第96回国会(常会)
答弁書第一二号
内閣参質九六第一二号 昭和五十七年四月二十三日 内閣総理大臣 鈴木 善幸
参議院議員秦豊君提出イラン石油化学事業に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員秦豊君提出イラン石油化学事業に関する質問に対する答弁書 一について 日本・イラン合弁による石油化学事業(以下「IJPCプロジェクト」という。)の推進のため、政府関係の機関からの所要の支援を行うとの昭和五十四年十月十二日の閣議了解に基づき、昭和五十五年三月及び八月の二度にわたり海外経済協力基金から計五十四億円の出資が実行されている。 二及び四について IJPCプロジェクトについては、本プロジェクト完成に対するイラン政府の強い要望を配慮し、関係省庁間で十分な検討を行つた結果、本プロジェクトの推進がイランの経済発展及び日本・イラン両国間の経済交流を促進し、重要な産油国であるイランとの友好関係の増進に寄与することが多大であると認められたので、政府においても昭和五十四年十月十二日の閣議了解により政府関係の機関からの所要の支援を講ずることとしたものであり、特に他のプロジェクトに比し結論を急いだということはない。 三について 政府としては、IJPCプロジェクトに対する支援策を検討する過程で、政府ミッションの派遣を始めとして、採算性、原料供給の確保等についても十分な検討を行つており、関係省庁間に意見対立を残したまま閣議了解を行つたということはない。 五について IJPCプロジェクトの採算性については、三についてにおいて述べたように政府ミッションの調査結果等に基づき慎重な検討を行つた上で評価を行つたものであり、昭和五十四年十月十二日の閣議了解時においては、本プロジェクトは採算性のあるプロジェクトであると判断されていた。
六について 原料ガス等の価格についても、合弁契約の両当事者が、現在、五についてにおいて述べたフィージビリティ・スタディの中で検討を行つているところである。 七及び八について 海外経済協力基金による大型案件に対する出資については、当該案件の、(1)経済開発効果、(2)相手国との関係に及ぼす効果、(3)我が国の資源確保、産業立地等の観点からの意義、(4)我が国民間企業による推進体制、(5)民間出資のみによる事業実施の困難性等を関係省庁間で慎重に検討の上決定することとしており、IJPCプロジェクトについては、これらの観点からみて基金出資に適合する案件と判断した上で政府支援を決定したものである。 九及び十四について IJPCプロジェクトは、日本・イラン両国間における重要な案件であり、できれば、完成されることが望ましいと考えている。しかしながら、民間企業である日本側当事者は、本プロジェクトは爆撃による被害、長期間の工事中断に伴う金利負担増等による建設費の膨脹のため、採算性に問題が生じてきているとして、本プロジェクトに対し無制限に資金を投入することはできないという立場をとつている。一方、イラン側は、現時点においても本プロジェクトの採算性は失われていないとして工事の完成を強く希望しており、現在両当事者間において交渉が行われている段階である。政府としては、両当事者が今後とも極力交渉を重ね、合意に達することが望ましいと考えており、当面、交渉の成り行きを見守つていくこととしている。 十について 爆撃による被害状況の把握のためには、民間専門家による現地調査が今後実施されることが必要であるが、イラン・イラク紛争が継続している現状においては、その時期は確定していない。 十一について 完成までの総所要資金量を見込むに当たつては、仮に損害復旧を考慮しないとしても、工事中断に伴う金利及び人件費の負担増、物価上昇の影響等種々の要素を勘案する必要がある。このため、合弁契約の両当事者が、現在、五についてにおいて述べたフィージビリティ・スタディの中で検討を行つているところである。 十二について IJPCプロジェクト関係でイラン側が負つている円借款等の対日債務のうち、日本側投資法人であるイラン化学開発株式会社がイラン・日本石油化学株式会社に対して融資したいわゆるICDCローンについては、昭和五十六年五月以来の金利の支払が、また、昭和五十七年二月の元本の返済がなされていない。しかし、円借款等ICDCローン以外の債務については、現在までのところ約定に従つて返済が行われている。
十三について 今年度の返済計画についても、契約当事者の同意を得ずに公表することは差し控えたい。また、イラン側の返済能力に関しては、今後のイラン・イラク紛争の推移等種々の要因があり確たることを申し上げることはできない。 |