質問主意書

第87回国会(常会)

答弁書


答弁書第七号

内閣参質八七第七号

  昭和五十四年四月三日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員阿具根登君提出住友重機械工業株式会社の労使紛争に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員阿具根登君提出住友重機械工業株式会社の労使紛争に関する質問に対する答弁書

一について

(一) 住友重機械工業株式会社(以下「住友重機」という。)においては、昭和四十六年八月以前には全日本造船機械労働組合浦賀分会(以下「浦賀分会」という。)、同玉島分会(以下「玉島分会」という。)及び総評全国金属労働組合住友重機械支部の三労働組合があつたが、同年九月に浦賀分会の組合員有志が住友重機械工業労働組合を、また、玉島分会の組合員有志が住友重機械玉島労働組合をそれぞれ結成し、他方、総評全国金属労働組合住友重機械支部においては、昭和四十七年八月の役員選挙を巡つて組合員間に争いがあり、昭和四十八年二月には住友重機械労働組合及び総評全国金属労働組合住友重機械支部(以下「全金支部」という。)の二つの労働組合が存在することとなつた。
 こうした動き及び浦賀分会、玉島分会、全金支部の三労働組合(以下「三労組」という。)の組合員の解雇問題、新就業規則適用問題、組合専従者の原職復帰問題、昇給・昇格問題等を巡つて、住友重機と三労組及び三労組の組合員との間に紛争が続いている。
(二) 富田機器株式会社(以下「富田機器」という。)では、昭和四十四年頃から、総評全国金属三重地方本部富田機器支部(以下「富田機器支部」という。)との間で労働条件等を巡つて労使紛争が発生していたが、昭和四十八年四月に新たに富田機器労働組合が結成され、昭和五十二年九月までの間は二つの労働組合が存在した。
 こうした動きを巡り、住友重機及び富田機器と富田機器支部との間に紛争があつた。
政府としては、以上のとおりであると聞いている。

二について

(一) 昭和四十六年以降昭和五十四年三月二十六日までの間に、三労組及び富田機器支部から関係地方労働委員会に対し住友重機(一件については、住友重機及び富田機器)を被申立人として、昇給・昇格差別、チェック・オフに係る組合費の引渡し、組合活動に対する支配介入、昨年十一月以降の経営合理化等の問題に関し二十五件の不当労働行為の救済申立てが行われており、このうち、昇給・昇格差別等の問題に関する六件の申立てについては申立ての全部又は一部を認容する旨の命令が、チェック・オフに係る組合費の引渡しの問題に関する一件の申立てについては申立てを棄却する旨の命令が出され、組合活動に対する支配介入等の問題に関する八件の申立てについては労使間に正常な労使関係の確立に努めることとする旨の和解が成立したことにより申立てが取り下げられ、残りの十件の申立ては現在関係地方労働委員会に係属中である。
 右の関係地方労働委員会の命令については、使用者側及び労働組合側から中央労働委員会に対し三件の再審査の申立てがなされ、現在同委員会に係属中であり、また、使用者側から東京地方裁判所及び津地方裁判所に対し二件の行政訴訟が提起され、現在これらの地方裁判所に係属中である。
 次に、関係地方裁判所に対しては、昭和四十六年以降昭和五十四年三月二十六日までの間に、三労組から、団結権妨害禁止、配置転換及び懲戒処分の無効確認等、従業員としての地位保全の問題に関し二十四件(右の行政訴訟二件を除く。)の訴訟が提起されており、このうち、団結権妨害禁止仮処分申請事件等の四件については申請等の全部又は一部を認容する旨の決定及び判決が、配置転換及び懲戒処分無効確認請求事件一件については請求を棄却する旨の判決が出され、残りの十九件は現在関係地方裁判所に係属中である。
 右の関係地方裁判所の決定又は判決があつた事件のうち配置転換及び懲戒処分無効確認請求事件については、労働組合側から広島高等裁判所に控訴がなされ、現在同高等裁判所に係属中である。
 なお、現在、以上の労働委員会及び裁判所に係属中の事件のうち、昨年十一月以降の経営合理化問題に関する七件の事件以外の事件については、全金支部及び富田機器支部に係る事件については東京都地方労働委員会の関与によつて、浦賀分会及び玉島分会に係る事件については中央労働委員会の関与によつて、それぞれ、関係労使間で一括して全面的な和解の話合いが行われている。
政府としては、以上のとおりであると聞いている。
(二) 住友重機の各事業場の労働者等から管轄労働基準監督署に対してなされた住友重機に係る労働基準法等違反申告事案は、昭和四十六年以降昭和五十四年二月二十八日までの間に五十六件あり、その内容は、主として、労働時間及び休憩に関すること、安全衛生に関すること、均等待遇に関すること、割増賃金に関することである。
 これらの申告事案については、現在調査中のもの一件を除き、関係労働基準監督署において調査した結果、関係法令に違反していると認められたものについては、住友重機に対し是正を求めたところ、そのすべてについて是正した旨の報告を受けている。
(三) 松山地方法務局に対し、(1)昭和四十八年六月二十日住友重機愛媛製造所運搬機事業部機械課(以下「機械課」という。)勤務の伊藤邦俊から、全金支部中央執行委員長寺川実を代理人として、同僚等から人権侵害を受けた旨、(2)昭和五十三年七月二十八日住友重機愛媛製造所電制課勤務の全金支部中央執行委員長金子清美から、同僚等により人権侵害を受けた旨、それぞれ申告があつた。
 これらの申告のうち、(1)については松山地方法務局において調査した結果、人権侵犯の事実が認められたので、機械課勤務前野紀彦ら四名に対し、人権尊重の理念を啓発するとともに、人権侵犯の事実を摘示し反省善処を促したところ、同人等はその趣旨を理解し、自分の行為に行き過ぎと適切さを欠いた点があつたことを率直に認めたので、昭和四十九年九月二十四日付けで「説示」として処理し、(2)については同地方法務局において、現在申告者等から事情聴取するなど人権侵犯事実の有無を鋭意調査中である。

