質問主意書

第89回国会(特別会)

質問主意書


質問第六号

国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の解釈と運用の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年十一月十二日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の解釈と運用の実態に関する質問主意書

 公共の福祉実現を目的とすべき行政権が、法律を誠実に執行しなければならないのは、憲法上の責務である(憲法第七十三条第一号)。国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(以下「権限法」という)にあつても例外ではない。行政権行使の一翼を担う法務大臣は、権限法を誠実に自ら執行し、また法務省職員をして執行させねばならない。
 しかるに、東京地方裁判所民事第三部に係属中の不作為違法確認等請求事件(昭和五十三年(行ウ)第一六七号)(以下「本件訴訟」という)において、被告・国及び建設大臣の訴訟代理人として法務大臣に指定された小沢義彦氏(筆頭代理人)や飯塚実氏らの応訴態度をみるに、訴訟推移に係る客観的(外形的)事実からして、権限法を誠実に執行するということからは程遠く、不作為の違法確認訴訟にはあるまじき訴訟遅延の意図が当初から歴然としていたと聞く。これは、審査請求に対する裁決を七年以上も放置した建設省計画局総務課による怠慢が、建設大臣の違法行為であると司法権に刻印されるのを回避するための対抗措置、そのための行政権行使であるという。
 ところが一方で、法務大臣は別の指定代理人をして、同じく東京地方裁判所民事第三部で同時並行していた裁決の不作為違法確認請求事件(昭和五十三年(行ウ)第五三号)において、審査請求に対する六年にも達しない裁決の不作為が違法であると原告として主張させ、かつ、早期に勝訴判決、つまり、原告の主張を認容させているのである。
 法務大臣に係るこのような行政権行使は、恣意的すぎるのではないのか。行政権行使はあくまでも公共の福祉実現を目的としなければならない。自ら犯した違法行為を糊塗するための行政権行使は、明らかに濫用であり、したがつて違法である。小沢筆頭指定代理人らの応訴態度にみる権限法第八条による権限の行使は問い直されねばならない。
 よつて、以下、大平正芳首相の責任において、御答弁を賜りたい。

一 法務大臣による権限法の執行について

(1) 法務大臣には、権限法を誠実に自ら執行し、また法務省職員をして執行させる憲法上の責務があるのではないのか。
(2) 法務大臣は、権限法の誠実な執行をどのようにして確保しているのか。
(3) また法務大臣から権限法により訴訟代理人に指定された、たとえば、法務省職員自体も、同法第八条により付与される権限を、法務大臣の指揮の下、誠実に執行する憲法上の責務を負うのではないのか。
(4) 右権限の行使が誠実ではないとすれば、これは法務大臣の責任になるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(5) 法務大臣の指定代理人による専ら訴訟遅延を目的とする訴訟態度、つまり、権限法第八条の権限行使は、権限法の誠実な執行とはいえないのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(6) 相異なる訴訟ではあるが、同種の訴訟物に対して、法務大臣の指定代理人が、たとえ指定代理人が異なるとしても、それぞれ相矛盾する主張をなすことは、やはり、権限法の誠実な執行とはいえないのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。

二 権限法に係る事務の所管について

(1) 権限法の執行に関する事項は、法務省訟務局の所管か、その他法務省のどの所部が所管しているのか。
(2) 権限法に関する法令の作成に関する事項も、法務省訟務局の所管か、その他法務省のどの所部が所管しているのか。
(3) 現在の法務省訟務局長の氏名、就任年月日及び同就任直前の職歴(役職名)を示されたい。
(4) 本件訴訟の指定代理人となつた小沢義彦及び飯塚実の両氏の所属する法務省内の所部名、役職名、同役職への就任年月日及び同就任直前の役職名を示されたい。
(5) 右両名が本件訴訟の指定代理人とされた理由は何か。
(6) 本件指定代理人となつた右両名は、

(イ) 審査請求に係る裁決を七年以上も放置した建設省計画局総務課の主張をまるごと信じたのか。独自の調査はなさなかつたのであれば、その理由は何か。
(ロ) 同総務課の主張を一方的に信じなければならない積極的な理由があれば、それは何か。

