質問主意書

第95回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一六号

カモシカ問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十六年十一月二十八日

藤原 房雄   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   カモシカ問題に関する質問主意書

 ひところ絶滅の危機に瀕していたニホンカモシカ(以下「カモシカ」という)が、昭和三十年に文化財保護法に基づく特別天然記念物に指定され保護措置が強化されて以来、その頭数は年々回復し、昭和五十年から昭和五十三年にわたる環境庁の調査結果によれば、全国三十都府県で約七万五千頭前後に及ぶカモシカの生息が推定されるところとなつている。
 そのため、近年においては、カモシカが山村の集落付近まで出没するところとなり、農・林産物、とりわけ植栽幼齢木に対し著しい食害を及ぼすに至つている。
 わけても岐阜県、長野県、岩手県等における被害は激甚で、関係地域住民は、政府に対して過去十年有余にわたり、その抜本的な解決策を求めて、数十回に及ぶ強い要請を繰り返してきている。
 それにもかかわらず、政府が未だに実効ある措置をとつていないことから、現在でもなお被害は増大の一途を辿つている。
 本年、岐阜県下の八市町村の被害地を対象に専門家が行つた毎木調査の結果によつても、植栽幼齢木の八十二%から九十五%が被害を被つていると指摘されているが、こうした被害に対する損失補填についても、国は未だ何も手立てを講じていない。
 もとよりカモシカを保護することに異論はない。しかし、被害対策をないがしろにした保護のあり方は、早急に是正されるべきである。また、カモシカ問題に係る所管が環境庁、文化庁、林野庁の三庁に分れていることから保護と被害の調整に関し、政府の責任ある統一した対応がなされていないことにも、この問題の解決が遅れている大きな要因があると考える。万一、こうした事態をこのまま放置することになれば、山村住民の生活権をますます侵害することとなるばかりか、植林意欲をいつそう減退させ、治山治水や国土保全等、森林の持つ公益的機能にも重大な支障をきたすものとなることは明白である。よつて、山村住民の生活権擁護と森林の持つ公益的機能の維持強化を図る見地から、次の質問をする。

一 被害等の実情について

(1) 政府は、カモシカによる被害(逸失利益も含めて)の実情をどう掌握しているか。
(2) 政府による被害の実情掌握は現地における被害実態と大きくかい離しているようであるが、政府も毎木調査によるなど、より厳密な被害調査を行うべきではないか。またカモシカの、生息の実態についても、一層厳密に再調査を行う用意はないか。

二 保護地域等の設定について

(1) 昭和五十四年八月三十一日の環境庁、文化庁、林野庁の合意によれば、カモシカの「保護地域を計画的かつ可及的速やかに設ける」としているが、この行政措置の全国的な作業の完了は、いつを目途としているか。
(2) 前項にいう行政措置を法的根拠に基づく保護地域の設定に切り換える用意はないか。あるとすれば、いつを目途としているか。
(3) 激甚な被害地域を抱えた自治体から、法規制に基づくカモシカの「食害激甚地指定」を行い、同地域に対しては、復旧造林のために必要な予算を優先的に確保すると同時に、文化財保護法第七十一条の規定による「特殊事由」としてカモシカを特別天然記念物から解除し、普遍的捕獲のできる措置が講ぜられるよう強い要請がなされているが、この考え方についてどういう見解を持つているか。また、こうした考え方を政府として採用できないものとすれば、その理由を明らかにされたい。

三 公的機関による個体数調整について

 現在、三庁合意に基づき、公的機関が麻酔銃の使用等により個体数調整を行うこととなつているが、経費、人員、捕獲方法の制約から未だ十分な現状変更はなされていない。政府は、このような実情をどう理解し、今後、どのように対処していく考えか。

四 被害の補填について

(1) 昨今のカモシカによる被害は、関係林業者の受忍の限界を超える甚大なものとなつているが、これらの被害は、国がカモシカを特別天然記念物として指定し、かつ、そのことに端を発して生じた被害に対し、国が有効な被害防止策を講じなかつたことにその責任があると考えるものであるが、国に全くその責任がないといえるのか。
(2) カモシカによる被害の補填について、三庁合意は「現行制度の施策の適切な運用により対処する」となつているが、具体的には何を意味しているか、関係する法令については条項をも含めて政府の統一見解を明示されたい。
(3) 万一、現行制度・施策の運用によつて十分な損失補填が不可能な場合は、別途、抜本的に何らかの救済措置を講ずべきであると思うが、その用意はないか。
(4) 昭和五十五年四月、岐阜県下の被害地七市町村の各々の代表が連名で、文化庁長官に対し、文化財保護法第八十条第五項の規定に基づく損失補償の申立書を提出し、昭和五十六年二月には再請求の申立書を提出しているにもかかわらず、未だに決定書が交付されていないとのことであるが、決定書の交付が遅れている理由は何か。また文化庁長官は、早急に現実を直視した決定を下すべきものと考えるがいつまでに措置するのか。

  右質問する。