質問主意書

第100回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

水田利用再編第三期対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十八年十一月八日

下田 京子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   水田利用再編第三期対策に関する質問主意書

 農林水産省は、水田利用再編第三期対策(以下「第三期対策」という。)の骨子をまとめた。
 その内容は、全水田面積の二割を超す六十万ヘクタールもの水田を、これまでの水田利用再編対策の基本的な枠組をそのままに、ペナルティつきで強権的に転作を進めようとするものである。しかも、臨調答申に基づき、転作奨励金については、その水準を大幅に引き下げるものであり、米作農家にとつては、一段と厳しい米作減反を強制するものとなつている。
 さらに、四年連続不作という、今日の米生産及び米需給をめぐる深刻な事態に対し、国民の主食である米の安定供給に責任を果たすという点からも、第三期対策の内容は重大な問題を持つている。
 以下、第三期対策に関連して質問する。

一 今日の米需給について

(1) 今日の米需給は、来年十月末の米の持ち越し量が、今年とほぼ同様の十万トン程度で国民消費量の三日分にしか過ぎないという、二年連続のひつ迫した事態にある。
 政府は、工業用向けの昭和五十三年産米を主食用に振り向け、さらに、早場米の先食いなどで需給に不安はないとしているが、五十三年産という超古米を主食用にまわさざるを得ない事態こそ異常であり、その責任は重大である。
 こうした綱渡り的需給をもたらしたのは、政府の米需給計画と米生産対策にあり、とりわけ、平年作を前提に、単年度の需給均衡を図るという、政府の米需給均衡化政策そのものに重大な原因があると考えるがどうか。
(2) 第三期対策では、年間四十~五十万トン、三年間で百五十万トン程度の在庫積み増しを図ることとしている。
 しかし、この計画は、あくまで平年作を前提としており、仮に、来年も今年程度の不作となれば、在庫積み増しは出来ず、綱渡り的需給が依然として続くことになる。
 問題は、過剰米処理が基本的に終わり、米の在庫水準が十万トン程度という状況のもとで、平年的・平均的な収量を前提にして需給計画をたてるかぎり、わずかな不作でも「米不足」問題が深刻化せざるを得ないということである。
 昭和五十五年以降の不作の例を示すまでもなく、四十~五十万トン程度の豊凶変動は毎年のように起こり得ると考えるべきであり、従つて、国民の基本食糧である米の供給に責任を負うなら、通例起こり得る不作をあらかじめ織り込んだゆとりある生産計画をこそ立てるべきではないか。
 その上で、平年作となれば生ずる余裕米等で、昭和五十五年のような大凶作にも対応できる備蓄制度を確立すべきではないのか。
(3) 米の四年連続不作は、単に異常気象による災害とのみ言い切れない。背景に、連続的な米価据え置きや大幅な米作減反が強行される中で、米作に対する農家の営農意欲の減退があり、その上、水田の地力の低下や良質米生産への過度の集中等、米生産基盤そのものの弱体化が進んでいると考えるが、この点政府はどのように分析しているのか。
(4) 平年反収そのものについても、今年の四百七十八キログラムから、第三期対策では四百八十二キログラムへと、四キログラムも増収すると見込んでいるが、この点の見直しも必要ではないか。
(5) 水田利用再編対策に関する閣議了解(昭和五十三年一月二十日)では、第一の柱に米の消費拡大対策を強力に推進することを掲げている。
 ところが現実はどうか。水田利用再編第一期対策では、主食用需要量を千百六十万トンと見込み、今回の第三期対策では、千四十万トンと、百二十万トンも減少する見込みとなつている。
 こうした米消費減退の一つの大きな要因は、売買逆ザヤ解消の方針のもとで、消費者米価を連続的に引き上げてきたことにあることは明白である。
 政府は、来年度予算編成における一つの財源捻出策として、消費者米価の引き上げを検討していると伝えられているが、消費者の家計の安定と、米消費拡大という立場からも、断じて値上げはすべきでないと考えるが、どうか。
(6) 米麦比価についても、政府売渡し価格で、米を一〇〇とした場合の麦の比率で、昭和三十五年の四六・一 昭和四十年に三四・七 昭和四十五年は二五・七 現在が二四・二と、まさに歴史的に見て、麦に比べて米の消費を経済政策的に抑制してきたことを示している。
 米の消費拡大を本気で言うならば、この点の見直しこそ必要ではないのか。