(7) 右両名は自らの責任において、本件訴訟に係る建設大臣の不作為の違法を法務大臣が認めてはならない積極的な理由を見い出したのか。とすれば、それは何か。
(8) 右両名は、不作為違法確認訴訟というものが、訴訟の性格からして、迅速な審理が要求されるということを知つていたか。そうでなかつたのなら、その理由は何か。
(9) 例えば、法務省訟務局参事官小川英明氏が、小沢義彦氏の代りに、本件訴訟の筆頭代理人とはされなかつた積極的な理由があれば、それは何か。
(10) 右小川英明氏が、本件訴訟の被告側の筆頭代理人に指定されていれば、被告側の応訴態度に改善が期待されたか。どのような改善が期待されたか。

三 昭和五十三年十二月二日に訴状が提出された本件訴訟は、第一回(昭和五十四年一月二十四日)、第二回(同年三月七日)、第三回(同年四月二十三日)、第四回(同年五月三十日)、第五回(同年七月十一日)、第六回(同年九月十日)、そして第七回(同年十月二十九日)の口頭弁論が開催されてきたが、小沢筆頭指定代理人らによる被告側の「誠実な応訴態度」は、検証にさらされてもやむをえまい。

(1) 第一回期日に提出された被告答弁書は、訴状にいう原告主張に対する認否のみである。不作為の正当事由等の被告主張を次回に遅延させたのは、訴訟遅延のための故意によるものか、それとも被告指定代理人の当事者能力の欠如によるものか、その他いかなる理由によるのか。
ちなみに、このため口頭弁論期日(第二回)が一回無為に経過した。
(2) 第三回期日において、裁判所から不作為の正当事由を詳しく主張(被告主張に対する原告反論について再反論)せよとうながされ、かつ次回に行うと約束までしておきながら、第四回期日において、新聞切りぬきのコピーを書証として提出するのみであつた。被告不作為の正当事由(本件訴訟の最大の争点)について、口頭弁論期日(第四回)がまたも一回無為に経過した。

(イ) 裁判所での約束をやぶつてまでして、第四回期日において、正当事由について再反論なし得なかつた事情は何か。訴訟遅延のための故意によるのか、それとも被告指定代理人の当事者能力の欠如によるのか、その他いかなる理由によるのか。
(ロ) 被告指定代理人らは、本件訴訟に係る不作為の正当事由の主張責任、挙証責任、したがつて論証義務が被告側にあるということを知つていたか。
(ハ) 第四回期日に書証のみで証人申請を行わなかつた事情は何か。訴訟遅延のための故意によるのか、それとも建設省計画局側の協力が得られないなど、被告指定代理人の当事者能力の欠如によるのか、その他いかなる理由によるのか。
(ニ) 被告筆頭指定代理人は元裁判官であつたと聞くが、このことが被告筆頭指定代理人の応訴態度に何ら影響しなかつたといえるのか。

(3) 被告指定代理人が前回の約束を破り正当事由についての主張を怠つた第四回期日において、裁判所は証人尋問のとき詳しい事実が必要となるから、詳しい正当事由の主張をなしたらどうかと再度うながし、被告指定代理人は、次回に正当事由についての主張とそれを立証するための証人申請を行うなどの約束をしたが、第五回期日において、被告指定代理人は、前回の約束にもかかわらず、正当事由についての追加的な主張はしない、また次回に証人申請を行うと申し立てた。被告側の正当事由の論証について、またも口頭弁論期日(第五回)が、一回無為のまま経過してしまつた。

(イ) 第三回や第四回の期日に、裁判所にうながされたにせよ、それぞれ次回に正当事由の主張を行うと約束した理由は何か。訴訟遅延のための故意によるのか、いかなる理由によるのか。
(ロ) 裁判所での約束を破棄してまでして、第五回期日に正当事由についての追加的主張をしないと申し立てた理由は何か。
(ハ) 裁判所での約束をやぶつてまでして、第五回期日において、証人申請をなし得なかつた事情は何か。訴訟遅延のための故意によるのか、それとも建設省計画局側の協力が得られないなど被告指定代理人の当事者能力の欠如によるのか、その他いかなる理由によるのか。
(ニ) 正当事由の主張にしても、証人申請にしても、法務大臣の指定代理人は、裁判所での約束を何故平然と無視できるのか。

(4) 被告指定代理人が第五回期日において次回証人申請を行うと約束したにもかかわらず、第六回期日の三日前になつて、被告指定代理人・飯塚実氏から原告代理人・前田裕司弁護士に電話連絡が入り、証人申請ができないので、三日後の第六回期日は延期してほしいとの要請があつた。これが拒否されたため、第六回期日が予定どおり開催され、城野好樹氏(本件訴訟に係る審査請求時の建設省計画局総務課補佐官)が証人申請された。

