質問主意書

第102回国会(常会)

質問主意書


質問第一三号

義務教育未修了者に対する対策と夜間中学校の充実・拡大に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年十二月二十八日

吉川 春子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   義務教育未修了者に対する対策と夜間中学校の充実・拡大に関する質問主意書

 一九四七年に憲法・教育基本法による新しい教育制度が発足して以来、今日では小中学校への就学率が九九・九パーセント、高校への進学率が九四パーセントに達するなど、数字でみれば日本の教育水準は世界のトップクラスである。
 また、日本国憲法の基本理念である平和と民主々義を守り発展させるためにも、教育の果たす役割は大きく、従つて、教育が等しく国民にゆきわたることの必要性は言うまでもない。
 ところが、高学歴社会といわれる中で、法の保障する九年間の義務教育さえ受けられないか、途中で放棄せざるをえない人々が多数存在しているのに、救済措置は全く不十分である。
 私は、少なくとも義務教育は、これを受ける機会が全ての国民に開かれ、保障されるべきとの憲法・教育基本法の原則を実現する立場から、以下の質問をするものである。

一 義務教育未修了者、未就学者の実態の把握について

 六・三制の義務教育が発足した一九四七年から今日までにいろいろな理由で就学できなかつたり、義務教育未修了のまま放置されている人は一四〇万人、加えて五十二才以上の旧制の義務教育の時代の高齢者を加えると、わが国の義務教育未修了者は二〇〇万人をこえるといわれている(東京都夜間中学校研究会の調査による)。
 戦後の混乱・貧困・病気・外国からの引揚げ等から、最近は、登校拒否等の長欠児童生徒まで原因は種々であるが、学校教育から脱落する児童生徒の数は近年再び増える傾向にあるといわれている。
 二〇〇万という数字は文部省が公式に認めたものではない。
 そこで、文部省が把握している六・三制になつて以降の義務教育未修了者の数字等を以下の項目に従つて明らかにされたい。

(1) 六・三制になつて以降の義務教育未修了者の数
(2) 昭和四十五年の国勢調査の結果にみる未就学児童、生徒数とその主な原因及びそれ以降の数字の変化
(3) 昭和五十年以降の長期欠席児童生徒数とその主な原因
(4) 長期欠席児童生徒のうち、義務教育未修了者となる場合の人数と比率
 それがもしわからないならば、文部省の責任において調査し公表する必要があるのではないか。
(5) 文部省は常に、義務教育未修了者の数字と実態を把握しておくべきであると思うがどうか。

二 学齢を過ぎている国民に対する義務教育の場の保障について

 学齢を過ぎてから中学校への入学を希望し断わられたという例がいくつもある。これでは満十五才を過ぎると義務教育の場は人々から永遠にとおざけられてしまうことになる。憲法二十六条第一項は教育を受ける権利をすべての国民にみとめている。第二項の「普通教育」とは、文部省当局者の説明によれば、「人たる者すべてに必要な教育であり人たる者が一様に亨受しうるはずの教育」(教育法令研究会著「教育基本法の解説」)である。

(1) 病気等何らかの理由でやむをえず義務教育を修了できなかつた国民に対して、たとえ十六才以上の場合であつても本人の希望に応じて義務教育の場を保障すべきであると思うがどうか。
(2) 学校教育法第二十二条第一項、第三十九条第一項及び第二項は、言うまでもなく、「保護者の就学させる義務」の規定である。この規定をもつて、学齢を過ぎた国民に対する国及び自治体の初等中等普通教育(義務教育)を保障する責任が解除されるものではないと考えるべきではないか。
(3) 学齢を過ぎた義務教育未修了者の国民に対して、国は教育を保障する場や手だてをどのように用意してきたか。また、今後どのような対策を考えているのか。

三 夜間中学校の充実・拡大について

 今日の学歴社会にあつては義務教育を受けていないということは、生きてゆく力が奪われているに等しい。「字が読めなくては自動販売機で電車の切符を買うことができないし、病院や役所へ一人では行けない」という未修了者の痛切な訴えもある。中学の卒業証書がなくては、調理師や美容師などいくつかの試験を受験する資格を国はみとめていない。
 仕事を転々と変え社会の片隅で肩身の狭い思いで生きている義務教育未修了者にとつて、唯一ともいえる光明として夜間中学は存在してきた。
 一九五一年(昭和二六年)東京都足立区で昼間の二部授業として夜間中学の認可申請をし、東京都教育委員会が認可したが、文部省は「夜間中学の開設は好ましくない」との態度をとり、若干の態度の変化はあるものの今日に到るまで基本的見解をかえていない。この間、現場の教師や関係者の献身的な努力によつて夜間中学の灯はかろうじてともされつづけてきたといえよう。
 現在、夜間中学校は全国で三四校(内訳は、東京八、神奈川六、千葉一、京都一、大阪一〇、奈良二、兵庫三、広島三)あり、生徒は、二、九一五名在籍している。ところが、地域的に偏在していて、北海道、東北、中部、九州、四国地方には一校もない。全国にいる二〇〇万人に及ぶといわれる義務教育未修了者の数に対比すれば、まさに大海原をバケツですくう感がある。
 開校以来の卒業者の数は、八、六一五名である。入学したが夜間中学校すら卒業できなかつた人々もまた多数いることがうかがえる。そこで、以下尋ねる。

(1) 夜間中学校の存在意義、今まで果たしてきた役割について、国としてどう評価しているか。
(2) 全国にいる義務教育未修了者の教育機関として、各都道府県あるいは主要都市に夜間中学の設置を行うことが望ましいのではないか。
 また、地方自治体が夜間中学校の設置を決めたときは、国は予算措置などできるだけの援助をするべきではないか。
(3) 現在、文部省は夜間中学に対し、人件費、建築費など若干の予算支出を行つているが、その法的根拠はなにか。
(4) 夜間中学の現場の要望に応えて事務職員、養護教諭の配置、備品、教材費等の条件整備、中学校夜間学級研究委嘱費の増額を行うべきと思うが、その用意はあるか。
(5) 夜間中学校についてその存在すら知らされていない人々のために、国や自治体はPRを積極的に行うべきではないか。

  右質問する。