質問第一一号
国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の運用の実態に関する再質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。
昭和五十五年四月二日
秦 豊
参議院議長 安井 謙 殿
国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の運用の実態に関する再質問主意書
国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(以下「権限法」という)の運用の実態に関する質問に対し、大平正芳首相よりの答弁書(内閣参質九一第五号)の送付を受けた。この答弁書には、なお問題が内包されていると思料するがゆえ、若干の質問を追加し、前回と同様の趣旨の下に、再度、大平首相の御見解を以下賜りたい。
一 司法権と行政権との人事交流に関する答弁について
(1) 一般的には、定期異動の時期に、最高裁判所に訟務担当の検事として適当な人物を推薦してもらい、本人の承諾を得た上で、必要な人数の訟務担当検事を採用しているとの答弁であるが、
(イ) 小川英明法務省訟務局参事官の場合も、この一般の場合に該当するのか。該当しない特別な場合であれば、どんな場合か。
(ロ) 定期異動の時期とは、年間のどの時期をいうのか。また最高裁判所に係る定期異動の時期と法務省に係るそれとは一致しているのか。
(ハ) 訟務担当検事を裁判官から採用することは、最高裁判所に係る人事計画に影響を及ぼすことにならないのか。
(ニ) 最高裁判所に推薦を依頼する時期は、各定期異動の時期との対応において、年間のどの時期か。
(ホ) 訟務担当検事として適当な人物の要件を列挙されたい。
(ヘ) 訟務担当検事の採用には、あらかじめ任期が定められている場合があるのか。
(ト) 最高裁判所の推薦する裁判官の承諾が得られなかつた場合、この裁判官はこれにより以後不利益を受けないという保障があるのか。あるとすれば、どんな保障か。
(2) 現在、訟務担当検事に弁護士出身者がいないとの答弁であるが、
(イ) これは日本弁護士連合会に所属する全弁護士の中に適当な希望者が一人もいないということなのか。
(ロ) 日本弁護士連合会に訟務担当検事として適当な弁護士を推薦する意志・能力はないとみなしているのか。そうであれば、その理由は何か。
(ハ) 日本弁護士連合会に訟務担当検事として適当な弁護士を推薦してもらうことが不適切であれば、その理由は何か。
(3) 法曹一元の制度が現在なお実現をみるに至つていないことの原因が、法曹人口の飛躍的増加、弁護士の地域的分布の平均化、裁判官の待遇の画期的改善等の不十分にあるとの答弁であるが、
(イ) 法曹人口の飛躍的増加がなぜ必要なのか。またそれを阻害している要因の全てを列挙されたい。
(ロ) 現在の法曹人口の実数及び飛躍的増加が達成されたあとの法曹人口の実数は、それぞれどれ程か。
(ハ) 法曹人口を諸外国のそれと比較する場合、公証人、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士、弁理士等は、どういう位置におかれることになるのか。
(ニ) 弁護士の地域的分布の平均化がなぜ必要なのか。またそれを阻害している要因の全てを列挙されたい。
(ホ) 弁護士の地域的分布と事件の地域的分布との間には、どのような相関関係があるのか。
(ヘ) 裁判官の待遇の画期的改善がなぜ必要なのか。またそれを阻害している要因の全てを列挙されたい。
(ト) 画期的改善が図られた裁判官の待遇は、現在のそれとどのように異なるのか、具体的・定量的に示されたい。また現在の最高裁判所長官の待遇にも改善の必要があるのか。
(チ) 法曹一元の制度実現の責務は、法務大臣・法務省にあるのではないのか。
(4) 裁判官、検察官、弁護士が、司法修習生の時期において、三者の実務を修習することをあげてよしとしているようであるが、ではなぜ、就任後裁判官だけが、検察官としての職務をあらためて経験しなければならないのか。
(5) 小川英明参事官が、検察官としての職務を経験しなければならなくなつた本当の理由は何か。
二 成田空港建設事件(昭和四十五年(行ウ)第四八号・昭和四十六年(行ウ)第一〇五号)の被告筆頭指定代理人・小川英明参事官が関与している事件は、東京地方裁判所行政部(民事第二部・同第三部)では、法務大臣が指定代理人を置いている二百件近くの事件のうち、なぜか同事件だけである。
(1) 小川英明参事官が法務大臣の指定代理人として関与している全事件について、係属する裁判所名(所属部名を含む)、事件名、事件番号、原・被告名及び指定代理人となつた年月日をそれぞれ示されたい。
(2) 小川英明参事官の日常業務は何か、それらを具体的に列挙されたい。
三 小川英明参事官の成田空港建設事件の指定代理人としての適格性には問題がないとの答弁である。