二 転作奨励金について

(1) 第三期対策では、転作奨励金の基本額を一律八千円引き下げることとしているが、その根拠は何か。
(2) 転作の重点作物とされる麦や大豆の場合、その生産者価格は二年連続据え置き、反当収量も極めて低く、かつ不安定で、収益性の改善が図られたとはとうてい言えない。従つて奨励金の引き下げは、麦や大豆への転作を一層困難にすることは明白である。この点、政府はどう考えるか。
(3) 米と転作作物の収益性格差についても、米価の据え置きと不作等によつて、米作の十アール当たり所得が、昭和五十三年の九万二千円から、五十七年の七万二千円へと急激に落ち込んでいるが、これによる収益性格差「縮小」をもつて、転作奨励金引き下げの根拠とはなりえないと考えるがどうか。
(4) 第三期対策では、転作奨励金の加算制度として、転作定着化第一種加算と第二種加算が新設されているが、この第一種加算と第二種加算の重複交付は可能なのかどうか。
 また、予算積算上、加算の対象となる転作面積は、全体のどの程度の比率を想定しているのか。
(5) 昭和五十八年度予算の積算上の転作態様及び加算対象比率を基礎に試算すると、第三期対策における転作奨励金は、五十八年度予算に比べ、基本額部分が、転作面積の六万ヘクタール減もあり、約七百五十億円、加算部分でも約八十億円の減で、合計約八百三十億円の削減となる。
 十アール当たりにすると、一万円以上の減額となる。この点、政府の積算はどうなるのか。
(6) こうした奨励金水準の引き下げは、互助金方式でかろうじて維持されている集団転作をもつぶす結果になるのではないのか。
 加算金のウエイトを高めて、集団転作に誘導しようとしているが、本来奨励金で誘導しなければ成立しないような集団転作では、奨励金の切れ目が縁の切れ目となり、真の集団転作や定着化の方向にはつながらないと考えるがどうか。
(7) 転作定着化のためには、第一に、米作あつての転作であり、米作所得が安定してこそ転作にも何とか取り組めるというのが、農家の実態である。従つて、生産者米価を、生産費を償う適正な水準に引き上げることが何よりも重要である。
 第二に、転作作物の生産者価格を生産費を償う水準に引き上げるとともに、米も含めて、生産費に占める農業資材費のウエイトが年々高まる状況のもとで、農機具等の農業資材価格を引き下げ、農業所得の確保を図る。
 第三に、土地基盤の整備、作業機械の開発、増収のための品種改良や栽培技術の開発・普及、販路の確保など、転作条件の整備を優先的に進めること。
 こうした中でこそ、自主的な転作が可能となり、兼業、専業を含め、地域の農家が一体となつた転作への集団的取り組みを可能にすると考えるがどうか。

