質問主意書

第87回国会(常会)

質問主意書


質問第一六号

沖繩県の教育の諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年五月八日

喜屋武 眞榮   


       参議院議長 安井 謙 殿


   沖繩県の教育の諸問題に関する質問主意書

 沖繩県が祖国に復帰してから、既に満七年有余の年月が経過し、その間二十七年間にわたる行政分離による教育格差も次第に是正されてきた。しかし今日、依然として本土との教育諸条件の格差はなお大きいといわざるをえない。これはとりもなおさず沖繩のおかれてきた特殊事情から発生したものであり、当然のことながら復帰処理として解決されるべきであつたのが、未解決のまま残されているものである。政治の空白は許されるとしても、教育の空白は瞬時も許されないのが教育の本質である。
 施設の整備は未だに遅れており、危険老朽校舎が数多く残存し、戦前の学校敷地も軍用地に接収されたまま一向に開放されていないのが現状である。
 過疎、過密化が急速に沖繩におしよせ、廃校を余儀なくされる反面、極度のマンモス校が生ずる現象ともなつている。
 子供達をとりまく有害環境も浄化されるどころか、ますます悪化し、少年非行も低年齢へと広がりつつあり、災害事故も多発の傾向をたどつている。
 基地周辺の学校では爆音に悩まされ、パイプラインや不発弾におびえている。基地あるが故に生じた混血児問題も基本的人権にかかわる問題として注目されつつある。また、高校への進学難のため全国で一番多い約二千人の中学浪人を生み出し、基礎学力の問題も大きな課題として浮かび上がつてきている。
 乱開発による文化財破壊が続き、教育の基礎資料がどんどん失われ、伝統文化も生活環境の荒廃で変容し、消滅の危険にさらされている。
 さらに、障害児の教育と社会教育の分野で他府県に比べ大きく遅れ、新規学卒者の失業増加も深刻な問題となつてきている。
 これらの直面する教育問題は、その多くが沖繩戦や基地及び米軍施設に根ざす沖繩の特殊問題といえる。
 今年は、国際児童年にあたり、児童の権利を守り福祉を向上させる年となつていることからも、取り残されている沖繩の教育の諸問題の解決を国の緊急課題として急ぐべきものと考える。何となれば、前述のように沖繩におけるこれらの諸問題は、戦争に起因する犠牲であり、それは国の責任において解決されるべきものだからである。
 よつて以下質問する。

一 戦災・老朽危険校舎の解消について

(1) 旧琉球政府時代に建てられたレンガ造りやへき体ブロック、コンクリート校舎は二十年余も経つて、そのほとんどがひび割れや鉄筋の腐食が目立ち、危険な状態となつている。沖繩県教育振興会の昨年六月の調査によると、約一千教室の危険老朽校舎が残存していることが判明している。また沖繩県教育庁の昨年五月の調査では、市町村立学校十八万平方メートル、県立学校四万平方メートル、合計二十二万平方メートルの不良鉄筋校舎が確認されている。それに昭和二十九年頃から三十一年頃に建築された校舎は、そのほとんどが損傷しており、柱やはりはコンクリートの中性化が主筋にまで達し、鉄筋がはく離状に腐食している。またブロック壁・スラブ等にも大きなすき間やひび割れが生じており、柱やはりも老朽化し、それがますます進みつつある。これまでにも、ブロックやコンクリート片が落下して、児童生徒が危険にさらされるという事故も発生している。応急措置をとつているとはいえ、台風や地震時にはブロック塊等が頭上に落下し、児童生徒に被害を及ぼす危険がある。
 事故を未然に防止し、児童生徒の生命の安全を確保するためには、早急に危険校舎を全面的に撤去し、新築の校舎を割り当てるべきものと思うが、その計画及びいつまでにやるのか承りたい。
(2) 昭和五十四年度から沖繩県教育庁が、「第二次改築三か年計画事業」を実施して、昭和五十六年度までに約二十三万平方メートルの校舎建築を行う予定であるとされているが、この場合の国の補助率が新築の場合の十分の九と異なり四分の三であること及び撤去・解体費が補助されないことなどのため市町村の負担が大きく、早期に危険校舎の解消ができるかどうかが懸念されている。
 そこで格差是正の面からも右の場合、新築と同様の国庫補助をすべきものと思うがどうか。また撤去・解体費の全額国庫負担を図るべきものと思うがどうか。

