質問主意書

第96回国会(常会)

答弁書


答弁書第一四号

内閣参質九六第一四号

  昭和五十七年七月十六日

内閣総理大臣 鈴木 善幸   


       参議院議長 徳永 正利 殿

参議院議員秦豊君提出航空事故調査委員会設置法の解釈と運用の実態に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出航空事故調査委員会設置法の解釈と運用の実態に関する質問に対する答弁書

一について

 航空事故調査委員会(以下「委員会」という。)の任務は、航空事故の原因を究明するための調査を適確に行い、航空事故の防止に寄与することである。
 委員会は、昭和四十九年一月十一日に発足後、昭和五十七年七月十三日までに三百七十六件の航空事故調査を行い、このうち三百五十九件について航空事故調査報告書を作成し、これを運輸大臣に提出し、及び公表する等航空事故の防止に寄与している。

二について

 「委員会を運輸省に置く」という規定は、運輸省の管轄下に委員会を設置するという意味である。また、「所轄」という語は、行政事務を分担管理する各大臣とその管轄下にある行政機関との間の関係を表すときに用いられ、当該機関の独立性が強いものについて用いられている場合が多い。

三について

(1) 現在まで勧告又は建議が行われていないのは、航空事故の発生後、速やかに運輸大臣等において所要の措置が講ぜられることもあり、勧告又は建議を行うべき現実の必要性が認められなかつたためである。
 なお、委員会は、航空事故調査報告書において所見を示し、航空機の安全運航に関して関係方面の注意を喚起することも行つている。
 調査研究については、従来から随時行つているところであり、現在、軽双発機の片発不作動時状態での飛行特性に関する調査研究等の作業を進めているところである。
(2) 委員会においては、各専門分野にわたる航空事故調査官等の配置、各種の研修及び走査電子顕微鏡等調査用器材の整備等必要な能力の確保に努めてきているところである。
(3)及び(4) 航空事故調査は、航空事故の原因の究明を行うことが肝要であり、もつて航空事故を生ずるに至つた要因の排除に資し、航空事故の防止を図るものである。
(5) 航空法第七十六条第一項各号に掲げる事故以外の事態については、委員会による調査よりも、一般の行政組織の下で直ちに原因を究明して再発防止のための施策を迅速に講ずるべきものであり、航空法第七十六条の二の規定等に基づき処理している。
(6)(イ) 御質問の件については、調査研究の必要性が認められないものはないと考える。
   (ロ)及び(ハ) 御質問のような事実はない。

(7) 航空事故調査委員会設置法(以下「設置法」という。)又は航空事故調査委員会運営規則(以下「運営規則」という。)において特に規定は置かれていないが、一般的に委託研究調査等は、認められるものである。
(8) 設置法又は運営規則において特に規定はないが、委員会は、関係方面からの意見等を必要に応じ参考としてきているところである。

四について

 設置法第四条の規定により、委員会の委員長及び委員は、その職権を行使するに当たつて独立性が確保されている。

五について

(1) 委員長の専門領域は、動力装置であり、四人の委員の専門領域は、それぞれ法制、運航、無線・航空電子及び構造・飛行特性・人間工学的システム工学である。また、設置法第五条第四項の規定に基づき、委員長の職務を代理する者として榎本善臣委員が指名されている。
(2) 委員長及び委員の任期は、昭和五十八年二月二十一日までである。その再任については、両議院の同意を得ることとされている人事でもあり、諸般の事情を勘案して判断されるべきものと考える。

六について

(1) 航空事故調査は、通常の場合は、委員会及び事務局により処理されるが、特に重大な航空事故等特に高度の専門的な知識又は技術を要するものについては、委員等を補佐させるため、調査する専門事項ごとに専門委員を置くことができることとしたものである。
(2) 御指摘のとおりである。
(3) 本件事故を除き、専門委員が任命されたことはない。
(4) 本件事故の場合、次の四名が専門委員として任命されている。