三 他用途利用米生産について

(1) 第三期対策の新しい内容として、みそ、米菓等の加工用原料米を、約三十万トン他用途利用米として転作目標面積の内数で生産することとしている。
 政府は、他用途利用米生産に対し、助成金としてトン当たり七万円を交付するとしているが、加工用原料米の実需者価格は、トン当たり十二万円程度で、加工・流通経費も生産者負担で、その経費二万四千円を控除すると、他用途利用米奨励金七万円を加えても、生産者手取り価格は、トン当たり十六万六千円となる。主食用米価格のトン当たり三十万円と比べ、十三万四千円も低い価格となり、これでは、とうてい生産費を償うことは出来ず、「米穀ノ再生産ヲ確保スルコトヲ旨」として政府の買入れ価格を定めることを規定した食管法第三条に明らかに反し、事実上の「二段米価」の導入ではないか。
(2) こうした低生産者価格では、主食用米生産者による「トモ補償」がなければ、生産は不可能と言わざるを得ない。この点政府はどう考えているのか。
(3) 「トモ補償」といつても、米作農家の負担であり、他用途利用米生産による米作農家の財政的損失は、約四百億円となり、これは、本年の生産者米価一・七五%アップの約二倍近い、実質約三%の米価引き下げとなる。
 加工原料用米といえども、同じ主食用うるち米であり、国民食糧としても必要な米であるという点からも、何故に、生産者に実質米価引き下げという犠牲を強いるのか、その理由を明らかにされたい。
(4) 食管法上、他用途利用米は基本計画や供給計画に位置づけるとしているが、食管法第二条の二第二項の「政府ノ管理スベキ米穀ノ数量」からは除外されている。
 要するに、他用途利用米については、政府は、たとえ売れなくても一切買入れする責任のない米ということになり、米の政府全量管理という食管法に重大な風穴をあけるものではないか。
 政府が、価格面でも、買入れ面でも責任を持たない他用途利用米は、臨調答申が指摘した「米の全量管理方式の見直し」の具体化であり、食管解体、即ち米の間接管理化への重大な一歩と言わざるを得ないと考えるがどうか。
(5) 第一次過剰米処理が終了し、第二次過剰米処理がスタートした昭和五十年から五十三年にかけて、加工原料用米については、需給計画上、どの様に扱われたのか。生産者からの買入れ価格はどうか。また、売渡し価格はどの様に設定されたのか。
(6) 過去の事例からも、加工原料用米を他用途利用米として特別に、生産者の財政負担のもとに生産する必要性は何か。
 他用途利用米生産助成(約二百十億円)も、転作奨励金削減額のほんの一部を回したに過ぎず、結局、食管財政負担軽減こそがねらいではないのか。
 さきの需給計画のあり方で示したゆとりある生産計画のもとで、備蓄制度を確立し、その中で、古米等を加工原料用米として活用する道こそ、国民にとつて必要な米に対する政府の管理責任を果たすことになると考えるがどうか。

四 米の輸入について

(1) 農産物の輸入自由化を積極的に打ち出している経団連の「自由貿易体制の維持、強化に関する見解と提言」で、米については自由化品目からはずすことを主張している。
 ところが、経団連の農政問題懇談会の委員長である渡辺文蔵氏は、本年二月、ハワイで開かれた日米財界人会議で、「日本がいま牛肉、オレンジの自由化絶対反対と言つている理由の一つに、それを認めれば、いずれアメリカは米も自由化しろと言つてくるだろうと農民が心配しているからだ」と説明し、そして、「農民は外堀を埋められないよう牛肉、オレンジの自由化に絶対反対と主張しているので、アメリカは、米の自由化を言わないということをはつきり宣言しないことには牛肉、オレンジの自由化も全然話が進みませんよ」と発言したことを、同氏は、「経団連月報」(一九八三年五月号)の中で報告している。
 この発言は、要するに、財界の米の非自由化発言は、牛肉、オレンジ自由化のための当面の作戦に過ぎないことを告白したものである。
 政府は、この点、どう認識しているのか。
(2) 昨年二月末、いわゆる江崎ミッションが、ブロック米農務長官を訪問した際、日本が米国の米を輸入するようにとの発言が、同農務長官からあつたことが伝えられているが、事実か。
 また、加工原料用米について、実需者団体の一部から、外国産米輸入の要請がでていると聞くがどうか。
(3) 米の生産調整を実施している中で、たとえ加工原料用米といえども輸入することは、米作減反に苦しむ農家にとつて、とうてい納得できるものではない。
 加工原料用米の輸入は、次いで酒米、さらには、米国側のとどまることのない農産物輸入拡大攻勢から見ても、主食用のカリフォルニア米の輸入へとつながりかねない。
 国民の主食である米の安定供給を図る立場からも、米の輸入は断じてすべきではない。政府の明確な見解を明らかにされたい。

  右質問する。