質問主意書

第93回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

成田空港建設事件に係る運輸省・新東京国際空港公団の立入調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十五年十月十六日

秦 豊   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   成田空港建設事件に係る運輸省・新東京国際空港公団の立入調査に関する質問主意書

 昭和四十四年十二月十六日付事業認定により収用権(を行使する権能)を新東京国際空港公団(以下「空港公団」という。)名義で得たとする運輸省・空港公団は、土地物件調書作成のためとして、土地収用法第三十五条に規定する土地物件調査権を行使すべく、前後五回にわたり立入調査を行つたと聞く。
 一方、土地収用法第三十七条の二は、土地物件調書作成の特例(便法)について規定し、運輸省・空港公団が土地物件調査権に係る立入権行使を正当な理由なしに拒否・妨害され、測量・調査が著しく困難となつた場合、他の方法で知ることができる程度で作成される簡略調書での代替を容認し、現地でのトラブルを回避する道を開いている。事実、運輸省・空港公団の立入調査は、当該関係農民に拒否され、また反対同盟の抵抗にあい、立入調査を予定したかなりの土地につき、土地物件調書は、右便法による簡略調書で代替されているとも聞く。
 運輸省・空港公団は、トラブル回避の道が用意されているにもかかわらず、前後五回にわたる立入調査に係る立入権行使で、殊さらに刑事事件を二件発生させた。後に「三日間戦争」と俗称された第三次立入調査で、反対同盟の梅沢勘一氏及び同じく石井武氏の長女の石井光枝(現在、堀起光枝)さんは、自分の畑の中にいて、逮捕されたという。五回にわたる立入調査を通じて、運輸省・空港公団の立入権行使に係り起訴されたのは、右二名だけともいう。そしてこの二つの刑事事件の存在が、成田空港事件の解決を困難ならしめている要因の一つとも聞く。
 そこで、成田問題の本格的な解決の一助たらしめるべく、以下、塩川正十郎運輸大臣の御答弁を賜りたい。

一 運輸省・空港公団の立入調査は、昭和四十五年中に四回及び昭和四十八年に一回、合計、五回にわたり行われたが、そもそも土地または物件につき立入調査をしようとはしなかつた、つまり、立入調査が不要とされた収用地点(以下「収用事件番号」で代表する)もあつたし、土地調書または物件調書が作成されていないところもあつたのではないか。

(1) 立入調査を不要とした収用事件番号の全てを挙げ、それぞれ立入調査を不要とした理由を、土地調査及び物件調査の別に示されたい。
(2) 土地調書または物件調書が作成されていない収用事件番号を全て挙げ、土地調書または物件調書が作成されなかつた理由をそれぞれ示されたい。

二 前後五回にわたる運輸省・空港公団の立入調査につき、各回毎に、[1]立入調査日と計画された年月日、[2]立入調査が行われた年月日、[3]土地調査または物件調査の別に、立入調査を予定した全ての収用事件番号、[4]土地調査または物件調査の別に、立入調査が完了した全ての収用事件番号、[5]立入調査が未完了となつた収用事件番号の全てと立入調査が未完了となつた理由、[6]未完了となつたところのうち、土地物件調書が前記便法により簡略調書で代替されている収用事件番号の全て、[7]立入調査に関し逮捕された者の数、[8]立入調査に関し送検された者の数、[9]立入調査に関し起訴された者の数を罪名毎に、[10]運輸省・空港公団の立入権行使に係る事案で起訴された者の数を示されたい。但し、収用事件番号のないものについては、代表的な土地の所在・地番・旧所有権者名で示されたい。

三 運輸省・空港公団の立入調査権と刑法との関係について

(1) 刑法第二百三十四条について

(イ) 五回にわたる立入調査は、右条に規定する業務に該当するのではないのか。
(ロ) 五回にわたる立入調査で右条に規定する威力業務妨害の構成要件に該当する事態の発生はなかつたのか。あつたのであれば、その発生の年月日と関係する収用事件番号を示されたい。

(2) 刑法第九十五条第一項について

(イ) 運輸省・空港公団の立入調査権に係る立入権行使は、右条項に規定する公務執行ではないのか。
(ロ) 五回にわたる立入調査で右条項に規定する公務執行妨害の構成要件に該当する事態の発生はなかつたのか。あつたのであれば、その発生年月日と関係する収用事件番号を示されたい。

(3) 土地収用法第三十五条第三項で準用される同法第十三条は、正当な理由があれば、運輸省・空港公団の立入権行使を拒みまたは妨げることを容認している。

(イ) 五回にわたる立入調査で未完了とされたところのうち、右「正当な理由」で拒みまたは妨げられたものがあれば、その収用事件番号を全て挙げられたい。
(ロ) 右「正当な理由」とは、どのようなものかいくつか例示されたい。
(ハ) 右「正当な理由」による行為と刑法第三十五条に規定する正当行為、同法第三十 六条に規定する正当防衛及び同法第三十七条に規定する緊急避難とは、法概念上どのように識別されるのか。

四 梅沢勘一事件及び石井光枝事件について

(1) 運輸省・空港公団は、立入調査に係る立入権行使にあたり、当該土地の占有者から立ち入りを拒まれ、または妨げられることを、高度の蓋然性をもつて予見し得たのではなかつたのか。
(2) 梅沢勘一事件及び石井光枝事件が発生した収用事件番号及び起訴の原因となつた行為のあつた土地の所在・地番・地目をそれぞれ示されたい。
(3) 運輸省・空港公団は、右事件に係る立入権行使にあたり、当該土地の占有者であつた梅沢、石井の両氏から、それぞれ立入拒否を告示されたのではなかつたのか。
(4) 運輸省・空港公団は、右両名の反対にもかかわらず、右両名の土地に限つて、なぜ侵入しようとしたのか。
(5) 右両事件に係る土地物件調書は簡略調書で代替されているという。とすれば、刑事事件が発生する以前に、なぜ、簡略調書作成に係る前記便法に移行する措置を講じなかつたのか。

  右質問する。