質問主意書

第96回国会(常会)

質問主意書


質問第一三号

租税負担の不公平是正についての政府の基本的な考え方に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十七年四月二十日

鈴木 一弘   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   租税負担の不公平是正についての政府の基本的な考え方に関する質問主意書

 臨時行政調査会の第一次答申において、制度・執行両面における税負担の公平確保の必要性が「緊急に取り組むべき改革方策」としてとりあげられているが、このような指摘を受けるまでもなく、政府においては、不公平税制の是正は財政再建に比肩する最重要の課題としての認識が必要であり、その実現にまい進すべきである。
 税負担公平の確保なくしては、財政民主主義の達成は不可能であり、財政再建の実現も期待し得ないからである。
 しかしながら、国民からの強い要請を受けてきた利子・配当所得についての課税制度の是正、所得捕捉の不均衡による税負担の不公平是正についての最近における政府の対応ならびに一部政党の政治的な動きについては、疑問を抱かざるを得ない。
 よつて、グリーンカード制実施をめぐる問題及び所得捕捉の不均衡による税負担の是正に関し、以下の諸点について質問する。

一 利子・配当所得についての課税の適正化の手段の一つとして、昭和五十五年度の税制改正により、グリーンカード制度の導入が行われ、五十九年一月からの実施が既定の事実となつているにもかかわらず、最近、にわかにこれを延期し、廃止に追い込もうとする動きが活発化している。
 一方、大蔵大臣はグリーンカード制度実施は予定通りだとしながらも、実施と同時に高所得層の税負担緩和のための税率改正とか、分離課税の存続もあり得るとの意向を表明している。

(1) グリーンカード制導入のそもそもの目的は、少額非課税貯蓄適用の適正化を図るとともに、課税貯蓄についての利子・配当所得の総合課税化を実現し、分離課税によつて税負担が不当に軽減されていることを是正し、税負担の公平を期することにあつたはずであるが、改めてグリーンカード制導入の目的について示されたい。
(2) 自民党などを中心とするグリーンカード制実施延期の動きについて、政府としてはその理由をどのようにとらえ、またどう評価しているか。
(3) 金及びゼロクーポン債の販売高増加の現象が、グリーンカード制実施延期論の根拠の一つとなつているようであるが、昭和五十六年中の個人の金融資産増加額は三十五兆二千八百七十九億円であり、五十六年末の個人金融資産残高は三百三十八兆円に達している。
 このわが国の個人金融資産に占める金及びゼロクーポン債への資金の流れについての実態把握の状況と、我が国の経済に及ぼす影響をどうみているか。
(4) ゼロクーポン債購入者が満期前に売却した際のキャピタル・ゲインに課税する方法が検討中であるというが、適正な執行を確保し得る具体的な課税方法を示されたい。
(5) グリーンカード制度の導入を決定した五十五年度の税制改正の時点では、現行の所得税率を前提として、総合課税化による利子・配当所得の課税の適正化を図ろうとするものであつた。
 ところが最近、大蔵大臣は高所得層のみの負担軽減を図るための税率改正を行い、累進構造を緩和することがグリーンカード制実施の前提であるかのような発言をしている。
 マル優等の非課税貯蓄を不当に利用していたものが総合課税化されることにより、正当な課税を受けるようにすることは当然であり、また、分離課税で低率(三十五パーセント)の課税で済んでいたものを、担税力に応じて適切な税率で課税されるようにすることもまた当然であろうと考えるがどうか。
(6) また、グリーンカード制実施に伴い、たんに高所得層に適用される税率の緩和のみを実施すれば、五年間も所得税の課税最低限が据え置かれ、実質増税を強いられている低・中所得層の税負担に対する不公平感が拡大することは必至である。
 従つて、所得税体系の見直しについては、かねてよりわれわれが要求してきた所得税減税の実施も含めて全般的に行うべきと考えるがどうか。
(7) 所得税法第八十九条に定める税率のうち、三十四パーセント以上の各限界税率適用者の現況について伺いたい。
(8) グリーンカード制を実施しても、分離課税制度を存続させるならば、本制度は単にマル優等の非課税貯蓄の本人確認と、限度額管理が従来より厳格に行われるにとどまり、課税貯蓄の利子や配当所得についての税負担の不公平はそのままに放置されることになる。
 グリーンカード制実施とともに分離課税制度が廃止され、総合課税化が実現されることをここで確認したいがどうか。

二 所得捕捉率の格差によるいわゆるクロヨンの実態は、以前から社会通念として定着し、その是正が叫ばれてきた。
 然るに政府は、その是正策を講じることなく今日に至つているのであるが、その実態を明らかにすべきだとする国会の要請を受けて、国税庁は本年二月、調査報告を提出した。
 しかし、この報告「税の執行に関する実態調査について」は、所得税及び住民税についての申告の状況について調査したものであり、所得捕捉率の格差の実態を明らかにするものではない。

(1) 税制は、課税客体を明確にし、課税標準について正確な捕捉が行われなくては税負担の公平化もあり得ない。また、税負担の不公平は国民相互間の信頼を損ね、不信感を生じさせ助長することになりかねない。
 従つて政府は、クロヨンという社会通念が事実であるかどうかについて、国民の納得する綿密な調査を改めて実施する責務があると思うがどうか。
(2) この種の調査を課税当局が行うことは、税務執行について自己評価することにもなり、客観的な調査結果を得ることは期待し難い面もある。
 問題の重要性にかんがみ、権威ある第三者機関による調査が必要だと考えるがどうか。

三 租税負担の不公平是正については、グリーンカード制度の導入、所得捕捉率の格差解消のみならず、租税特別措置の改廃など実施すべきことが多くある。
 とくに、その最たるものは五年間の課税最低限の据え置きによる実質増税が、とりわけ給与所得者に厳しいことである。
 従つて、不公平是正の一環として、給与所得控除の引き上げ、二分二乗方式の採用なども含めて検討し、所得税減税を早急に実施すべきと考えるがどうか。

  右質問する。