三及び四について

(一) 住友重機は、昨年十一月十日、造船産業の構造不況による「経営改善計画」として、千九百十七名の勇退者募集を中心とする人員削減計画を関係各組合に提案し、同年十二月十四日、(1)大正十二年以前に生まれた者、(2)社内共稼ぎの社員のうちいずれか一方の者、(3)過去五年間に懲戒処分を受けた者、(4)過去三年間の出勤状態が悪い者等の「勇退の基準」を関係各組合に提示した。
 これに対して、住友重機械労働組合(以下「住重労組」という。)は、本年一月二十五日、勇退者募集人員を千二百名とすること等の内容で住友重機と合意したが、一方、三労組は、人員削減計画及び「勇退の基準」を拒否した。
 住友重機は、本年二月一日以降、全社員を対象として千三十三名の勇退者募集を行い、横須賀地区においては四十五名、愛媛製造所においては九名がそれぞれ募集目標に達しなかつたが、三月十三日募集を終結した。
 一方、住友重機玉島製造所では、本年三月六日、募集目標を達成するため、玉島分会組合員十八名に対し三月十二日付けで解雇する旨の通知が行われ、その後岡山県地方労働委員会の関与によつて右解雇の取扱いについて労使間で和解の話合いが行われたが、それが不調に終わつたため、住友重機は三月二十二日付けで十七名を解雇した。
 この間、三労組は、「勇退の基準」及びこれに基づく勇退者募集は労働組合への支配介入であるとして、関係地方労働委員会に対し不当労働行為の救済申立てを行い、また、右十七名の被解雇者は、三月二十二日岡山地方裁判所に地位保全等の仮処分申請を行つた。
 更に、住友重機愛媛製造所では、本年三月九日、全金支部女子組合員一名に対し解雇の通知が行われ、同人は、三月十日、松山地方裁判所西条支部に対し地位保全の仮処分申請を行つた。
 なお、本年二月十九日、横須賀地区の追浜造船所において、浦賀分会の組合員と住重労組の組合員との間に暴行事件が発生し、本事件等について浦賀分会は、二月二十日、横浜地方裁判所横須賀支部に対し暴力行為等禁止の仮処分申請を行つた。
政府としては、以上のとおりであると聞いている。
(二) 政府としては、住友重機に対し、経営合理化に当たつては、特に高年齢者等の再就職が困難と思われる者にしわ寄せがいかないようにする等できる限りの配慮をすることについて労働組合と十分話合いを行うよう要請を行つたところであり、今後とも事態の推移を見守りつつ、必要に応じて要請を行つてまいりたい。
 なお、愛媛製造所における女子組合員一名に対する解雇問題については、円満解決が図られるよう労使で十分話合いが行われることが期待されるが、いずれにせよ、現在裁判所に係属中であり、その推移を見守りたい。

五について

 使用者が労働組合法の禁止する不当労働行為を行つてはならないことはいうまでもないことであり、政府としては、かねてから、労使関係法規の周知徹底を図る等不当労働行為防止のため努力してきているところであるが、住友重機における係争中の不当労働行為等の問題については、関係労働委員会及び裁判所の審理に委ねられているところであり、政府としては、それらの動向を見守りつつ、必要に応じ、紛争が円満に解決されるよう労使当事者に対し助言・指導を行つてまいりたい。