質問主意書

第87回国会(常会)

質問主意書


質問第二一号

カネミ油症事件の処理に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年五月二十四日

安恒 良一   


       参議院議長 安井 謙 殿


   カネミ油症事件の処理に関する質問主意書

 昭和四三年、西日本一帯に発生したPCB(ポリ塩化ビフェニール)の経口摂取を原因とするカネミ油症事件からすでに一〇年以上の歳月が経過した今日においても、その被害者は未だ充分なる救済も受けられず、かつ、油症の原因物質であるPCBも製造中止の処置後はその処理もあいまいにされているという。
 現在油症患者は一都一府二九県に及び、その数は約一四、〇〇〇人に及ぶと聞いているが、この一箇年の間に関係官庁が油症被害者の救済のために何をしてきたか、同種被害の再発防止のためにどのような対処をしたか、とりわけ原因物質であるPCBの処理についてどのような策をこうじてきたのかの点を主軸として、以下に列挙する事項につき質問を提出するので、関係各官庁において調査資料等添付のうえ、その御見解を以下により賜りたい。

一 PCBの生産、使用、現状について

(1) 今日までに日本において生産されたPCBの総量につき、メーカー別、年度別に明らかにされたい。
(2) 右のPCBを使用した企業名、その用途、使用量を各別に明らかにされたい。
(3) 昭和四七年にPCBの生産は中止されたと聞いているが、これは何を契機に、関係官庁のどのような形での指導ないし処分により右措置がとられたものであるかその経緯を明らかにされたい。
(4) 生産中止の他に回収の作業も行われたはずであるが、その回収の規模、手続、回収措置の結果について明らかにされたい。
(5) これまでに生産されたPCBは、現在どのような形で存在しているのか。(イ)貯蔵、(ロ)使用中、(ハ)不明分(環境放出分)に分けて明らかにされたい。
(6) 右のうち、貯蔵されているPCBについて、以下の点を明らかにされたい。

[1] 何時から、どのような経緯で貯蔵を開始したのか。
[2] 貯蔵しているPCBの種類、量、貯蔵形態はどうか。
[3] 貯蔵PCBにつき、どのような危険が想定されるか。またそれにつき、どのような対策を考えているか。
[4] 貯蔵PCBについての最終処理はどう考えているのか。

(7) とくにノン・カーボン紙につき、以下の点を明らかにされたい。

[1] PCBの入つたノン・カーボン紙のメーカー別、年度別の製造総量。
[2] 右総量につき、PCB換算量としてはどの程度の数値になるのか。
[3] ノン・カーボン紙の既使用量、使用用途はどうか。
[4] 使用済ノン・カーボン紙はどのように取扱われたのか。回収、焼却等をしたのであればその時期及びその量。
[5] 未使用のノン・カーボン紙の量、保管状況、最終処理方針等。

(8) 右(6)(7)以外にPCBを含んだ物質、製品、半製品等で貯蔵しているものがあればその種類、量、貯蔵場所、貯蔵形態を明らかにされたい。
(9) 現在使用中のPCBを含む物質、原材料、製品等があれば、その品目、使用方法その量を詳細に示した上、その安全性確保についての方策を明らかにされたい。
(10) 以上の回収、貯蔵もしくは使用中のPCBについて、安全確保のための方策また廃棄処理につき、どのような対策をもつているのか。

二 PCBによる環境汚染について

(1) 現在までに環境中に放出されたPCBの総量はどれぐらいになるか。数値を示して明らかにされたい。
(2) 日本におけるPCBによる環境汚染は何時ごろから、どのような原因により生じたものであり、現状はどのようになつているか。調査結果に基づき、具体的な数値を示して明らかにされたい。
(3) 右の環境汚染のうち、とくに以下の事項につき、具体的な数値を示して明らかにされたい。

[1] 食品についての汚染の実態。
[2] 人体汚染の実態。

三 食品の汚染防止について

(1) PCBが食品製造の過程で使用された形態、使用した企業、その使用量を各別に明らかにされたい。
(2) PCBが食品製造関係業種において、熱媒体として使用され始めた時期、期間またいかなる物の製造に関し、いかなる過程で使用されたのか、明らかにされたい。
(3) 食品関係につきPCBの使用が禁止された原因、その経緯につき明らかにされたい。
(4) 現在食品製造関連業種では、どのような物質を熱媒体として使用しているのか、その種類、組成及び使用している工場企業並びにその製造品種にわたり明らかにされたい。
(5) 右につき、熱媒体の製品中への漏出混入防止のために、いかなる方策をもち、いかなる指導をしているか。

四 カネミ油症被害者の救済について

(1) 国において把握している油症被害者の数につき、県別、性別、「認定」、「未認定」別に明らかにされたい。
(2) 油症事件発生後一〇年間に国が油症被害者の救済のために行つた施策につき、以下の項目を中心として予算額も含めて明らかにされたい。

[1] 油症被害者の治療方法の開発についての研究。
[2] 油症被害者の具体的治療についての経済的、機関的便宜援助。
[3] 油症被害者の認定機関の整備。
[4] 油症被害者の経済的困窮に対する援助措置。
[5] 食品による健康被害が発生した場合被害者がすみやかに救済される体制についての研究、検討の有無。
[6] 食品による健康被害の発生を未然に防止する体制の研究、検討の有無。

(3) 今後、油症被害者の救済のためにいかなる対策が必要であると考えているか明らかにされたい。
(4) 先般油症被害者中の生活保護受給者について、加害企業より補償金の内払いがなされたことを理由として、生活保護の廃止処分が一斉になされているようであるが、その根拠及び今後の方針について明らかにされたい。

  右質問する。