(イ) 第六回期日の三日前になつても証人申請ができないと連絡された事情は何か。訴訟遅延のための故意によるのか、それとも建設省計画局側の協力が得られないなど被告指定代理人の当事者能力の欠如によるのか、その他いかなる理由によるのか。
(ロ) 右において、原告代理人により期日の延期が拒否された結果、証人申請が可能となつたのは、いかなる事情によるのか。
(ハ) 右において、被告指定代理人からの期日延期の申し入れは、訴訟遅延のためであつたと解してはいけない理由があれば、それは何か。
(ニ) 被告指定代理人により第六回期日に提出された証拠申出書には、建設省側の代理人の押印がないが、城野証人の申請については、彼らの了解が得られなかつたのか。とすれば、その理由は何か。あるいは、得られないという形をとる必要があつたのであれば、その理由は何か。
(ホ) 右において、不作為の正当事由の立証に、城野証人一人しか証人申請しなかつた理由は何か。

(5) 第七回期日の証人調べにおいて、尋問時間を三十分と請求していたにもかかわらず、被告指定代理人は、その二倍の一時間近い主尋問をだらだらと行つた。立証趣旨に係る事項のみに尋問事項を限定するよう裁判所からの注意を受けるまでして、尋問時間を引きのばさねばならなかつた事情は何か。訴訟遅延のための故意によるのか、その他いかなる理由によるのか。
(6) 第七回期日における証人調べの終了後、被告指定代理人は、次回さらに証人申請すると申し立てた。しかし、証人申請の目的、証人を誰れにするか及び立証趣旨をどうするかは未定との由。これは一体どういうことか。

(イ) このとき、被告筆頭指定代理人・小沢義彦氏は、原告代理人らの面前で、裁判所から訴訟実務に係る注意を強く受けたのである。「不作為違法確認訴訟は、事案の性格からして、早期に審理を進め、結審・判決に至らねばならない」と。被告筆頭指定代理人は、裁判所のこの注意をどのように受けとめたか。
(ロ) 被告筆頭指定代理人が、次回に証人申請をなす、したがつて、次々回に証人調べを行わんとする本当の理由は何か。訴訟遅延のみが目的とされているのではないのか、その他どのような理由が考えつくか。
(ハ) 被告筆頭指定代理人を右のような事情に追い込んだのは誰れか。法務大臣か、法務省訟務局長か、あるいは建設大臣か、建設省計画局長か、その他誰れか。

四 本件訴訟に係る法務大臣及び法務省職員による権限法の執行について

(1) 権限法が施行されて以降現在に至るまで、法務大臣の指定代理人の訴訟態度が国会で問題にされたことがあれば、その全てを次により明らかにされたい。

(イ) 事件名及び事件番号
(ロ) 問題とされた事項・内容

(2) 本件訴訟に係る被告筆頭指定代理人らに、本件訴訟の維持・進行について、法務大臣が直接・具体的に指揮したのであれば、その手続・内容を示されたい。
(3) 本件訴訟に係る被告筆頭代理人らの応訴態度に、法務大臣はどのような責任を負うているのか、根拠規定とともに示されたい。
(4) 本件訴訟に係る被告筆頭指定代理人らに、本件訴訟の維持・進行について、法務省訟務局長が直接・具体的に指揮したのであれば、その手続・内容を示されたい。
(5) 本件訴訟に係る被告筆頭代理人らの応訴態度に、法務省訟務局長はどのような責任を負うているのか、根拠規定とともに示されたい。
(6) 建設大臣、あるいは建設省計画局長、同総務課長は、本件訴訟の維持・進行について、

(イ) 被告筆頭指定代理人にどのような要求・条件を課したのか。
(ロ) また、建設省側の指定代理人にどのような要求・条件を課したのか。

(7) 本件訴訟の維持・進行について、法務省の指定代理人と建設省の指定代理人とはどのような関係にあつたのか。
(8) 本件訴訟の維持・進行は、被告筆頭指定代理人の裁量で行われたのか。
(9) 法務大臣や法務省訟務局長は、被告筆頭指定代理人らが、本件訴訟に係る口頭弁論期日を三回も空転させたことを知つていたか。とすれば、それは何時か。

  右質問する。