質問主意書

第87回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質八七第八号

  昭和五十四年四月二十七日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員秦豊君提出憲法第三十二条と昭和四十二年改正土地収用法に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出憲法第三十二条と昭和四十二年改正土地収用法に関する質問に対する答弁書

一について

(1)から(3)まで及び(6) 現行憲法下における行政訴訟制度は、行政に関する具体的紛争についての司法裁判所の判断を通じて裁判による国民の権利の救済を図るものであるとともに、行政作用の法適合性を保障しようとするものである。
(4) 憲法第九十七条は、基本的人権の歴史的意義を明らかにするとともに、第十一条等と並んで基本的人権の本質を宣言した規定であつて、基本的人権は国政のあらゆる分野で尊重されるべきものであることは当然である。
(5) 憲法第十二条は、基本的人権が人類の多年にわたる努力の成果であることにかんがみ、国民が不断の努力によつてこれを保持すべきことを要請している。
(7) 行政事件訴訟に関する法令案の作成に関する事項は、法務省民事局の所管である。
 なお、国の利害に関係のある行政事件訴訟について行政庁を指揮し、又は同訴訟を行うことに関する事務は、法務省訟務局(行政訟務第一課、行政訟務第二課及び租税訟務課)の所管である。

二について

(1)から(3)まで 「当事者公平の原則」という原則が、訴訟手続において当事者双方が公平に扱われなければならないということを意味するのであれば、それは民事訴訟の基本原則であり、この原則は、行政事件訴訟手続においても妥当する。
 行政事件訴訟の原告が訴訟上格別の不利益を強いられることはない。
(4) 訴えの主観的予備的併合は不適法である旨の主張をしたことはある。
 右の主張は、訴えの主観的予備的併合による訴訟形式は、一般に予備的請求の被告とされた者の訴訟上の地位を著しく不安定にさせるものであり、民事訴訟法上許されない不適法なものであるとする当時の判例及び学説に従つたものである。

三について

(1)から(4)まで 昭和四十二年法律第七十四号による土地収用法の改正においては、土地等に対する補償金の額の算定の基準時を事業の認定の告示の時とし、事業の認定の告示があつた後、土地所有者等は、権利取得裁決前であつても、起業者に対し、補償金の支払を請求することができることとし、土地所有者等の利益の保護を図るための措置を講じたものである。改正後の土地収用法の体系の下で同法第七十一条の規定によつて算定される補償金の額は、憲法第二十九条第三項に規定する正当な補償である。
(5)及び(6) 補償金の支払請求の件数等の推移は次の表のとおりであり、相当の効果をあげているものと評価している。

図 表

四について

(1)から(3)まで 収用又は使用の裁決の申請及び明渡裁決の申立ての期限については、土地調書の作成等の手続に一定の期間を必要とすること、土地所有者等の権利関係を早期に安定させることが望ましいこと等を勘案して定められている。
(4) 都市計画事業は通常その規模が大きいこと、その執行に相当の長期間を要すること等を勘案して、都市計画法第七十一条第一項の規定により土地収用法の特例が設けられたものである。
(5)及び(6) 収用委員会は、土地収用法第四十七条の規定により申請を却下する場合を除き、収用又は使用の裁決をしなければならないものとされている。

五並びに六の(1)から(8)まで及び(11)について

 土地等を収用される者が事業の認定又は収用の裁決に関し不服がある場合、行政事件訴訟法等の定めるところにより訴えを提起し、その違法性について争うことは可能であり、土地収用法第七十一条の規定が右の訴えの提起に何らの制約となるものではない。
 また、事業の認定に関し訴えを提起している者であつても、起業者に対し、補償金の支払を請求することは可能であり、この請求をしたことが当該訴訟を維持するにつき格別の不利益となるものではないと考える。
 土地収用法第七十一条が憲法に違反するとする理由は認められない。

六の(9)及び(10)について

 土地収用法に基づく事業の認定は適正に行われているところであるが、昭和三十九年五月二十二日建設省告示第千三百五十四号により行つた事業の認定が取り消された例が一件ある。