図 表

七について

(1) 航空事故調査官の専門領域は、航空機操縦関係(五名)、航空機検査関係(五名)、航空管制関係(三名)及び無線・システム関係(一名)である。また、首席航空事故調査官は、広田広康航空事故調査官である。
(2)及び(3) 設置法第十四条第二項の規定に基づき事務局に置かれる航空事故調査官は、国家公務員法第五十五条第一項の規定に基づき、運輸大臣により任命されるものである。
(4) 各種研修の活用、調査用器材の整備、参考文献の収集、研究等を通じて事故調査能力の向上を図つている。
(5) 昭和五十年度に航空事故調査官二名を約三週間派遣した。その後は、NTSB側の事情もあり、NTSBへの派遣は行われていない。
 なお、航空事故調査官の海外研修としては、昭和五十五年度から米国南カリフォルニア大学の航空事故調査コースを受講させている。

八について

(1) 御質問の件については、次のとおりである。

図 表

(2) 御質問のような事実はない。
(3) 現時点においては、考えていない。
(4) 衆議院附帯決議の趣旨は、尊重されてきていると考える。

九について

 本件事故発生直後、運輸大臣から事故発生通報を受け、直ちに調査官を現場に派遣するとともに調査を開始した。

十について

 御質問の件については、次のとおりである。

図 表

十一について

 本件事故調査については、昭和五十七年二月に十四名の航空事故調査官及びその他四名の職員が、調査官に指名された。主管調査官は、首席航空事故調査官である。

十二について

 現在のところ、委員会が特に定めたものはない。
 なお、委員会は、設置法第十五条第一項の趣旨にのつとり、国際民間航空機関(ICAO)の作成した「航空機事故技術調査マニュアル」に従つて事実調査を行つているところである。

十三について

(1) 委員会は、運輸大臣に対し、航空機検査官の派遣並びに計器着陸装置及び進入角指示灯の飛行検査について援助を求めた。
(2) 運輸大臣は、事故発生後職員を派遣し、事故物件の調査等を行わせた。
(3)及び(4) 運輸大臣は、事故現場に職員を派遣し、事故機の状況等の把握等を行わせた。

十四について

 御質問の件については、次のとおりである。

図 表

十五について

(1) 設置法第十九条第一項の趣旨は、委員会が航空事故調査を終える前に、当該事故の原因に関係があると認められる者に対し、意見を述べる機会を与え、もつて、その者の利益を保護しようとするとともに、委員会の判断をより公正なものにしようとするものである。
(2) 運営規則第二十三条第二項及び第四項において、原因関係者が出頭できない場合の意見の聴取について規定されている。ただし、原因関係者が刑事訴訟法等の手続により身柄を拘束されている場合は、刑事訴訟法等の定めるところに従つてその取扱いがなされることとなる。
(3) 運営規則第二十四条第二項において、原因関係者に対する意見の聴取は、その者に関係がある事項を示して行うこととされており、原因関係者に対し報告書案中その者に関係する部分を示して意見の聴取を行つている。

十六について

(1) 聴聞会が開催されたことはない。
(2) 原因関係者も公述人になり得る。ただし、原因関係者が刑事訴訟法等の手続により身柄を拘束されている場合は、身柄拘束の性格にかんがみ公述人となることはできない。
(3) 運営規則第二十六条第二項の規定により、聴聞会において公述しようとする者は、事実調査に関する報告書の案を、委員会が公示する場所において閲覧することができることとされている。ただし、原因関係者が刑事訴訟法等の手続により身柄を拘束されている場合は、身柄拘束の性格にかんがみ閲覧することはできない。
(4) 本件事故の場合、旅客を運送する航空運送事業の用に供する航空機について発生した航空事故であつて、一般的関心を有するものであるので、設置法第十九条第三項の規定により聴聞会を開催する予定である。

