の増加という点であろう。
 特に昭和五十二年以降、二輪車乗車中の死者が、数、構成率ともに増加しており、早急に対策を講じることが望まれる。その意味で警察庁において「昭和六十年中における交通警察の運営」の柱の一つとして「二輪車対策の推進」を打ち出していることは特筆して、評価すべきことと言えよう。
 さて、こうした状況のもと、私としては、かねてより道路交通における事故の増加を憂慮し、その対策について交通安全教育の徹底が重要であるという観点から、議会内においても、政府の姿勢をただしてきたところであるが、本年四月一日に参議院予算委員会において行つた、警察庁ならびに文部省当局に対する質疑も、同様な趣旨から発したものであつた。
 しかし、そこで当局より出された回答は私の意図したところとは異なり、はなはだ不十分なものであつたので、このたび、以下のような項目につき改めて質問するので、お答えいただきたい。

一 現在、高等学校現場で行われているいわゆる「三ない運動」(オートバイを買わない、乗らない、免許を取らない)が見直しの気運にあり、現に大阪府教育委員会では、前記の運動の限界から、高校教師を対象とした二輪車実技講習会を開催し、生徒に対する指導につなげていくべく施策を講じているところである。
 本年四月一日の予算委員会において私はこの点を指摘し、こうした動きに対して、文部省当局としては、これを全国に広げていく意思があるかどうか問いただしたのである。
 それに対し、古村体育局長は、「現在、教育用の指導資料も作成するなど努力している」旨の答弁であつた。
 現在私の知る限りでは、高等学校における交通安全指導資料としては「高等学校交通安全指導の手引」(昭和五十九年五月二十日(財)日本交通安全教育普及協会発行、文部省体育局監修)があるが、これをはじめとする指導資料が現在、高等学校現場においてどの程度活用され、効果をあげているのか、具体的にお答えいただきたい。

二 昭和五十六年六月二十二日付文部省体育局長通知により、高等学校における交通安全教育の方向が示されたことは前述したが、その後、これまでに高等学校の現場において、交通安全教育がどのように実現されてきたか、文部省当局としては調査したことがあるかどうか。
 もし、あるとすれば、その内容と、その調査結果に対する文部省当局の評価をお答えいただきたい。
 もし、特に調査したことがないとすれば、高等学校現場で交通安全教育がどのように行われているか、文部省としては具体的に把握しているのかどうか。把握しているとすれば、その具体的な内容とそれに対する評価をお答えいただきたい。

三 現在、かなりの高等学校において、生徒の免許取得ならびに二輪車、自動車への乗車を禁止する校則をつくり、その違反者には、退学、停学、自宅謹慎等の処分、指導を行つていると聞くが、その実態を文部省として具体的に把握しているかどうか。
 把握しているとすれば、その内容をお答えいただきたい。

四 右記の質問に関連して、満十六歳以降の運転免許の取得は道路交通法に規定された国民の権利であり、その適法な行為を理由として、学校内ではあてつも処分をすることは、生徒にいたずらな罪悪感をいだかせ、ひいては生徒の遵法精神を養う観点から重大な障害があるものと思われるが、その点について文部省としての見解をお答えいただきたい。

五 高校生による二輪車事故の多発を背景として、現在ほとんどの都道府県の高等学校で、生徒の原付を含む二輪車運転及び免許取得が規制され、地域によつては「三ない運動」と称する運動にまで発展していることは前述したが、警察庁による統計資料において確認した限りでは、十六~十八歳の免許保有者数にしても、二輪車及び十六~十九歳の交通事故死者数にしても、ほとんどこうした規制措置の効果が認められない。
 文部省としては、こうした高等学校における二輪車の規制措置により生徒の交通事故が減少しているのかどうか、具体的な数字を把握しているかどうか答えていただきたい。

六 また、右記の質問に関連して、事故の減少として具体的な効果が認められない場合、高等学校におけるかかる規制措置を放置しておくつもりかどうか、具体的な方策を答えていただきたい。

