質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第八号

スパイクタイヤによる粉塵公害対策強化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年三月十日

小笠原 貞子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   スパイクタイヤによる粉塵公害対策強化に関する質問主意書

 道路の車粉塵問題は、自動車がスパイクタイヤを装着して走ることにより生じ、路面を削り、粉塵を生じさせて大気を汚染し、騒音を増大させるのみならず、生活環境の悪化や長期的には人体にも悪影響を及ぼすものとして、今や大きな社会問題となつている。
 その点からも政府、とりわけ環境庁の責任は重大である。
 政府も、環境庁を先頭に関係省庁が連携して、ようやく昭和五十七年度より研究をはじめたばかりのようである。
 スパイクタイヤによる粉塵被害の実態や、環境・人体に及ぼす影響が深刻化してきているだけに、政府は早急に抜本的かつ効果的な対策を確立すべきである。
 以上の立場から、以下具体的に質問する。

一 人体への健康影響調査について

 車粉塵によつて人間の喘息や慢性気管支炎などが悪化することはすでに明らかになつている。野良犬の解剖や、マウスやラットなどの動物実験の結果、動物の肺の中にスパイクピンとアスファルトの成分が発見されていることや、車粉塵を吸つている動物がそうでない動物より成長が遅いことなどの事実が次々に明らかになつてきている。
 また、昨年の環境庁による『スパイクタイヤによる粉じん等実態調査』(昭和五十八年九月)の報告結果では、「冬期における降下ばいじんの増大はアスファルト粉じんによるもの」とし、粉塵の分析結果でもアスファルト等と同じ成分を確認しているところである。

(1) 環境庁は、五十七年度に「自動車用タイヤによる粉塵等対策調査検討会」を発足させ、五カ年計画で研究を進め対策を講ずるといわれているが、その具体的な年度計画と調査内容はどのようなものを考えているのか明らかにされたい。
(2) 前述したように、有識者・研究者による動物実験等による生態影響調査はかなり進んでおり、貴重な成果も少なくないのである。環境庁は、これらの調査結果をどのように受けとめているのか。
 また、このような貴重な調査・研究に対して、国が研究費を大幅に助成すべきであると思うがどうか。
(3) これまでも、鳥や小動物に現れた被害(影響)は、後刻必ず人間にも及んでいる。
 車粉塵による被害は、潜伏期間が長いだけに、被害が証明されたときには、汚染がすでに広範囲に拡がり「手遅れ」になる場合が多く、「被害」が出てからでは遅いと考える。
 環境庁は、直ちに人間への健康影響調査を実施すべきであると思うがどうか。
 また、仙台市では、すでに健康調査を行つており、他の自治体でも検討中と聞いている。そのような自治体に対し、政府は費用の助成を行うべきであると思うがどうか。
(4) 既に述べた環境庁の「検討会」のメンバーに、医師が入つていないのは、「検討会」の目的からしても理解しがたい。早急に「検討会」のメンバーに医師を加えるべきだと思うがどうか。

二 スパイクタイヤ並びにピンの改良について

 スパイクタイヤによる問題では、環境・公害問題のほかに、道路の摩耗による補修費の増大(経済的負担増)や、交通安全上の根本にかかわる制動効果の問題などがあり、他面スパイクタイヤの使用者は、公害面では「加害者」であり「被害者」でもあるという複雑な問題を内包している。

(1) スパイクタイヤ“万能論”について

 スパイクタイヤは、凍結した道路上では確かに威力を発揮するが、積雪路上では他のタイヤ(スタッドレスタイヤ等)とほとんど差がないし、逆にアスファルト上(乾燥した路上)ではスパイクタイヤの方が制動距離が伸びて危険だといわれている。
 しかし一般には、“スパイクタイヤ万能論”ともいうべき“誤解”があり、スパイクタイヤを装着していれば冬道でも“安全”なのだという過信から、夏期のようなスピードを出すために事故につながる場合も多いと有識者は指摘している。
 政府は、スパイクタイヤの性能に関する詳細なデータに基づいて、正確な知識を広く国民に認識させる必要があると考えるがどうか。

