質問主意書

第101回国会(特別会)

答弁書


答弁書第三一号

内閣参質一〇一第三一号

  昭和五十九年六月十九日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員美濃部亮吉君提出東京拘置所における獄中懲罰及び獄中医療に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員美濃部亮吉君提出東京拘置所における獄中懲罰及び獄中医療に関する質問に対する答弁書

一について

(一) 監獄法上の懲罰は、いわゆる行政上の懲戒罰であり、刑罰とはその性質を異にするものである。したがつて、懲罰については、罪刑法定主義の適用はないと考えている。
 しかし、懲罰は、被収容者に一定の不利益を科する処分であるから、罪刑法定主義の精神はできる限り尊重すべきものと考える。
(二) 懲罰の対象となり得る規律違反行為を明示することは必要であると考えている。
(三) 懲罰の対象となり得る行為の範囲は、できる限り明確に定めるのが相当であると考えている。
 なお、現在、懲罰の対象としているのは、いずれも施設の規律秩序の維持上、必要かつ合理的な限度内のものであり、居房内での屈伸運動のすべてについて懲罰が科せられることはない。
(四) 東京拘置所の「所内生活の心得」の第五、二は、監獄法第五十九条及び監獄法施行規則第十九条第一項の規定に基づき、同所の規律秩序の維持に必要かつ合理的な限度内で懲罰の対象となり得る行為を定めたものである。
(五) 被収容者が職員の職務上の指示に従わない場合に、これを懲罰の対象とするのは当然のことと考えるが、指示に従わないことによつて懲罰が科せられるのは、その指示に必要性及び相当性があり、その指示に従わないことが施設の規律秩序の維持上看過し難い場合に限られる。したがつて、指示をした職員に対する抗議等がすべて懲罰の対象となるものではない。
(六) 診察、治療又は投薬の必要性の有無の判断は医師が行つており、その判断は、当該医師の医学的知識及び経験に基づいて行われる。
 また、被収容者の発言が暴言か否かの判断は、当該発言を現認した職員の報告に基づき、懲罰審査会の議を経た上で施設の長が最終的に判断することとされており、その判断は、社会通念による。
(七) 懲罰を科する手続は(八)において述べるとおりであり、個々の刑務官の恣意的な判断によつて決せられることはない。したがつて、「職員の指示」が絶対化し、刑務官への絶対服従が強制されるようなことはあり得ない。
 なお、東京拘置所の「所内生活の心得」の第五、二に列挙されている行為は、(四)において述べたとおり、同所の規律秩序の維持に必要かつ合理的な限度内で定められたものであり、変更の要はないと考える。
(八) 東京拘置所においては、規律違反の疑いがあるときは、違反事実を当該被収容者に告知し、同人らの供述調書を作成するなど証拠を収集し、事案を特定した上、懲罰審査会の審査に付し、その際当該被収容者にも弁解の機会を与えており、懲罰審査会から具申された意見を踏まえて、最終的に所長が懲罰の要否及び内容を決定している。
 なお、同所の懲罰審査会は、管理部長、保安課長、指導課長、教育課長等幹部職員からなる委員及び職員の中から指名される書記をもつて構成されている。
(九) 「被拘禁者処遇最低基準規則」第三十の(2)の規定の趣旨は、尊重すべきものと考える。
 なお、現在の行刑実務においても、この規定の趣旨が保障されていることは、(八)において述べたとおりである。
(十) いわゆる補佐人制度については、現在その在り方について検討しているところである。
 しかしながら、(一)において述べたとおり、懲罰は行政上の懲戒罰であつて、刑事手続とは無関係のものであるから、弁護人の立会いを認めるべきものとは考えていない。
(十一) 未決拘禁者と既決拘禁者との法的地位の相違による合理的な差異は、懲罰についても設ける必要があり、現在もそのようになつている。
(十二) 未決拘禁者に対しては、その防御権の行使に支障を及ぼさないよう十分な配慮をしている。例として挙げられているような事態は、実務上あり得ない。

二について

(一) 患者の症状や診療結果について、できる限り患者の納得のいくような説明を行うことは当然であるが、写真提示の必要性については、当該患者の疾患の状況、心情等を考慮し、当該医師の個別的判断にゆだねるのが相当である。
(二) 被収容者の疾病に対する医療は、施設の医師によつて行うほか、必要がある場合は遅滞なく外部の専門医を招へいし、あるいは外部の専門病院で診療させるなどの措置を講ずることとしており、以上の措置に加えて、入所前から当該疾病について診療関係がある外部医師の診療を受けさせることが診療上必要と認められる場合には、監獄法第四十二条の自費治療を許すこととしている。
 なお、被収容者のカルテ等の取扱いについては、一般の医療慣行によるべきものと考える。
(三)

1 東京拘置所に勤務する医官は、内科三名、外科五名、精神科二名、皮膚泌尿器科一名、歯科一名である。
2 定期的に招へいする外部医師は、三名であり、その専門は眼科、耳鼻科、整形外科の各科である。その他の専門科については、必要に応じ外部の専門病院で診療を受けさせている。
3 定期診察は、舎房別に週二回(歯科については週一回)指定された曜日に行つており、その内容は、問診、聴打診、触診を中心に実施し、必要に応じ専門医に診療させている。
 なお、急を要する診療は、随時行つている。
4 投薬及びレントゲン写真等の諸検査は、担当医師の判断により実施している。
5 過去五年間の調査によれば、自費治療を必要とした事例はなく、したがつて、これを許した事例はない。
 なお、自費治療は、(二)において述べたとおり、その必要があると認められる場合に、これを許すこととしている。