質問主意書

第100回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六号

酒類販売免許制度等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十八年十月十三日

秦 豊   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   酒類販売免許制度等に関する質問主意書

 酒税法に基づく酒類販売免許制度は、職業選択の自由、営業の自由の観点から、憲法の精神に反するのではないかという疑念を禁じえない。ここでは、現行酒類販売免許制度が、社会的・経済的状況の変化により、酒税法上の使命を終え、存続の合理性を失つたばかりでなく、様々な弊害をもたらしているとの観点から、以下の質問をする。

一 酒類販売免許制度(以下「酒販制度」と言う。)は、酒税確保の重要性に基づき設けられているというが、言うまでもなく酒税は、主に製造者がその製造場から移出した酒類につき納税するものであり、一般に酒類販売業者が納めるべきものでないことは論をまたない。
 したがつて、酒税収入確保のみの目的で、間接的に酒類販売業者に対し、酒税法上の免許要件、義務を課するのみならず、念書等をもつて規制、監督措置をとることは、著しく合理性に欠けると考えるが、政府の見解を伺いたい。

二 ちなみに、酒類と同程度の高率な課税対象となつているガソリン等の販売は、揮発油販売業法による登録制となつており、揮発油自体の危険性から貯蔵・取扱いについては、消防法の規制を受けているわけだが、政府は、酒税法上の販売免許制度も揮発油販売業法上の登録制度も、各々個々に十分機能しており、見直しは不要であるとの見解と伺つている。
 しかし、行政の介入による営業の自由の制限を必要最少限にとどめ、常時これを批判検討すべきことは、臨調の意見を待つまでもなく当然の政府の責務であると考える。一例としてあげた揮発油販売業法の登録制度との比較においても、酒税法による免許制度は、市場参入規制が必要以上に過度であり極めて均衡を欠くと考えるが、政府は見直しを行う責任はないと考えるのか。

三 酒販制度をより自由化する方向は、第一次臨調の答申で明確に勧告されていたが、その後、行政監理委員会においては「直ちに結論が得がたい」事項に整理され、第二次臨調においては要検討事項にもあげられていない。第一次臨調の指摘ののち、政府ならびに行政監理委員会は、酒販免許制度見直しのため、どのような作業を行い、どのような結論を得たのか。
 第二次臨調発足までに何らかの結論を得なかつたとすれば、既往答申等の未措置事項たる酒販制度見直しは、第二次臨調の優先的許認可等の整理合理化検討項目としてあげられるべきであつたと考えるが、政府の見解を伺いたい。

四 日本酒造組合中央会の昭和五十七年度第二回評議会の場で、国税庁酒税課は、第二次臨調答申の資料を配布し、答申を厳しい指摘であると受けとめ「今後この(答申の)中身を検討してゆく。」と述べている。
 当日配布した資料の内容を説明のうえ、その後の国税庁の検討結果を伺いたい。

五 法律上も問題点の多い酒販制度であるが、酒類の流通組織を固定的、閉鎖的なものとし、流通における価格競争を抑止している原因ともなつていることは、すでに中央酒類審議会等によつても指摘されているところである。経済原則を無視した固定的、閉鎖的な流通組織は、消費者を無視した業者間のリベート競争を発生させ、「値引き、リベートは流通業者向けであるため、製造業者間のシェア争いの手段にとどまつており、実需の拡大に余り寄与していない。」(中央酒類審議会報告・昭和五十八年五月)という結果をまねいている。
 したがつて、酒販制度を撤廃し、自由競争を導入することが、流通組織を消費者のニーズに適合するよう活性化し、実需を拡大し、ひいては酒税確保の目的を十分に達することができると考えるが、政府の見解を伺いたい。

六 清酒製造業者については、特に経営姿勢の消極性、販売活動の前近代性、非合理性が指摘され、このような消極性、前近代性、非合理性は、酒販制度による流通組織の固定化を改善しない限り、清酒産業の衰退を促進するものと考える。その結果として酒税の確保はあやうくなり、現在でも「総体として酒税負担力は限界を越えている。」(日本酒造組合中央会要望書・昭和五十八年一月)という状況である。これに対して行政は、酒税負担の軽減などの対症的な支援ではなく、業界の自助努力を誘導する政策を推進すべき責任があると考える。政府としては、税負担力が限界を越えると自証する清酒等製造業界に対し、どのような支援をしようというのか具体的に述べられたい。

七 本院においても酒販問題については、国政調査権を駆使し熱心に論議されているが、いわゆる「東駒問題」として指摘された問題に対して、政府は、「鋭意この問題に取り組んでおりまして、近いうちに何らかの結論と申しますか、行動と申しますか、そういうことを行いたい。」(昭和五十八年三月二十三日参議院大蔵委員会)と答弁しているが、政府はこの問題に対し、いかなる結論を得、行動をしたのか。

八 政府は、「東駒」の製造の工程について調査したと述べているが、その調査の結果、「東駒」の製造工程は、政府の通達による指導の範囲を越えていたのか。また政府は、「東駒」の安売りの表示につき「経緯など鋭意調査中でございます。」と述べているが、調査結果どのような経緯が明らかになつたのかを示したうえで、どのような違法性があつたのか明らかにされたい。

九 清酒等を製造出荷している東菱酒造は、酒税六億五千七百三十万円を滞納し、税務当局より昭和五十八年一月十九日以降数次にわたる差し押えを受けているが、この差し押えについて、(一)差し押え前後に一部納税し、また順次納税の意志を示したにもかかわらず、差し押えを強行。(二)六億五千七百三十万円余の滞納に対し三十九億円近い超過差し押えの疑い。(三)生産工程中の仕掛け品に該当する原酒及びろ過移動中の原酒の差し押え。(四)社員給与にあてた現金預金の差し押えなど、公権力の濫用ではないかとする疑念も蔽えないのではないのか。政府の見解を伺いたい。

十 中央酒類審議会報告では、「必要以上の厳格な酒税法の執行は清酒産業の発展に悪影響を及ぼす。」と指摘している。政府は、東菱酒造と同等程度の酒税滞納が今後他の業者において発生した場合、東菱酒造に対して行つたように、企業そのものを抹殺してしまう完膚なきまでの処置により徴税する方針に変わりはないのか。

十一 東菱酒造の差し押え物件は、昭和五十八年六月十五日公売され、末広酒造(福島県会津若松市)、山形屋(長野県中野市)、二北酒造(青森県百石町)、大谷醸造(福島県白河市)の四社が八億六千万円で共同買い受け人となつた。しかし、買い受け四社は日本酒造組合中央会より買い受けを委託されたものであり、その資金も同会より拠出したものと考えるが、それに相違ないか。また、公売価格八億六千万円に五億七千万円の酒税が含まれているものと考えるが、それに相違ないか。

十二 一般会計予算二億九千万円余、需要開発特別予算八億二千万円余という予算規模の日本酒造組合中央会は、どのような手続きで八億六千万円にのぼる買受け資金を拠出したのか。あるいは同会の信用保証により買受け四社が資金を調達したのか。また、四社が買い受けた物件はアルコールに蒸留されたが、それにしたがつて酒税法の規定による酒税の戻し入れが行われるはずである。その金額を明示したうえ、どのような手続きをもつてどこへ戻し入れされたかを明らかにされたい。

十三 政府は、以上のような日本酒造組合中央会の公売への介入につき、その手続き上何ら問題はないと考えるのか。

  右質問する。