質問主意書

第97回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

カモシカによる被害の補填等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十七年十二月二十三日

藤原 房雄   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   カモシカによる被害の補填等に関する質問主意書

 本員は、昨年十一月二十八日、ニホンカモシカ(以下「カモシカ」という)が植栽幼齢木等に激甚な被害を加えている実情に鑑み、その抜本的な解決策を求めて質問主意書を提出した。
 また、去る第九十六回国会の参議院予算委員会における同趣旨の質疑に対し、鈴木前内閣総理大臣は「環境庁、文化庁さらに林野庁、この関係各省の間で被害防止と、被害が発生した場合における補償の問題につきまして、政府として責任のある解決策を出すように、私からもこれを指示いたしまして促進をするようにいたします。」(同委員会会議録第九号十三頁)と答弁している。
 しかるに、政府は、未だに効果的な対策を講じておらず、とりわけ損失補填問題の解決については何等の前進も見せていない。
 これでは、これまで激甚な被害を被つてきた林業関係者が納得するところとならないのは当然である。そればかりか、損失補填の問題を曖昧にしたままでは、カモシカの保護と被害防止の両立を図るための措置として、政府が鳴り物入りで進めている保護地域の設定についても、これからの予定地域のほとんどが広範な民有林地域であることからみて、その設定作業にも大きな支障をきたすものとなることは明白である。
 関係地域においては、積年の被害の影響で造林意欲の低下は著しいものとなつており、これが、被害激甚地の放棄面積の拡大となつて現われ、加えて、昨今の林業をとりまく厳しい情勢が被害林業者の経営をさらに大きく圧迫するところとなつている。
 よつて、本件の早期解決を図るため、次の諸点について質問する。

一 被害の補填について

1 カモシカによる被害の補償については、文化財保護法第八十条第五項および第六項にいう損失補償の規定を適用できないのか。類推解釈による適用の可能性も含めて明確にされたい。
 もし、適用できないとするならば、その理由を明示するとともに、国による補償措置は、国の予算に係わることであることからみて、政府自らが現行の文化財保護法を直ちに改正し、法的不備を是正すべきであると考えるものであり、また、そうすることが、適法行為による損失に対して、その補償を義務付けた憲法第二十九条第三項の規定を尊重することにもなると考えるが、その用意はないか。なお、これまでの逸失損については、別途何等かの補填措置を講ずべきものと考えるがどうか。
2 昭和五十四年八月三十一日の環境庁、文化庁、林野庁の三庁による合意によれば、カモシカによる被害の補填は「現行制度・施策の適切な運用により対処する」となつているが、この「現行制度・施策」とは、具体的に何を意味しているのか。また、その場合、文化財保護法第八十条第五項および第六項にいう損失補償の規定は機能することになるのかどうか明示されたい。
3 昭和五十六年十二月十八日付内閣答弁書(内閣参質九五第一六号)においては、損失補償についての申立書に関し、その取扱いを検討している旨の回答がなされたが、その後、すでに一年を経過した今日においても未だに決定書が交付されていない。交付が著しく遅れている理由は何か。
4 カモシカによる被害が、文化財保護法にいう損失補償の規定を適用できるものとするならば、前項にいう決定書の交付の著しい遅れは、行政事件訴訟法に規定された不作為の違法に当たると思われるがどうか。
 また、いずれにせよ、前項の申立書に対しては、損失補償に応ずるのか、あるいは「棄却」ないしは「却下」するのかということについて、文書でもつて速やかに明確な回答を示すべきものと考えるがどうか。

二 保護地域の設定について

1 前述の三庁合意によれば「カモシカの生息している地域を順次区分の上、保護地域を計画的かつ可及的速やかに設けるものとする」となつているが、現在、すでに保護地域の設定を完了している地域および今後設定を予定している地域はどこか。
2 今後、保護地域として設定する予定の対象地域に民有林が相当範囲にわたつて包含されていると聞くが実情はどうか。
 また、この場合、保護地域内においてはカモシカによる被害が発生することが考えられるが、そのときの補償措置をどう考えているか。なお、その際の補償措置については、当該森林所有者が納得できるものでなければ、今後の保護地域の設定作業も円滑に進められぬものと思われるが、どう対処してゆくか。

  右質問する。