七 現在、高校生の二輪車問題に関して、学校側と生徒側との間で、二件の訴訟が起こされていることは、去る四月一日の参議院予算委員会において指摘したところであるが、生徒が学校を訴えるなどということはよほどのことであり、信頼感の欠如を表す以外の何ものでもない。これについて、文部省としてどう対処するつもりなのか。

八 生徒の交通安全を将来的な観点から考えれば、二輪車その他の交通安全に関して具体的な教育を施す以外に道はないと思われる。単に規制するのでは、かえつて生徒側の反発を招き、かくれ乗りや、無免許運転を誘発する結果を生みかねない。現に昭和五十二年以降、未成年者の無免許運転は増加する一方で、これが「三ない運動」の影響であるとすれば、ゆゆしき問題であるといわねばならない。
 そこで、文部省当局として、今後、ことに高等学校の現場における交通安全教育の実施を具体的にどのように指導し、実現していくつもりであるのか、お答えいただきたい。

九 去る四月一日の、参議院予算委員会において、太田警察庁交通局長は、警察が学校、教育委員会に対し免許取得者名簿(以下「名簿」という。)を閲覧させていることにつき「教育上の見地から、公益に属することがらであり、法律違反ではない」旨の答弁を行つた。
 それに関連して、かかる名簿を閲覧する行為はいつごろから、どの地域において行われているのか、具体的に示してほしい。

十 警察において名簿を学校、教育委員会に閲覧させたことにより、交通事故防止につき、どのような効果があつたか具体的に示してほしい。

十一 交通事故防止あるいは教育上の見地から使用するという名目があるならば、その相手が誰であつても名簿を閲覧させているのか。
 もし、そうでないとするならば、誰に対してならば閲覧させるのか。
 もし、閲覧させる相手が限定される場合、学校及び教育委員会に対して、閲覧させる具体的な根拠は何か。

十二 名簿により、生徒の免許取得者を確認した結果、学校側では当該生徒に対し、校内規則により停学、謹慎等の処分を行つているが、まつたく適法に免許を取得したにもかかわらず、その生徒の将来を左右するような、かかることがらに警察が深く関与する結果になつたことについて、当局としての見解を示してほしい。
 また、かかる処分を行う学校または教育委員会に対し、今後も名簿の閲覧を許可していくつもりであるのか。

十三 現在、高等学校の現場においては、いわゆる「三ない運動」など生徒の二輪車乗車に対する規制が行われているが、そのために交通事故件数の減少等の効果を確認しているか。確認しているならば、具体的に示してほしい。

十四 この数年、未成年者の無免許運転摘発件数が増加しているが、この中に高校生がどのくらい含まれているか、具体的に示してほしい。
 また、無免許運転による死亡事故のうち高校生の占める数値はどうか。
 また、それらの数値と前記「三ない運動」等との関連について、当局としては、どのような見解ないし評価をしているのか。

十五 前記「三ない運動」等により、高校卒業後の年代に交通事故の集中する恐れがあると思うが、その点での統計数値と、それに対する当局の見解はどうか。

十六 この数年における交通事故の増加に対しては、警察当局としても種々の施策を講じているところであると思うが、ことに二輪車の事故防止については「昭和六十年中における交通警察の運営」においても重点的な柱の一つとして取り上げられているところである。
 二輪車の事故防止に関しては、若年者への対策が重要であると思うが、この点で特に高校生の年代である十六~十八歳の二輪車使用者に対して、今後どのような施策を講じていくつもりであるのか、具体的に示してほしい。

十七 大阪府等においては、前記「三ない運動」等に対する反省も生まれ、高校において、交通安全教育を実施する体制をととのえつつあるが、このような場合、警察に対して学校ならびに生徒等から実技も含めた講習の希望があつた場合、警察としてはどのように対応していくつもりであるのか。

  右質問する。