(2) スパイクタイヤのピンの改良について

 北海道開発局土木試験所の久保宏部長(工学博士)の研究によると、ピンの突出量を一・五ミリから一ミリに減らすと二二パーセント、ピンの底部のフランジ径を一〇ミリから八ミリに減らすと二三パーセント、両方を組み合わせると五一パーセント、いずれも摩耗量が減ることが明らかになつている。(『土木試験所月報』三五九号)。更に、ピンの本数、形状、重さ、硬さなどを研究すれば、摩耗も更に減少することは確実である。
 また、安全性低下(制動効果)を一〇パーセント我慢すれば、車粉塵量を四五パーセント減らすことができることも証明されている。
 通産省は、スパイクタイヤのピンの改良について、タイヤメーカーなどの民間だけにまかせるのではなく、国の責任で研究・開発を進めるべきだと思うがどうか。

(3) スパイクピンを対象としたJIS規格の検討について

 現在までスパイクピンについては、規格がなく、ピンメーカーにより材質・形状もバラバラで野放し状態が続いている。しかもピンメーカーは、タイヤメーカーと違い、中小業者がほとんどである。タイヤチェーンに厳しいJIS規格が定められているように、まさに安全と公害の問題に密接に関係があるスパイクピンにこそJIS規格を検討すべきだと思うが、通産省の考えはどうか。

(4) スパイクピンの規制について

 日本自動車タイヤ協会では、今年五月までにピンの二次基準を設けることにしているといわれているが、その具体的内容はどのようなものか。
 また新聞報道では、タイヤ協会の幹部が、「これ以上の基準は不必要」と言つているようだが、これについて通産省の考え方はどうか。

(5) 自動着脱チェーンの開発について

 スパイクレスタイヤの研究・開発の一環として、自動的に着脱ができるチェーンの実用化について、通産省は、本格的研究に取り組むべきだと思うがどうか。
 外国では既に自動着脱チェーンが実用化されており、また、その製品がわが国にも輸入されているが高価である。このために、わが国における実用化の研究・開発は、ぜひとも必要であり、重ねてこの点に関する政府の見解を伺いたい。

三 警察庁のスパイクタイヤ問題に対する取組みについて

 警察庁はスパイクタイヤの規制・禁止は、交通事故の多発につながるという考え方のようだが、その根拠となる科学的な研究及びそのデータを明らかにされたい。
 「多重公害」として、スパイクタイヤ問題がこれだけ社会問題化している現在、具体的な規制の方向を考えるべきだと思うが、警察庁の考えはどうか。

四 当面する緊急課題について

(1) 除雪・排雪・融雪等への政府の助成の強化について

 スパイクタイヤによる車粉塵被害は、特に初冬や春先などの融雪期に極端に悪化する。関係自治体は、特にこの期間に集中して除・排雪や融雪を徹底して行い、スパイクタイヤが不必要な状況にする為に努力を強めている。これを効果あるものにするには、除雪車・融雪車の増車、体制(人員)の強化等の新たな財政的負担がどうしても必要である。
 政府はこのような経費について、公的な助成を拡大すべきと思うがどうか。

(2) 道路の摩耗による維持補修費の助成の拡大について

 北海道開発局によると、ひと冬にスパイクタイヤによつて削られる国道、道道、市町村道の道路補修費の合計は百億円、札幌市だけで二十億円ということである。また仙台市でも十四億円かかつている。
 建設省の資料でも、昭和五十六年度において、舗装補修費は北海道で約九十七億円、宮城県で四十一億円である。
 各県、各自治体にとつてその経済的負担は過大であり、自治省の交付税等の助成ではまだまだ不足である。
 政府は、このような自治体に対して、早急に実態に即した助成拡大措置を講ずべきだと思うがどうか。

  右質問する。