質問主意書

第87回国会(常会)

質問主意書


質問第一七号

公務上災害の補償給付に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年五月十日

久保 亘   
野田 哲   


       参議院議長 安井 謙 殿


   公務上災害の補償給付に関する質問主意書

 鹿児島県阿久根市役所職員が一九七四年九月五日、交通事故により身体に損害を蒙り、同年十一月一日、認定番号「四九-二〇六号」をもつて「公務災害」であると地方公務員災害補償基金鹿児島県支部長(以下処分庁という)から認定され、引き続き療養中に、阿久根市長が被災職員名で作成した(被災職員の承諾のない)「公務災害追加傷病名認定申請書」なる書面が提出された。
 処分庁はこの申請に基づき一九七七年五月二十四日、認定番号「追五一-一号」をもつて「公務外災害」であるとの認定処分を行つた。阿久根市長は処分通知到達の翌日、すなわち一九七七年五月二十六日、「被災職員の素因による疾病(私傷病)」として、地方公務員法第二十八条第二項第一号により分限休職処分を発令している。
 本件事案には、一地方自治体の任命権者の恣意によつて、憲法第二十五条及び第二十七条で保障されている「生存権」及び「労働基本権」が侵され、労働基準法第七十五条及び地方公務員法第四十五条に規定されている「労働災害に対する使用者の補償責任」に違反し、被災職員の災害補償を受ける権利が使用者の恣意によつて一方的に侵害され、公務災害補償制度の基本に関する問題を含んでいると考えられるので、次の事項について質問する。

一 被災職員とその所属する全日本自治団体労働組合鹿児島県本部は、地方公務員災害補償基金鹿児島県支部審査会に対して、地方公務員災害補償法第五十一条第二項の規定により、一九七七年六月四日「審査請求」を行つている。また行政不服審査法第三十四条第三項の規定に基づく「行政処分の効力の執行停止の申し立て」を行つていると聞いているが、その経過と現状の概略について明らかにされたい。

二 労働災害補償制度の基本法である労働者災害補償保険法を所管する労働省に、次の点について見解を求める。

(1) 業務上の負傷に起因する疾病の療養補償給付の実施に当つて、「業務上災害」の発生以来、引き続き療養中であり傷病の治癒認定もされていない被災労働者について、負傷もしくは第一次的に発生した「原因疾患」から引き続き発生した「続発症」、またはこれらの疾病もしくは当該負傷が原因となつて起つた「合併症」であることが医学上の経験則から明らかである場合に、新たに診断された傷病名毎に、その各時点で改めて「業務上・外」の認定を処分庁に求める手続きを必要とするものであるか否かについて。
(2) 災害補償の実施機関は、労働災害に対する補償義務を消滅させるため、傷病の治癒認定を行うに当つて治癒期日を明確に定めることなく、被災労働者に通知も行わずに、無限定に過去に遡及適用して労災補償の義務を免れるものであるか否かについて。

三 地方公務員災害補償法及び地方公務員災害補償基金を所管する自治省は、次の点について明らかにされたい。

(1) 交通事故によるいわゆる第三者加害行為に起因した本件、公務上災害の被災職員に実施した災害補償給付の実態と、公務災害に対する補償の責務は消滅したものであるのか否かについて。
(2) 本件公務災害事案における、地方公務員災害補償法第五十九条の規定に基づく求償、免責の事務処理の実態について。
(3) 本件公務災害の発生した一九七四年九月五日から療養した阿久根市の内山病院における療養の費用十八万百円、その他の療養給付がいまだに支払われていないと聞いているが、その事情と理由及び今後の処理等について。

四 一九七七年五月二十六日、被災職員は任命権者である阿久根市長から、地方公務員法第二十八条第二項第一号に基づく分限処分を受けている。このことは、一九七七年五月二十四日の「公務外災害」との認定処分との関連性は明らかである。そこで、地方公務員法第四十五条に規定されている任命権者の公務災害補償の責務と、処分庁が任命権者に代行して実施すべき災害補償の責務と、前記人事権の行使としてなされた分限処分との関連について、法律上の見解を明らかにされたい。

  右質問する。