第87回国会(常会)
質問第一八号
硫黄島戦時疎開者の地権と帰島に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。 昭和五十四年五月十一日 上田 耕一郎
硫黄島戦時疎開者の地権と帰島に関する質問主意書 戦後三十四年、小笠原復帰以来十一年目をむかえようとしている今日、依然として、硫黄島戦時疎開者とその親族が父祖の地である硫黄島へ帰島できないまま放置されていることは、政治的にも、人道的にもきわめて重大な問題である。
一 硫黄島問題の解決にあたり、もつとも重要なことは、主人公である旧島民の意思が最大限に反映されることである。政府がもし旧島民の生活経験にもとづく意見や希望を十分にきくこともせずに、事態を放置しているとすれば事は重大である。
二 戦時疎開以前の硫黄島においては、硫黄島産業株式会社などごく一部の地主が土地の相当部分を所有していた。硫黄島産業については、耕作者の土地の所有権を詐取した疑惑をもたれているところであるが、そのもとで多数の耕作者は小作人組合をつくり、昭和十七年に地主側と賃借に係る契約を締結し、耕作に従事してきた。昭和十九年の戦時疎開後も、この契約の有効性は継続しており、小作者に耕作権があることは法律上もまちがいないものと考えるがどうか。 三 第二次大戦中に、土地公図が焼失したとされる硫黄島について、これまで「準公図」による土地境界の確認がおこなわれていない。こうした状況は、土地権利者の権利保護の点でも放置できない問題である。
四 政府は、旧島民と親族の硫黄島への帰島について、火山活動など自然条件を理由に帰島を困難視する見解をしめしている。硫黄島における火山活動や土地隆起は、島民が同島に住みついた明治以来のことであり、別にいまはじまつたことではない。現に、軍事基地や測候の関係者が安全に生活しているほか、火山に関するわが国の権威者たちも、硫黄島でまじかに危険な事態がおこるというような予測はしていないはずである。にもかかわらず、政府が、旧島民にたいしてだけ、帰島できない理由に火山活動をあげるのは、一体どのような理由にもとづくものなのか、明示されたい。 五 帰島を希望する土地権利者の土地については、帰島後ただちに安心して生活をおこなえるよう、優先的に、弾片、不発弾等の処理や遺骨の収集など必要な整地作業をおこなうのは政府の当然の責任である。政府は、いつまでにこれを終了するつもりか具体的に明らかにされたい。 六 旧島民が硫黄島で生活していくためには、当然ながら政府による生活基盤確立のための具体的援助が必要とされる。政府は、帰島者のために、当面、住宅、貯水施設、発電施設、港湾施設などの建設をおこなうべきであると考えるがどうか。 七 永く住みなれた土地から引き離され、全国各地で不安な毎日を余儀なくされてきた硫黄島戦時疎開者の、三十五年にわたる物質的、精神的苦痛ははかりしれないものがある。ところが、これら旧島民にたいしては、小笠原返還時に米政府から六百万ドルの補償金が支払われたのみで、日本政府は、これまで旧島民にたいして補償金、見舞金などみるべき援助をおこなつたことがない。政府は、戦時強制疎開のまま、帰島できないことから多くの物質的、精神的苦痛をうけてきた旧島民にたいし、均等に、しかるべき見舞金をだすべきだと考えるがどうか。 八 政府が、硫黄島への帰島について消極的な態度をとつてきた背景には、硫黄島の自衛隊基地を強化、拡大する意図があるからではないかということがいわれている。また、米軍は、原子力潜水艦の作戦上重要なロランC基地をおき、その上さらに、最近、ミッドウェー艦載機の新訓練基地にしようという動きも強まつている。「毎日新聞」四月十六日付報道によれば、東京都知事の交替を機に、防衛庁には、硫黄島を陸、海、空自衛隊の大規模な共同訓練場として整備しようという構想が浮かび上がつているという。第二次大戦で多数の兵士の生命が犠牲とされた硫黄島の悲劇をけつしてくりかえさず、同島を平和な島として復興するためには、むしろ基地の縮少、撤去が必要であると考える。これらの点について政府はどのように考えるか。伝えられるような基地の強化、拡大の計画、構想の有無について明らかにされたい。 右質問する。 |