質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第三一号

東京拘置所における獄中懲罰及び獄中医療に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年六月五日

美濃部 亮吉   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   東京拘置所における獄中懲罰及び獄中医療に関する質問主意書

 東京拘置所における処遇の実情にかんがみ、その獄中懲罰及び獄中医療等に関して、以下質問する。

一 獄中懲罰について

(一) 監獄内での懲罰は新たな法益剥奪であるから、罪刑法定主義の考え方の適用があり、その要件は厳格に規定されなければならないと考えられるが、この点についてどう考えているか。
 仮に、罪刑法定主義の適用がないと考える場合は、その理由は何か。その場合でも、罪刑法定主義の精神はできるだけ尊重すべきと考えるがどうか。
(二) 懲罰の対象となりうる紀律違反行為を明示することは、罪刑法定主義の精神からは勿論、人権保障の見地から当然要請されるところだと考えられるが、この点についてどう考えているか。
 仮に、紀律違反行為の明示が必要でないとする場合は、一九五五年国際連合主催の犯罪予防および犯罪者処遇に関するジュネーブ会議において採択された「被拘禁者処遇最低基準規則」(以下、「国連最低基準」という。)第二九(a)項が紀律違反行為の明示を要求していることをどう考えるのか。
(三) 紀律違反行為を明示する場合には、懲罰の対象となりうる行為の範囲が一義的に明確になるように明示すべきだと考えられるがどうか。明示の基準についてどのように考えているか。
 また、行刑の目的は被収容者の自発性を涵養するものでなければならず、被収容者の細々とした行為までを紀律違反行為とするのは妥当ではないと考えるがどうか。例えば、舎房内での屈伸運動については、どう考えるか。
(四) 東京拘置所長は、「所内生活の心得」第五賞罰二懲罰の項で、懲罰を受けることのある行為を列挙しているが、これはいかなる基準に基づくものか。
 前記列挙事項は、二十四項目にわたつているが、被収容者の行為を余りに広範囲に懲罰の対象とし、被収容者の自発性を涵養するという今日の行刑の趨勢に逆行していると考えられるがどうか。
(五) 前記列挙項目(一)は、「監獄法令、所内規則及びこの『心得』に基づく職員の指示に従わないとき」としているが、これは懲罰の対象となる行為の範囲を全く限定しない規定で、罪刑法定主義の趣旨から明らかにかけ離れていると考えるがどうか。
 また、「職員の指示」が絶対化し、刑務官への抗議等はすべて懲罰の対象とされることになり、刑務官への絶対服従が強制されることになることが容易に想像されるが、この点につきどう考えるか。例えば、職員の不当な指示への抗議等が懲罰の対象とされることはないか。
(六) 前記列挙項目(五)は、「不必要な診察・治療又は投薬を強要したとき」としているが、必要か不必要かは誰が判断するのか。必要性の判断につき客観的基準が存在するのか。存在するとすれば、それはどのようなものか。
 また、前記列挙項目(十)は、「他の人に対して暴言を吐き……」としているが、暴言か否かは誰が判断するのか。この判断の客観的基準は存在するのか。存在するとすればそれはどのようなものか。
(七) 前記列挙項目(五)及び(十)項ともに、判断の基準が一般的抽象的なものであれば、懲罰に付すべきか否かの第一次的判断権者は直接応対する刑務官であるからその刑務官の恣意的判断に左右されることになり、ひいては当該刑務官への絶対服従が強制されることになりかねないがどう考えるか。
 東京拘置所の「所内生活の心得」の懲罰の項の列挙行為を縮少し、また、各行為についての規定を一義的に明確になるよう変更すべきだと考えるがどうか。
(八) 東京拘置所における取調べ及び懲罰審査会等懲罰に付する場合の手続きの順序は、どうなつているか。
 また、懲罰審査会等の機関の構成はどうなつているか。
(九) 国連最低基準第三〇第(2)項は、「いかなる被拘禁者も、自己が犯したものとされる違反事実について告知を受け、かつ、自己の弁護を申し立てる適当な機会を与えられるのでなければ、懲罰を科せられない。」と規定しているが、この規定の趣旨を尊重すべきだと考えるか。尊重すべきだとすれば、現在の行刑実務の中においてそれはどのように保障されているか。
(十) 被収容者の弁護の機会を十分に保障するためには、懲罰審査会等における補佐人制度等の充実が望ましいと考えるがどうか。
 未決拘禁者の場合には、懲罰審査会等への弁護人の立会いを認めるべきだと考えるがどうか。
(十一) 未決拘禁者に対する懲罰と既決拘禁者に対する懲罰の場合とで差異を設けるべきだと考えるか。それとも、同一に取扱うべきだと考えるのか。
(十二) 未決拘禁者に対する懲罰が、継続中の裁判について被疑者の防禦権に支障を来す危険性についてどう考えるのか。
 例えば、控訴趣意書の提出期間中に懲罰事例が生じたため、控訴趣意書が提出できなくなるような事態についてはどう考えるのか、拘置所側の対応を示されたい。

二 獄中医療について

(一) 医療においては患者と医師との間の信頼関係が特に重要であり、患者の症状や診療結果について患者に納得のゆくように説明すべきだと考えるがどうか。
 患者への納得ゆく説明という観点からは、レントゲン写真を撮つたような場合は、その写真を示して説明するのが妥当だと考えるがどうか。
(二) 本人の要望がある場合には、監獄法第四十二条の自費治療が認められるべきだと考えるがどうか。
 また、本人の要望があれば本人の信頼する外部の医師にカルテ及びレントゲン写真を見せる等の措置がとられて然るべきだと考えるがどうか。
(三) 東京拘置所における医療体制について、次の点はどうなつているのか。

1 監獄に勤務する医官の人数、及びそれが専門別に分かれている場合には各専門別の人数。
2 嘱託医及び外部医師等がいる場合にはその各人数と各専門分野。
3 定期診察の内容及び頻度。内科、外科及び歯科等によつて定期診察の頻度に差異があるか。
4 投薬をする場合の基準、レントゲン写真撮影等の検査をする場合の基準はどうか。
5 監獄法第四十二条の自費治療が認められた例は、どのようなものがあるか。また、認められるための基準はどのようなものか。

  右質問する。