質問主意書

第87回国会(常会)

答弁書


答弁書第六号

内閣参質八七第六号

  昭和五十四年三月三十日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員秦豊君提出成田空港二期用地に係る権利取得裁決などを千葉県収用委員会が行わないことにある合法性・正当性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出成田空港二期用地に係る権利取得裁決などを千葉県収用委員会が行わないことにある合法性・正当性に関する質問に対する答弁書

一について

 千葉県収用委員会は、土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)に基づく権限を行うため、同法及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)の定めるところにより設置されている委員会であり、千葉県知事の所轄の下にある。千葉県収用委員会が、その権限を行使するに当たつて、土地収用法第七十一条をはじめ、同法その他の法令の規定を遵守すべきことは当然である。

二について

(1)から(3)まで及び(8) 千葉県収用委員会は、その権限を行使するに当たつて、日本国憲法を遵守すべきことは当然のことである。
(4)、(5)及び(7) 土地収用法によつて収用する土地に対する補償が、正当な補償でなければならないこと、及び当該補償について訴えの提起があつた場合に、最高裁判所が、当該補償が正当な補償に当たるか否かを決定する権限を有することは、日本国憲法第二十九条第三項及び第八十一条の規定からして当然である。
(6)(イ) 大日本帝国憲法は、第二十七条第一項において「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルコトナシ」と規定し、同条第二項において「公益ノ為必要トナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル」と規定していた。
   (ロ) 大日本帝国憲法下における土地収用法の損失補償に関する主たる規定は、次のとおりである。

土地収用法(明治二十二年法律第十九号)
第十七条 収用又ハ使用スヘキ土地其他ノ補償金額ハ所有者及関係人ヲシテ相当ノ価値ヲ得セシムルヲ目的トシテ之ヲ定ムヘシ
土地収用法(明治三十三年法律第二十九号)
第四十八条 収用スヘキ土地物件ニ付テハ相当ノ価格ニ依リ共ノ損失ヲ補償スヘシ
使用スヘキ土地ニ付テハ其ノ土地及近傍類地ノ料金ニ依リ其ノ損失ヲ補償スヘシ

   (ハ) 損失補償に関する大審院の判決例は少なからずあるが、土地収用による損失の補償額については、おおむね、収用時期における収用地の価額によつて決定すべき旨判示している。

三について

(1) 御指摘の判決では、当該判決に係る事案に関し、昭和四十二年法律第七十四号による土地収用法の改正前の同法第七十二条の規定によつて補償すべき相当な価格について、最高裁判所の見解が述べられているものである。
(2)及び(3) 土地収用法第七十一条の規定によつて算定される補償金の額は、日本国憲法第二十九条第三項に規定する正当な補償である。

四について

(1)から(5)まで、(9)及び(13)から(15)まで 土地収用法には立法の瑕疵の存在は認められず、新東京国際空港建設事業に関する土地収用法に基づく事業の認定は適法に行われており、起業者たる新東京国際空港公団の行つた収用の裁決の申請に対しては、千葉県収用委員会は、同法第四十七条の規定により当該申請を却下する場合を除き、収用の裁決をしなければならない。
(6)及び(7) パイプライン用地及び航空保安施設用地については、従来から、任意買収等により確保する方針のもとに鋭意努力している。
(8) 土地収用法は、公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的としている。
(10) 昭和四十二年法律第七十四号による土地収用法の改正は、公共の利益となる事業の施行に伴う開発利益の帰属の適正化及び事業に必要な土地等の取得の円滑化を図るため、収用し、又は使用する土地に対する補償金の額を事業の認定の告示の時の近傍類地の取引価格等を基礎とした額とするとともに、土地等の収用又は使用の手続の促進について所要の措置を講ずることを内容とするものであつた。
(11)及び(12) 昭和四十六年九月に行われたいわゆる第二次代執行は、千葉県収用委員会の昭和四十六年六月十二日付け緊急裁決に基づく明渡義務を履行しない者に代つて、新東京国際空港公団の請求を受けた千葉県知事が、土地収用法第百二条の二第二項の規定に基づき、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、行つたものである。