質問主意書

第92回国会(特別会)

質問主意書


質問第四号

成田空港建設に係る所謂第二次代執行に遭遇した小泉よねさんの権利に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十五年七月二十五日

秦 豊   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   成田空港建設に係る所謂第二次代執行に遭遇した小泉よねさんの権利に関する質問主意書

 昭和四十六年九月に行われた成田空港建設に係る行政代執行、いわゆる第二次代執行なるものが行われて以来九年を経た今に至るも、不分明でならないことがある。
 それは、たまたまその場所に生活し、生存していたが故に第二次代執行にさらされた小泉よねさんの生活権、生存権がどうなつていたかという問題である。
 成田空港の工事実施計画が認可・告示された昭和四十二年一月の段階において、彼女が第一期工事用地内の次の三筆の土地を占有していたという事実については、何人にも争いがないようである。しかし、その占有はどのようなものであつたのであろうか。

[1]成田市駒井野字台ノ田二一〇五番を所在・地番とする土地(現況地目・田)
[2]成田市取香字馬洗七〇番を所在・地番とする土地(現況地目・宅地)
[3]成田市古込字込前一六五番を所在・地番とする土地(現況地目・畑)

 成田空港建設事業について昭和四十四年十二月に行われた事業認定により、収用権を行使する権能を得たとする運輸省・空港公団は、収用手続きを進める際に作成した土地調書等の中で、右三筆の土地に係る権利関係を認定している。この権利関係は、真実の権利者が追求された結果のものでなければならないはずである。
 なぜなら、『戦前において、対抗要件を備えない権利者は全く無視され、さらに進んで、対抗理論を離れて「形式上土地所有者及ビ関係人ト看做サルヘキ者」を相手として手続きを行えばよいとまで説かれていたところ、農地買収に関する昭和二十八年二月十八日の最高裁判決を契機として、実務上は一転して真実の権利者の追求を余儀なくされ、この苦痛を多少とも軽減するため、昭和三十九年に所謂不明裁決の制度(土地収用法第四十八条第四項、第五項)が設けられた』(別冊ジュリスト一九号一一頁)のであるから。
 そこで、運輸省・空港公団が認定した右三筆の土地に係る権利関係の真否について、成田問題の本格的解決の一助たらしめるべく、正義と公平の原則にのつとり、鈴木善幸新首相の御見解を、以下賜りたい。

一 成田市駒井野字台ノ田二一〇五番を所在・地番とする土地について

(1) 本件土地について、小泉よねさんが占有を開始した時期は、おおよそ、何時頃のことか。
(2) 右占有を可能ならしめた事情は何か。
(3) 右占有開始後、昭和四十二年一月までの間に、占有が途絶した期間があれば、その期間の全てと途絶した事情を示されたい。
(4) 本件土地が、昭和二十二年十二月に所謂農地開放に係る自作農創設特別措置法(以下「自農法」という。)第三条により本多己代治氏から強制買収され、農林省所管の国有財産となつたとき、小泉よねさんは、

(イ) 本多己代治氏の小作人から国の小作人になつたということなのか、その他どういう事情にあつたのか。
(ロ) 本件土地につき、本多己代治氏に対し、賃借権などどのような権利を有していたのか。
(ハ) 本件土地につき、強制買収後は、賃借権などどのような権利を有していたのか。

(5) 本件土地が、昭和二十三年七月に自農法第二十三条による交換のためとして、伊藤清蔵氏の所有になつたとき、

(イ) 小泉よねさんは、国の小作人から伊藤清蔵氏の小作人になつたのではないのか。その他どういう事情にあつたのか。
(ロ) 伊藤清蔵氏が有していた農地の、全面積はどれ程か。
(ハ) 伊藤清蔵氏の死亡年月日は何時か。
(ニ) 本件土地と交換の対象となつた土地の所在・地番・地目(現況)・地積(実測)を示されたい。
(ホ) 右(ニ)の土地は小作地だつたのか。とすれば、小作人の氏名を示されたい。
(ヘ) 右(ニ)の土地は、その後どのように処分されたのか。