二 接収用地の買い上げと借地料補助について

 終戦直後、沖繩県の内外から引揚者が殺到し、開放された土地に住民が収容され、米軍の一方的な基地建設計画に伴つて学校用地も二転三転して場所を変え、土地所有者と借地契約等が結ばれる状態にはなかつたと同時に米軍によつて接収された学校用地もかなり残つている。やがて社会が安定してくるに伴つて、地主側が借地料の増額や借地の買い上げの要求が強くなり、関係市町村では財政上到底対応できない状況にある。たとえば那覇市の場合、混乱期に占有した借用校地(五万七千七百八十七平方メートル)を買い上げるためには、数十億円の費用を要するといわれている。
 現在、学校敷地の二十八・九パーセントが私有地の借用となつており、その面積は二十一万六千二百八十平方メートルで年間借地料総額は一億三千万円にものぼつている。
 このように軍用地接収と類似した行為による土地占有は他府県に例がなく、沖繩復帰対策要綱の「公立学校用地の確保」に基づいて措置されるべきものと考える。すなわち「沖繩の学校用地の確保については、軍用地接収による公立義務教育諸学校の借用地等の沖繩の特殊事情を考慮し、所要の措置を講ずるものとする」との規定に基づき、提供施設代替借用校地購入補助と同様の特別措置を講ずべきものと思うがどうか。

三 学校用地の確保について

 人口の都市集中化で、沖繩では短期間に極度の過密、過疎現象が生じ、離島の学校が廃校となる一方都市地域の学校では超マンモス校が生じている。かような学校では十分な教育効果を上げることは困難であり、都市の過密学校は分離し学校増設をする必要がある。しかし学校用地を民有地に求めることは実際上不可能であり、結局軍用地を開放しそれを学校用地に転用させる以外にその解決策はない状況である。全国の基地面積の約五十二パーセントが沖繩にあり、その軍用地内には戦前の学校敷地が十八校も接収されたままである。
 そこで軍用地を開放し、それを学校用地に優先して転用する措置を講ずるべきであると思うがどうか。

四 学校周辺の危険施設の撤去について

(1) 米軍のパイプラインは敷設後二十余年も経過して老朽化しており、たびたび油もれ事故を起こしている。このパイプラインは、那覇及び中部地域にある主要基地に油を送るために敷設されたもので、総延長が約二百二十七キロメートルに及び、学校敷地を通つているものが小学校で十三校、中学校二校、高校四校となつており、これらの学校では児童生徒が常に危険にさらされていることになる。
 そこで、国内法にてらしてその安全性を徹底的に調査し、最小限度学校周辺のパイプラインを早急に撤去すべきものと思うが、その計画及び撤去時期を承りたい。
(2) 今年の一月三十一日に首里高校の校舎建築現場で不発弾が発見されるなど各地で不発弾が発見されている。児童生徒の安全を確保するために、学校敷地やその周辺の不発弾発見のための専門家を編成し、その探索・発掘・処理をすべきものと思うがどうか。

五 爆音対策について

 最近、基地周辺の学校では、米軍の演習や飛行機の離着陸による爆音で授業に大きな支障をきたしている。沖繩全体で爆音の被害を受けている学校は二十七校に及んでおり、主に嘉手納飛行場、普天間飛行場、伊江島射爆場、辺野古のハリヤー訓練場、渡名喜の射爆場等の周辺に所在する学校である。
 これらの学校における爆音は、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」に基づく音響の強度及びひん度の限度をはるかに超えていると考えるがどうか。
 学校周辺の安全を確保するためには、根本的には演習場を撤去し、演習を中止する以外にはないが、とりあえず爆音発生源の監視、立入調査及び改善命令等を行つて、国内法に準じた改善策を講ずるべきであると思うがどうか。

六 高校進学難の解消について

 沖繩の場合、昭和五十三年三月の中学卒についてみると、高校進学率が八十六・一パーセントにすぎず、その前年度の全国平均九十三・一パーセントより七パーセントも低い率であり全国最低である。いわゆる中学浪人も昭和五十三年三月の中学卒業者で一千七百四十八人となつており、その前年度の全国一県当り平均四百四十一人に比べて約四倍となつている。
 教育の機会均等の精神から、進学志願率において全国の場合とほとんど変わらない沖繩において中学浪人をなくし、高校進学率を高めるためには、高校の新設を積極的に推進するとともに、既設校の充実を図り高校の収容能力を高めるべきものと考えるが、政府の考えを承りたい。

