質問主意書

第88回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

小人症への国の対策強化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年八月三十日

市川 正一   
安武 洋子   


       参議院議長 安井 謙 殿


   小人症への国の対策強化に関する質問主意書

 高校生や大人になつても、身長が百三十センチメートル前後にしか伸びないなどの成長障害者は、約三千人といわれる下垂体性小人症患者も含め、全国で十二万人を超えると指摘されている。
 また、その種類も十指を上回り、小人症患者の多くは、背が低いことだけを理由に進学や就職で差別を受け、周囲からは好奇の目で見られるなど、つらく苦しい状態におかれている。
 とりわけ、軟骨異栄養症、ターナー症候群、ダウン症候群、発見の遅れたクレチン症などは、原因や有効な治療方法が未解明という暗澹たる状況のもとで、親子ともきびしい毎日をおくつている。
 また、治療薬「ヒト成長ホルモン」の開発により、治療が可能になつた下垂体性小人症についても、「ヒト成長ホルモン」をすべて外国からの輸入に依存しているため、供給が不安定で、かつ必要量に比較して深刻な不足状態がつづいている。このため、治療待機中の患者は、「早く治療をしないと背が伸びなくなる」などと、不安と焦燥にさらされている。
 加えて、下垂体性小人症は、小児慢性特定疾患の治療研究事業として十八歳で公費負担が打ち切られるため、背が伸びることがわかつているにもかかわらず、高額の自己負担に耐えきれず、治療を途中で断念し、「一生を小人症のままで終る」という、悲愴な決意をしなければならない青年も生れている。
 政府は、これまで下垂体性小人症などの対策に、漸次取り組んできたが、下垂体性小人症も含めて国としての小人症対策は依然として立ち遅れていると言わざるをえない。
 諸外国では、国からの資金援助で治療不可能とされている軟骨異栄養症、ターナー症候群、ダウン症候群などの治療研究や、合成成長ホルモンの研究等がすすめられているといわれている。実際、最近アメリカにおいては成長ホルモンの合成に成功したとの報道も伝えられている。
 ところが、近年、医学の発達にもかかわらずわが国においては、こうした研究は、民間組織の「成長科学協会」や、個々人の医学者まかせとなつており、国としての有効な援助策は講じられていない。
 こうしたなかで、ここ数年、患者、家族を中心に「小人症患者に光を」を合言葉に、全国各地で「小人症の子どもを持つ親の会」が結成され、おたがいに激励し合いながら、「たとえ一センチメートルでも背が伸びて欲しい」という切迫した気持から、国の対策強化を訴えつづけている。政府は、この切実な訴えに誠実に応えるべきであると考える立場から、以下質問する。

一 下垂体性小人症患者は、治療可能な患者だけでも約三千人にのぼると言われている。ところが、その治療薬「ヒト成長ホルモン」は、すべてがスウェーデンなど外国からの輸入で、輸入量は約九百人分にすぎず、大きく不足している。
 このため、多くの患者が治療の順番を一日千秋の思いで待機している。また治療中の患者も、治療をつづければ背が伸びることがわかつていながら、男百五十五センチメートル、女百五十センチメートルまで伸びると治療を打ち切られている。
 こうした実情を打開し、必要量を安定的に確保するためには、「ヒト成長ホルモン」の国産化が不可欠と思うがどうか。
 国産化のためには、遺体からの脳下垂体の収集が必要であり、現在、財団法人「成長科学協会」を中心にその仕事がすすめられている。
 厚生省は、啓発費として「成長科学協会」への補助金を来年度予算で要求する意向と聞いているが、これだけでは不十分であり、脳下垂体収集等についての国からの補助や国民への協力よびかけなど、国産化のための総合的な対策を講ずる必要があると思うが国として国産化のためどのような対策を今後講ずるつもりか。

二 アメリカにおいて成長ホルモンの合成に成功したことが伝えられているが、その実用化のためにわが国としても、こうした研究開発に国として予算措置を講ずるなど、積極的に取り組むべきではないか。

三 橋本厚生大臣は、去る八月十五日、小人症患者に対し、下垂体性小人症の公費負担年齢の引上げを検討する旨言明されているが、三十歳をこえても治療可能な患者がいることも考慮して、公費負担年齢引上げは治療終了時点までとすべきではないか。

四 軟骨異栄養症、ダウン症候群、ターナー症候群など、原因や治療方法が未解明の各種の小人症について、原因や治療方法を解明するため、各種の小人症研究者への補助金制度を設けるなど国としてその研究促進に取り組むべきではないか。

五 小人症の早期発見と予防体制の確立も急務である。
 たとえば、クレチン症などは新生児の段階で発見すれば治療が可能であるにもかかわらず検査をしなかつたため発見が遅れ、一生を小人症患者あるいは知恵遅れとしておくらなければならないという患者もいる。早期発見、予防体制確立の必要性は、クレチン症だけでなくその他の小人症についても同様である。
 クレチン症については、すでにすべての新生児について検査を実施している地方自治体もあり、国としてすべての新生児について検査するようにすべきではないか。
 また、一歳児、三歳児、就学前、就学児など、現行の各段階での健診項目に小人症を加えるなど、早期発見体制の確立を整備すべきではないか。
 また、予防体制についても、原因の解明、啓蒙活動などとあわせて国としての対策を講ずべきではないか。

六 小人症患者の多くは、背が低いことだけを理由に、進学や就職で不当に差別されている。
 たとえば、公立高校を受験する場合、体力の問題から体育などが劣つているため、中学校側が公立高校を受験させないという例が多くでている。また、就職にしても、背が低いことを理由に面接試験で「臨時雇いとしてしか採用しない」と残酷な宣告をされた青年もいる。
 こうした実情は、ただちに改善さすべきである。国として具体的な対策をどう講ずるのか。

  右質問する。