質問主意書

第95回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第六号

内閣参質九五第六号

  昭和五十六年十一月十日

内閣総理大臣 鈴木 善幸   


       参議院議長 徳永 正利 殿

参議院議員渋谷邦彦君提出戦後ソ連強制抑留者の処遇改善に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員渋谷邦彦君提出戦後ソ連強制抑留者の処遇改善に関する質問に対する答弁書

一について

 政府が従来から述べているとおり、ソ連による日本人捕虜の不当な抑留は、「日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルベシ」とするポツダム宣言第九項に違反し、また、日本人捕虜に対する非人道的な取扱いは、国際法に違反したものであつたと考える。

二について

 我が国が、ポツダム宣言を受諾し、降伏文書に署名した過程で、ダグラス・マックアーサー連合国最高司令官のソ連軍に対する権限等につき確認を行つたかどうかは明らかでない。

三について

 抑留国が捕虜を人道的に待遇しなければならないということは、第二次大戦当時既に慣習国際法として確立していたと考えられ、捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約第十三条もこれを確認している。しかし、御指摘のような「送還後の捕虜の補償請求権を母国に属するものとした」慣習国際法が存在したことはない。
 なお、同条約は、憲法第九十八条第二項にいう日本国が締結した条約に該当する。

四について

 先の大戦に関しては、戦中戦後を問わず、国民のすべてが、多かれ少なかれ、戦争による各種の犠牲を被つているが、これらのいわゆる戦争犠牲については、国民のひとしく受忍しなければならなかつたところであり、国に補償する義務があるとは考えていない。
 しかしながら、政府としては、恩給法、戦傷病者戦没者遺族等援護法、戦傷病者特別援護法、引揚者等に対する特別交付金の支給に関する法律等により、特に一般の国民とは違つて特別の措置を要する者について必要な援護等の措置を講じているところであり、これら一連の措置をもつて、この種の問題に対する国の措置は終わつたものと考えている。
 ソ連強制抑留者についても、抑留に起因して死亡した者の遺族及び抑留に起因して障害を受けた者に対しては、恩給法、戦傷病者戦没者遺族等援護法、戦傷病者特別援護法により種々の給付を行うなどできる限りの援護等の措置を講じているところである。
 したがつて、ソ連強制抑留者に関して新たな措置を講ずることは考えていない。