(6) 本件土地につき、小泉よねさんが有していた権利を、運輸省・空港公団は賃借権であると主張するが、

(イ) 賃借権契約が成立した年月日は何時か。
(ロ) 賃借権による賃借料の支払い形態(支払い額及び支払い方法)並びに賃借権の期限は、どのように定められていたのか。
(ハ) 賃借料の支払いは、現実には、どのように履行されていたのか。
(ニ) 農地法第三条の規定に基づく許可がなされた年月日は、何時か。

二 成田市取香字馬洗七〇番を所在・地番とする土地について、

(1) 本件土地について、小泉よねさんが占有を開始した時期は、おおよそ、何時頃のことか。
(2) 右占有を可能ならしめた事情は何か。
(3) 右占有開始後、昭和四十二年一月までに占有が途絶している期間があれば、その期間の全てと途絶した事情を示されたい。
(4) 昭和四十四年三月、本件土地は地番を七〇番の一及び同番の二として分筆され、前者が同年九月に運輸省・空港公団に買収されているが、

(イ) 右売買契約に係る地目・地積を示されたい。またそれらは公簿に基づくものか。
(ロ) 右土地につき、小泉よねさんは占有権を有していなかつたのか。とすれば、その理由は何か。

(5) (4)の後者に係る土地(七〇番の二を地番とする土地)について、小泉よねさんが有していた権利を、運輸省・空港公団は使用貸借による権利であると主張するが、使用貸借による権利が成立した年月日を示されたい。また、どのような事情で成立しているのか。

三 成田市古込字込前一六五番を所在・地番とする土地について、

(1) 本件土地につき、小泉よねさんが占有を開始した時期は、何時頃のことか。
(2) 右占有を可能ならしめた事情は何か。
(3) 右占有開始後、昭和四十二年一月までに占有が途絶している期間があれば、その期間の全てと途絶した事情を示されたい。
(4) 本件土地が、昭和二十七年三月に自農法第四十一条により藤崎勘司氏に売渡されたと聞くが、とすれば、このとき、小泉よねさんは、

(イ) 国の小作人から藤崎勘司氏の小作人になつたということなのか、その他どういう事情にあつたのか。
(ロ) 本件土地につき、国に対してどのような権利を有していたのか。
(ハ) 本件土地につき、政府売渡し後、藤崎勘司氏に対して、どのような権利を有していたのか。

(5) 昭和四十五年八月、本件土地は地番を一六五番の一及び同番の二として分筆され、後者が同年十一月に運輸省・空港公団に買収されているが、

(イ) 右売買契約に係る地目・地積を示されたい。またそれらは公簿に基づくものか。
(ロ) 右売買契約に係る土地につき、藤崎勘司氏が占有権を取得した年月日及び手続きを示されたい。

(6) (5)の前者に係る土地(一六五番の一を地番とする土地)が、昭和五十一年三月に運輸省・空港公団に買収されているが、

(イ) 右売買契約に係る地目・地積を示されたい。またそれらは公簿に基づくものか。
(ロ) 右売買契約に係る土地につき、藤崎勘司氏が占有権を取得した年月日、あるいは喪失した年月日の全てを示されたい。同時にそれら得喪の手続き、事情を示されたい。
(ハ) 右土地が(5)の後者に係る土地と同時に買収できなかつた事情は何か。

(7) 右(6)の土地について、小泉よねさんは無権原であると運輸省・空港公団は主張するが、その根拠は専ら農地法第三条の規定に基づく許可を受けていなかつたということにあるのか、他に根拠とするところがあれば、その全てを示されたい。
(8) 土地の不法占拠者について「内閣法制局によれば、河川法違反の工作物についても、土地収用に際しては移転料を支払わなければならない。以後の実務においては、この見解に準じ、土地に関して無権原で建物等を所有する者も、いちおう関係人として扱つている。けだし、土地収用法第八条第三項の文理には忠実であろう」(別冊ジュリスト一九号一一頁)にもかかわらず、右(6)の土地について、小泉よねさんをあえて運輸省・空港公団が関係人とは認定しなかつた理由は何か。
(9) 右(6)の土地の取得について、

(イ) 緊急裁決を申立てなかつた理由は何か。
(ロ) 行政手続きによらず、司法権に救済を求めた理由は何か。

  右質問する。