質問主意書

第91回国会(常会)

答弁書


答弁書第二三号

内閣参質九一第二三号

  昭和五十五年五月二十三日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員小笠原貞子君提出「旧土人保護法」を廃止し、アイヌ系住民の民族的民主的権利を守る新立法措置をとること等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員小笠原貞子君提出「旧土人保護法」を廃止し、アイヌ系住民の民族的民主的権利を守る新立法措置をとること等に関する質問に対する答弁書

一について

(一)及び(二) 北海道旧土人保護法の存廃については、北海道庁を始めとする地元関係者の意見も尊重しながら検討していくべきものと考える。
 また、今日までのウタリ諸対策の実施によりウタリをとりまく社会的、経済的環境等は漸次改善されつつあるものと考えるので、新しい法律の制定が必要であるとは考えていない。
(三) ウタリ対策事業は、広範多岐にわたり、関係省庁も多いので、これらの対策の総合的な検討を行うため、関係省庁で協議の結果、「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、関係省庁が連絡を密にして、国の立場からも総合的なウタリ対策を積極的に協力、推進してきたところである。
 また、北海道においては、「北海道ウタリ福祉対策」(昭和四十九年度~昭和五十五年度)の策定時及び毎年度の概算要求時に、ウタリの意見を十分徴していると聞いている。
 このような方法で、今日までウタリ諸対策を実施してきたことにより、ウタリをとりまく社会的、経済的環境等は漸次改善されつつあるものと考えるので、審議会の設置が必要であるとは考えていない。
(四)及び(五) 北海道が進めているウタリ対策を円滑に推進していくためには、国においても関係行政機関相互間の事務の緊密な連絡を図る必要があるので、政府は、昭和四十九年五月三十日に「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、同会議の運営に関する事務は、北海道と極めて密接な関係にある北海道開発庁において行わせることとしたものである。
 このような体制で、今日まで鋭意ウタリ諸対策を推進してきたことにより、ウタリをとりまく社会的、経済的環境等は漸次改善されつつあるものと考える。したがつて、今後ともこのような体制で、関係省庁間で密接な連けいを図りつつ所要の対策を推進していく考えである。

二について

(一) アイヌの衣食住、生業、芸能等の民俗文化財については、歴史民俗資料館の建設助成を行つて関連資料の収集保存を助けるとともに、北海道教育委員会の行う北海道内アイヌ民俗文化財についての総合的な調査及び保存団体が行う儀式、食物等についての記録映画の作成について助成を行い、その保存の充実に努めているところである。
(二) 民話や民俗芸能、年中行事等地域における伝統文化の伝承活動については、地方公共団体や保存団体に対して助成を行つているので、アイヌ民俗文化財の伝承について講習会等の事業を行う計画があれば、右助成の中で対応することを検討したい。
(三) アイヌ民俗文化財については、衣食住等の生活用具コレクション及びまるきぶねが重要有形民俗文化財に指定されており、ユーカラ、アイヌ建築技術・儀礼、春採と阿寒のアイヌ古式舞踊が記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として選択されているが、今後とも歴史的価値あるものについては、文化財保護審議会の審議を経て指定、選択の措置を考慮してまいりたい。
 なお、人間国宝といわれているのは、重要無形文化財のことであるが、これは芸能や工芸技術における高度に練磨された芸術的な伝統技法の保存のために行われる措置であつて、口頭伝承や習俗等については、事柄の性質上該当しないものである。

三について

 北海道が自ら積極的に進めようとして策定した「北海道ウタリ福祉対策」について、これまで政府としても関係行政機関相互間の緊密な連絡を図りつつ積極的に協力してきたところである。
 現在、北海道においては、新しい「北海道ウタリ福祉計画」(仮称)を策定中と聞いているが、同計画については、策定をまつて政府としても所要の検討をいたしたいと考えている。
 また、同計画の策定に当たり、北海道は、北海道ウタリ協会などウタリ関係団体のほか学識経験者等の意見を十分聴取することとしていると聞いている。