質問主意書

第91回国会(常会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質九一第二号

  昭和五十五年一月十一日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員吉田正雄君提出高浜ならびに玄海原子力発電所における事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員吉田正雄君提出高浜ならびに玄海原子力発電所における事故に関する質問に対する答弁書

一について

1 事故発生から一次冷却水の漏えいを停止させるまでの一次冷却系の温度及び圧力の時間変化並びに格納容器内における圧力変化のデータは、別表第一に示すとおりである。
2 漏えいした一次冷却水は、すべてサンプ(廃液受け)に貯留されたが、その放射能濃度は、昭和五十四年十一月八日午前九時に試料を採取して測定した結果、約五千ピコキュリー毎立方センチメートルであつたと聞いている。なお、漏えいした一次冷却水の核種分析は、実施されていない。
 貯留された一次冷却水は、すべて廃棄物処理設備に移送して蒸発濃縮処理した後、濃縮液についてはドラム缶内にセメント固化して固体廃棄物貯蔵庫に保管し、また、蒸溜液については核種分析を行い、排水口における放射性物質の濃度が実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく許容被ばく線量等を定める件に定める許容濃度以下となることを確認した後、排水施設によつて排出したと聞いている。
 なお、蒸溜液の核種分析の結果は、別表第二に示すとおりである。
3 本件事故に係る工事のうち、一次冷却水温度測定用検出器(以下「温度検出器」という。)三本の取りはずし及びその復旧の工事は関西電力株式会社の直営で、温度検出器一本の増設の工事は工事業者の請負で行われた。本件事故は、関西電力株式会社の直営工事に係る部分において発生したものであり、その施工に当たつて作業票による作業指示は行つているものの具体的作業内容、手順等を定める作業計画書が作成されていない等その作業管理、部品管理が不徹底であつたことによるものである。
4 黄銅製の栓は、高温における強度等に問題があり、高温高圧の原子炉一次冷却系には使用されていない。ただし、高温高圧でない海水系統、制御用空気系統及び窒素ガス系統においては、耐腐食性等の観点から望ましい場合には、黄銅製の栓が使用されている。
 今回の事故で破損した栓と同種の黄銅製の栓は、標準品として米国のクロフォード社及びパーカ社で量産され、高温高圧でない系統の予備座や試験計器接続用配管の閉止栓として使用されるものである。

二について

1(イ) 一次冷却材ポンプの第二シールのシール水戻り流量は、一次冷却系圧力が上昇する際減少することがタービン主要弁開閉試験時の経験によつて明らかになつており、今回一次冷却系圧力の設定を上げることによつてシール水戻り流量の減少を試みたものであると聞いている。
 (ロ) 一次冷却系の圧力上昇については、加圧器圧力制御器の設定値を百五十七・二キログラム毎平方センチメートル・ゲージから百五十九キログラム毎平方センチメートル・ゲージまで徐々に変化させること並びに加圧器後備ヒータ及び加圧器スプレイを手動操作することにより行つたと聞いている。

2 今回開閉作動した加圧器逃し弁は、加圧器圧力の変化率によつて開くようにはなつておらず、したがつて一分間に〇・九気圧以上の変化率そのもので開くことはなく、また先般行われた安全解析における加圧器圧力の変化率そのものでも開くことはない。なお、百六十四・二キログラム毎平方センチメートル・ゲージより低い圧力で加圧器逃し弁が開いたのは、加圧器圧力が加圧器圧力制御器の設定値よりずれると、そのずれに比例した制御信号及びそのずれが始まつて以降のずれを積算した量に比例した制御信号が加算され、これが所定の値を超えると開くようになつていたことによるものである。また、残りの加圧器逃し弁は、加圧器圧力が作動設定値百六十四・二キログラム毎平方センチメートル・ゲージを超えたとき開くようになつており、今回は開いていない。
3 関係電力会社を通じて運転日誌等により調査したところによれば、運転中及び試運転中に加圧器逃し弁が開いた事例は、今回の場合を除き次のとおりであるが、このほかに使用前検査における負荷しや断試験で加圧器逃し弁が開くことがある。

(一) 四国電力株式会社伊方発電所第一号機において、昭和五十三年十一月十八日、送電線の故障による負荷の急減により加圧器圧力が約百五十七キログラム毎平方センチメートル・ゲージから約百六十三キログラム毎平方センチメートル・ゲージ以上に上昇する過程で、加圧器逃し弁が開いた。
(二) 試運転中の関西電力株式会社大飯発電所第一号機において、昭和五十四年三月一日、送電線の故障による負荷の急減により加圧器圧力が約百五十七キログラム毎平方センチメートル・ゲージから約百六十三キログラム毎平方センチメートル・ゲージに上昇する過程で、加圧器逃し弁が開いた。
(三) 関西電力株式会社大飯発電所第一号機において、昭和五十四年七月十四日、主蒸気逃し弁の誤動作により加圧器圧力が約百四十一キログラム毎平方センチメートル・ゲージまで低下し、これが約百五十七キログラム毎平方センチメートル・ゲージに上昇する過程で、加圧器逃し弁が開いた。

4 分解点検の結果、弁座に二条の縦方向のこすり傷及びこれらのこすり傷による盛り上がりが認められ、この盛り上がり部によつて弁体と弁座の当たり面が密着しなかつたことにより加圧器逃し弁の閉止状態において微少な漏えいが生じたことが判明した。このこすり傷は、弁体と弁座の間に何らかの異物が介在したことにより生じたものと推定される。
 このため、当該加圧器逃し弁の弁座、弁体等は、新しいものに取り替えさせた。残りの加圧器逃し弁についても分解検査を行い、異常のないことを確認したが、念のため弁座、弁体等は、新しいものに取り替えられた。
 更に、これらの加圧器逃し弁についての作動試験を実施し、機能を確認した上で、運転の再開を認めた。
5 本件に係る時間経過に伴う操作シーケンス及び諸パラメータは、別表第三に示すとおりである。
6 九州電力株式会社は、十二月三日「加圧器逃し弁出口温度高」の警報が発せられた段階で発電所に駐在していた通商産業省の運転管理専門官にその旨を連絡し、加圧器逃し弁の調整操作を翌四日まで行つた。しかしながら、当該加圧器逃し弁の回復が不可能と判断されたため、同社は、十二月五日当該加圧器逃し弁の元弁を閉止した状態で運転を継続することを決定し、同日その旨を同運転管理専門官及び通商産業省へ連絡している。

別表第一 一次冷却系の温度及び圧力変化並びに格納容器内における圧力変化

別表第二 蒸溜液の核種分析の結果

別表第三 本件に係る時間経過に伴う操作シーケンス及び諸パラメータ 1/2

別表第三 本件に係る時間経過に伴う操作シーケンス及び諸パラメータ 2/2