答弁書第一九号
内閣参質九四第一九号
昭和五十六年七月三日
内閣総理大臣 鈴木 善幸
参議院議長 徳永 正利 殿
参議院議員鈴木一弘君提出国営・公営の事業と金融行政に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員鈴木一弘君提出国営・公営の事業と金融行政に関する質問に対する答弁書
一について
(1) 国又は地方公共団体が直接又は間接に経営する諸事業は、各種の政策目的の下に、公共・公益的機能を付与されているものである。これら事業の中には、当該事業の性格上独占的に経営させているもの、民間の活動を補完する機能を営むことによつて所定の目的を達することが予定されているとみられるもの等各種のものが含まれていると考えられるが、いずれにせよ、国又は地方公共団体の経営する事業と民営事業との関係については、当該事業分野の特徴や個々の事業体の具体的性格を踏まえつつ、それぞれの公共性、公益性の程度や、経済的、社会的背景事情のいかんに照らして最もふさわしい姿にその在り方を位置づけるべき問題であると考える。
(2) 新たな時代に即応した簡素にして効率的な行政を実現するためには、高度成長期に拡大してきた行政の制度、運営の見直しを行うとともに、行政と民間との関係の在り方を見直し、その改革、合理化を図る必要がある。政府は、臨時行政調査会において、一九八〇年代以降を展望した中・長期的観点から行政の基本的在り方を審議願うこととしており、いわゆる官業と民業との役割分担等の問題についても、行政の役割に関する基本的見直しの一環として検討いただけることとなつているので、当面、同調査会の審議の動向にも着目しつつ、行政と民間との役割分担等に関する検討を進めてまいることとしたい。
(3) 金融の分野における官業の在り方に関する懇談会の検討結果については、政府として、これを尊重してまいる所存である。また、臨時行政調査会の意見又は答申については、臨時行政調査会設置法において、政府としての尊重義務が課されており、今後、同調査会からの意見等があれば、政府としては、これを尊重し、その具体化に努めていく方針である。
(4) 政府関係金融機関の行う融資の目的は、民間金融を補完することにあり、このことは、機関の各法律における目的規定の中でそれぞれ規定されている。
日本輸出入銀行、日本開発銀行においても、それぞれ法律第一条においてこの趣旨がうたわれているが、両銀行についてこれを更に明確にするため、日本輸出入銀行法第二十四条、日本開発銀行法第二十二条に「、、、銀行、その他の金融機関と競争してはならない。」旨、規定したものと考えられる。
二について
(1) 郵便貯金の名寄せについては、オンライン化が終わつた地域から順次コンピュータによる名寄せに切り替えて、正確、迅速かつ効率的な名寄せを行つている。
また、昭和五十九年からは、少額貯蓄等利用者カードにより本人確認及び名寄せを実施することとなるので、これにより一層限度額管理が徹底するものと考えている。過去五年間において、貯金総額が預入限度額を超えているため、減額の通知をしたものは、次のとおりであるが、これらはいずれも減額済みであり、国債購入に至つた例はない。
減額措置状況
(年 度) (預入限度額超過件数) (預入限度超過金額)
昭和五十年度 二二、二一〇件 三五六億円
昭和五十一年度 二五、九〇六件 三九五億円
昭和五十二年度 一九、〇八九件 二三〇億円
昭和五十三年度 二〇、二〇〇件 二二一億円
昭和五十四年度 二〇、六一八件 二一二億円
(2) 御指摘の限度額超過件数に係る事例については、郵政省から連絡を受けていないので、国税庁においては、その内容を承知していない。
また、税務調査等において限度額を超過した郵便貯金の利子を把握した場合には、適正な課税処理をしている。その全体的な計数は取りまとめていない。
三について
第一の点については、郵便貯金は、法律上預入限度額が設けられており、非課税貯蓄申告書の提出を要しないこととされているものであるが、少額預金の利子所得等の非課税制度は、上記のような制限のない民間金融機関の預貯金等について、一人元本三百万円までの範囲内(非課税限度)でその利子所得等を非課税とするものであるので、その非課税限度の利用を明らかにするため非課税貯蓄申告書の提出が求められているものである。
第二の点については、郵便貯金においては、従来から郵政大臣の訓令により、預入の際、運転免許証、国民健康保険の被保険者証、国民年金手帳等の確認資料の提示を求める等により本人確認を行うことを義務付け、少額預金の利子所得等の非課税制度と同様に対処しているところである。