十七について

(1)から(8)まで 設置法第二十四条は、不利益取扱いの禁止という法的保護がない場合には、航空事故調査に必要な真実の陳述等を期待することができないので設けられた規定である。設置法第十五条第二項各号に掲げる処分の対象となる者がその処分に応じて、報告、物件の提出等の行為をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを受けた場合は、設置法第二十四条により違法とされるものである。
(9) 現場調査により知り得た事実は、必ずしもすべて発表しなければならない性格のものではなく、個人のプライバシーの保護等の諸事情を勘案しつつ、可能な限り公開すべきものと考えられる。運営規則第十八条は、この趣旨に沿つて設けられたものである。

十八について

(1)及び(2) 航空事故調査は、航空事故の発生原因を究明することにより、同種の航空事故の再発を防止することを目的とする調査である。その航空事故調査を公正かつ適確に行うため、必要最小限度の処分権限を付し、罰則によりその実効性を担保することとしたものである。
(3) 委員会からの要請に基づき、関係資料の提出を行つているところである。
(4) 委員会は、航空事故調査を迅速かつ適確に行うために、航空事故に関係のある物件を確実に収集分折する必要があると認めるときは、設置法第十五条第二項の規定に基づき、当該関係物件の所有者等に対し当該物件の提出を求めることができることとされている。
(5)(イ) 航空事故調査は、航空事故の原因究明をすることにより航空事故の防止に寄与することを目的とする活動であり、他方、警察その他の捜査機関が行う犯罪捜査は、当該事故の原因を明らかにし、刑罰法令の適正かつ迅速な適用実現を目的とする活動であり、両者はそれぞれ独立に行われる。調査活動と捜査活動が競合する場合は、必要な協力及び調整をするよう努めているところである。
   (ロ) 海難審判と刑事手続は、それぞれ独立に行われる。ただし、刑事訴追については、物的証拠に乏しいという海難の特殊性によりその原因究明には高度な専門的・技術的判断を必要とすること、海難審判において海技従事者等の職務上の故意又は過失の認定がなされること等にかんがみ、刑事証拠の十分な場合等を除き、原則として海難審判先行という運用方針がとられている。
 民事事件においても、海難審判と民事手続は、それぞれ独立に行われる。
   (ハ) 米国において、制度的に航空事故調査が、刑事・民事手続に先行していることはない。

(6) 航空機が行方不明となつた場合等極めて異例な航空事故を除き、特に御質問のようなことはない。
(7) 委員会による再調査を不可能とする法律上の根拠はない。

十九について

(1) 航空事故調査報告書においては、個人のプライバシーの保護等の諸事情を勘案しつつ、可能な限り事実を公表するよう努めてきているところである。
(2) 自衛隊の使用する航空機(以下「自衛隊機」という。)に係る航空事故(自衛隊機が自衛隊以外の者が使用する航空機と衝突し、又は接触したことにより発生したものを除く。)については、民間航空とは特段のかかわりがないほか、自衛隊機の運航方法、構造等に係る特殊性から、その取扱いには一般の航空事故とは異なる特別の配慮を要することから、防衛庁において調査しているものである。また、防衛庁の作成に係る航空事故調査報告書は、航空事故の実態を明らかにし、航空事故の防止に資することを目的として、自衛隊機の運航方法、構造等に係る特殊性を考慮に入れ検討し、これを踏まえて作成する部内用のものであるので、一般的にこれを公表することは適当でないと考えている。
 事故分科委員会が日米合同委員会から付託される米軍機事故について検討及び勧告を行う場合、政府としては、事故の態様等から判断し、必要と認めるときは、技術専門家の意見を徴し得るよう措置することを排除するものではない。また、航空機事故共同調査委員会及び事故分科委員会に関する合意文書については、その要旨が既に公表されており、事故分科委員会の検討結果等については適宜その要旨が公表されてきている。

二十について

 一つの御意見として、業務遂行の上で参考とさせていただいている。