七 青少年の雇用拡大について

 沖繩県の場合、昭和五十三年三月卒の就職状況をみると高校卒の就職希望者は六千九百六十二人で就職者が四千六百四十八人となつており、約二千人が希望する仕事についていないことになる(沖繩県労働商工部調べ)。また文部省の昭和五十三年度の学校基本調査によると、沖繩県の高校生の大学進学率は二十・九パーセントと全国下位二番目であり、同じく就職率は三十三・五パーセントで全国下位四番目といずれも低い状況である。このことは、進学も就職もできないいわゆる浪人が多いことを示すものであり、この中で職業訓練を志望する者が年々増加している。
 そこで若年層の雇用対策として、職業訓練施設を拡充し、県外就職による雇用増とその定着化を推進すべきものと思うが、政府の考えを承りたい。

八 天然記念物の保存について

 沖繩には約三千種の植物があるといわれ、また国頭の原生林には世界的珍鳥のノグチゲラも生息している。そのため国頭の原生林はそのまま保存することが必要であり、したがつて国頭演習場における米軍の演習は規制すべきであると思うがどうか。

九 義務教育の無償について

(1) 憲法第二十六条は、義務教育の無償を定めているが、政府は無償の内容をどう考えているか承りたい。
(2) 民主教育の尊重、教育の機会均等の精神及び地域に即した教育を発展させるため自主編成によるいわゆる郷土読本や副読本を使用している場合、これらの郷土読本や副読本も無償にすべきであると思うがどうか。

十 幼稚園教育の振興について

 復帰前、公立幼稚園職員の給与の半額を琉球政府が負担していたが復帰後はそれがなくなつたため、市町村の財政力の差によつて職員の給与がアンバランスとなつている。これを解消するために、公立幼稚園職員の給与の半額を国で負担すべきものと思うがどうか。

十一 学校給食の無償化について

 義務教育費の父母負担を少しでも軽減するために、学校給食の無償化を図るべきものと思うがどうか。

十二 学級編成基準について

 アメリカやヨーロッパにおいては、生徒数は一学級三十人が常識となつている。国は教育効果を十分に上げるため、学級編成基準による一学級四十人以下を早急に実施し、それに伴う教員増は勿論、学級増に伴う教室や校舎の確保にも配慮すべきものと思うが、政府の考えを承りたい。

十三 養護教諭・事務職員・警備員の完全配置について

(1) 昭和五十三年度現在、沖繩における養護教諭の未配置校は九校ある。国は養護教諭の完全配置を図るとともに、大規模校には複数配置を図るべく措置すべきものと思うがどうか。また障害児学級設置の小中校や養護学校には一人の加配をすべきものと思うがどうか。なお現在配置されている養護教諭の産休、病休の補充教員を配置すべきものと思うがどうか。
(2) 沖繩の場合、学校事務職員の未配置校が四十四校あり、配置率は小学校七十一パーセント、中学校八十二パーセントとなつているが、いずれも複数の配置はされていない。そこで未配置校への完全配置をするとともに、大規模校における事務職員の加重負担を解消するため複数配置をすべきものと思うがどうか。
(3) 宿日直の廃止に伴い、学校に警備員を配置するようになつているが、実際には財政上の理由から警備員をおけず学校を無人化するか、教職員が宿日直を行うという状況も続いている。小・中・高校いずれにおいても警備員を配置すべく国としても措置すべきものと思うがどうか。

十四 退職教員の生活保障について

 沖繩が、戦後長期にわたつて行政分離され、異民族の支配を受けていたため、退職教員の恩給・年金による実損を受けて来た。徐々に格差は是正されてはきたが、退職後安心して生活ができるためには次の事項を改善すべきものと思うがどうか。
 すなわち

(イ) 年金・恩給額を大幅に引き上げ毎月支給制度を実施すること。
(ロ) 年金・恩給(遺族、廃疾を含む)は、公務員給与の上昇率にあわせた自動スライド制を実施すること。
(ハ) 遺族年金給付率を八十パーセントに引き上げ、遺族一時金、死亡一時金の新設を行うこと。
(ニ) 当面六十歳から年金特別控除の大幅引き上げを行うこと。

  右質問する。