(1) 指定代理人としての適格性の具体的な判定基準の開示を求めたのに対し、適正な事務処理を行うこととしか答弁がないが、
(イ) 右判定基準を開示しない、またはできない理由は何か。
(ロ) 法務大臣は、指定代理人に係る人事管理をどのような基準で行つているのか。
(ハ) 適正な事務処理を行うことに、弁護士法第一条第一項にいうがごとき、基本的人権の擁護や社会正義の実現が、概念として包摂されているのか。
(ニ) 同じく、憲法第七十三条第一号にいうがごとき、法律の誠実な執行が、概念として包摂されているのか。
(2) 成田空港建設事件に係る書証(乙第四七号証)に関する答弁について
(イ) 右事件にあつて、新空港用地の買収及び収用手続の経過の概要を立証しなければならない理由は何か。
(ロ) 右書証が、新空港用地の買収及び収用手続の経過の概要に関する事実を立証する文書であると判断した理由は何か。
(ハ) 右書証に係る文書を、空港公団は業務上いかなる必要があつて作成したのか。
(ニ) 新空港用地の買収及び収用手続の経過の概要として記載される虚偽事実を立証することにしかならない右書証を提出・維持することが、どうして指定代理人としての適格性に欠けることにならないのか。
(ホ) 小川英明参事官が右書証に関し、新空港用地の買収及び収用手続の経過の概要として記載された虚偽事実につき承知しているのであれば、その内容を示されたい。
(3) 小川英明参事官らによる城野好樹証人の証拠申請について
(イ) 東京地方裁判所民事第二部の藤田耕三裁判長らにより、原告代理人らの申請に対する証拠決定があるまで、小川英明参事官らは城野好樹証人の証拠申請を回避していたが、その理由は何か。
(ロ) 小川英明参事官らによる城野好樹証人の証拠申請は、藤田耕三裁判長らの依頼によるのか、その他いかなる事情に基づくのか。
(ハ) 藤田耕三裁判長らは、行政処分取消訴訟にあつては、行政処分の適法性についての立証責任は被告側にあると原告代理人らに語つたと伝え聞くが、小川英明参事官は、行政処分の適法性の立証責任について、どのような認識をもつていたのか。
(ニ) 事業認定処分については、ともかく河野正三証人らの証言によるとしても、特定公共事業認定処分に係る立証責任につき、小川英明参事官はどのようにして果たさんとしていたのか。
四 成田空港建設事件を裁く藤田耕三裁判長と同事件に係る被告筆頭指定代理人・小川英明参事官との関係には問題がないとのことであるが、
(1) 一般に、同一事件に係る裁判長と一方の当事者の代理人との間に個人的な関係が存在する場合、この関係の内容によつては、司法の公正を疑わしめることもあろうかと思料される。
(イ) 司法の公正を疑わしめないためには、裁判長と一方の当事者の代理人との間に個人的な関係の存在が明らかな場合、その内容の一切が明らかにされるべきではないのか。
(ロ) とり残されたもう一方の当事者の代理人は、いかなる手続きにより、裁判長と相手方代理人との関係が、自ら担う裁判の、ひいては司法の公正を疑わしめるものでないということを認識できるのか。
(2) 藤田耕三裁判長と小川英明参事官との個人的な関係が、「不動産訴訟の実務」の共同編集ということを通し、いわば氷山の一角という形で顕在化した以上、その個人的な関係の内容の一切が明らかにされることになつても、公共の福祉のため、やむを得ないのではないのか。合理的な範囲内でプライバシーが制限され、情報が公開されて然るべきではないのか。
(3) 藤田耕三裁判長や小川英明参事官には、成田空港建設事件の担当を職務上回避する自由、権利はないのか。ないのであれば、両者にとつての根拠をそれぞれ示されたい。
(4) なお、小川英明参事官が成田空港建設事件を担当するのであれば、同氏には、公共の福祉のため「不動産訴訟の実務」を藤田耕三裁判長と共同編集するに至つた経緯を明らかにし、もつて、藤田耕三裁判長との個人的な関係が、司法の公正を疑わしめるものでないことを鮮明にする憲法上の責務があるのではないのか。
(5) 藤田耕三裁判長が東京地方裁判所民事第二部に着任した年月日、これが内定した年月日については、承知していないとの答弁であるが、小川英明参事官もまた承知していないということなのか。
(6) 小川英明参事官が法務省訟務局に配置されるのが内定した年月日は、昭和五十三年三月二十九日以前ではないのか。その年月日を示されたい。
(7) 小川英明参事官に係る訟務担当検事として適当な人物の推薦を最高裁判所に依頼した年月日、推薦が得られた年月日、及び本人の承諾が得られた年月日をそれぞれ明らかにされたい。
(8) 右(7)の承諾にあたり、小川英明参事官は藤田耕三裁判長に意見を求めたか。どのような意見だつたのか。
五 新東京国際空港工事実施計画の認可処分等取消請求事件(昭和四十年(行ウ)第八三号)に係る原・被告の訴訟代理人の全氏名及び訴訟の進行状況につき明らかにされたい。
右質問する。
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