なお、昭和五十九年以降は、少額貯蓄等利用者カード制度の実施により、郵便貯金においても預入の際、少額貯蓄等利用者カードの提示を求めて本人確認を行うことになつている。
第三の点については、郵便貯金の預入限度額の管理については、郵便貯金法の規定に基づき、郵政省が実施しているものである。
また、少額預金の利子所得等の非課税制度においては、非課税対象となる預貯金等の元本が申告されている非課税限度の範囲内であるかどうかの管理は、各金融機関等の営業所で実施されている。
第四の点については、郵便貯金と民間金融機関の預貯金等との制度上の差異等にも配慮しながら引き続き検討する。
第五の点については、定額郵便貯金と民間金融機関の一般の定期預金との付利の方法の違いによるものである。定額郵便貯金と同様の付利の方法による期日指定定期預金については、定額郵便貯金と同様の扱いがなされており、指摘されているような税制面での差異はない。
第六の点については、定額郵便貯金について、「御指摘のような商品性により、郵便貯金特別会計の支払利子率が下方硬直的なものとなり、ひいては政府関係機関等の資金調達コストの上昇を通じ財政負担が増大する等のおそれがあり、国民経済的観点から商品性の見直しが必要である。」という考え方と、「国民大衆に広く利用されている貯蓄手段であり、郵便貯金事業の経営努力により提供されているものであるので、預金者にとつて不利益となるような見直しは行うべきでなく、今後ともその改善に努めるべきである。」という考え方があるので、今後の在り方については、郵便貯金法の趣旨も踏まえ、望ましい姿について検討すべきものと考える。
四について
(1) 郵便貯金特別会計は、昭和五十三年度末で約二千八百億円の累積赤字を抱えていたが、昭和五十四年度から黒字基調に転じ、昭和五十四年度には単年度で約九百億円の黒字が生じ、また、昭和五十五年度は、単年度で約二千億円の黒字が見込まれることから、昭和五十五年度末には累積赤字も解消して約百億円の剰余金が生じる予定である。
昭和五十六年度は単年度で若干の赤字となる見込みであるが、その後については、最近のように金融経済の変動が著しい中で、確たる見通しを得ることは困難であるものの、今後とも郵便貯金特別会計の収支の健全性を確保すべく努力してまいりたい。
(2) 募集手当に係る予算は、郵政事業特別会計予算の(項)業務費の為替貯金業務運営に必要な経費のうち(目)職員諸手当の中に計上されている。
最近五箇年間における募集手当の予算額及び決算額は次のとおりである。
(年 度) (予 算 額) (決 算 額)
昭和五十二年度 四〇、七二八百万円 三二、一三六百万円
昭和五十三年度 四三、五六六百万円 三〇、〇五〇百万円
昭和五十四年度 四二、六二五百万円 三一、二一五百万円
昭和五十五年度 四一、一七八百万円
昭和五十六年度 三八、七九九百万円
募集手当は、永年にわたり、事業運営の円滑化を図る観点から、郵便貯金の契約を成立させたときや、募集成績の向上に貢献したときに支給してきているものである。
一方、国の経費については、従来から効率的使用を図るよう常に見直しを行つてきているところであり、募集手当についても、このような観点から、他の経費と同様に今後とも配意していくこととする。
五について
(1) 利子、配当所得等の総合課税と少額貯蓄等利用者カード制度は、既に法律において昭和五十九年から実施することとされており、これを確実に実施する。
(2) 少額預金の利子所得等の非課税制度等の現行の非課税限度額については、本制度の利用状況及び国民の平均的な貯蓄残高の水準等の現状からみて妥当なものと考える。
(3) 郵便貯金の預入限度額管理については、昭和五十八年以前の預入分を含めて、少額貯蓄等利用者カードの交付番号により行うことが大蔵省及び郵政省の両省で合意されているところであり、郵貯オンラインシステムの下で確実に実施されることになる。
(4) 郵便貯金の本人確認については、これまでも本人であることの確認資料の提示を求める等して、架空名義による預入の防止に努めている。
また、昭和五十八年以前の預入分については、昨年の大蔵省及び郵政省両省での合意により、昭和五十九年以降預入のものと合わせて少額貯蓄等利用者カードの交付番号により名寄せを行うとともに、払戻しの際、本人確認を行い、架空名義等のものについては、国税庁へ通知することとなつている。
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