質問主意書

第87回国会(常会)

質問主意書


質問第四号

大手私鉄の運賃値上げに伴うサービス改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年一月二十六日

沓脱 タケ子   


       参議院議長 安井 謙 殿


   大手私鉄の運賃値上げに伴うサービス改善に関する質問主意書

 大手私鉄十三社は、去る一月八日運賃値上げをいつせいに行つた。今回の値上げが、長期不況のもとで苦しい生活を余儀なくされている国民にいつそうの犠牲を強いることは明らかであり、値上げを認可した政府の責任はきわめて重大である。
 ところで大手私鉄各社は、値上げ理由のひとつにサービス改善のための投資充実をあげている。これは前回(昭和五十年十二月)の値上げの理由のひとつであつた。運輸省は同年十二月五日付で鉄道監督局長名の通達をだし、「鉄軌道の安全の確保、輸送力増強、サービスの改善を図るため、新線建設、複々線化、ホームの延伸、車両の増備、立体交差化、踏切道の改良、車両の冷房化、駅トイレの整備、身障者のための施設の整備等の工事を推進すること」を大手私鉄各社に要請した。ところが、値上げ認可の条件ともいうべき、この通達は実効をあげなかつた。たとえば、車両の冷房化については福永運輸大臣(当時)が「若干の会社が冷房化率がかなり下回つているということは残念に存じます」(昭和五十三年十月二十日衆院運輸委員会)と答弁せざるをえない状況である。また身障者施設についてみれば、大手私鉄十四社合計で点字券売機は約十二パーセントの駅に、誘導ブロックは約四パーセントの駅にしか設置されていないという現状であり、その整備を事実上放置していたといわざるをえない。
 駅のトイレの整備についてみても、利用者のなかから「大手私鉄のデパートのトイレはピカピカ、駅のトイレは汚れつぱなし、わしらを客と思つているのか」との怒りの声があがるのも、しごく当然の状況である。
 このような事態を引き起こしたのは、第一に大手私鉄各社が“ほうつておいても客がくる”と考え、サービス改善を置きざりにしており、第二にその各社を利用者の立場に立つて真剣に指導しようとしない運輸省の姿勢にもとづくものである。
 今回の値上げにあたつても、運輸省は前回と同趣旨の通達をだしている。しかし、それだけで事足りるものではないことは、いまや明らかなところである。
 それだけに今回こそ政府は責任をもつて、各社の計画の完全実施と不十分な計画の充実を図るために、きめ細かい指導を行う必要がある。
 以下、具体的に質問する。

一 運輸省発表の「大手民鉄旅客運賃改定概要(昭和五十三年十二月)」には、大手私鉄の駅施設と身障者用設備の実績と計画が、各社別に年度毎(昭和五十二年度~五十六年度)、項目毎に、こまかく記載されている。ここに記載の数字は、いつ、どの駅に、なにを整備するかという具体的計画を積みあげたものと考えるが、どうか。
 もしそうであれば、この計画はきわめて不十分ではあるが、確実に実施させる必要がある。そのためにも「輸送サービスの改善計画等について、利用者及びその他の関係者の理解と協力を得るよう一層の広報活動に努めること」(鉄監第二〇一号通達)にもとづき、この具体的計画及びその実施状況を利用者に公表するよう大手私鉄各社を指導するべきだが、政府の見解を明らかにされたい。

二 身障者用設備の整備計画は、さきの資料によれば、たとえば点字券売機については、名鉄、南海の二社はいまだ一駅にも設置されていない。それだけでなく昭和五十六年度までの計画もゼロである。近鉄は昭和五十三年度までに約半数の駅に設置し、その後の計画はない。
 また誘導ブロックについてみれば、昭和五十六年度までに、近鉄は三二八駅中五六駅、南海は一一五駅中三五駅、京阪は八八駅中四二駅、阪急は八四駅中五七駅、阪神は四四駅中一五駅しか計画されていない。さらに階段のスロープ化やエスカレーターの設置については論外ともいえる状況である。これでは身障者用設備を整備する意思なしと断ぜざるをえない。
 政府は、大手私鉄各社が身障者用設備の整備計画を充実するとともに、それを実施するよう指導するべきだが、どうか。

三 日本共産党中央委員会の村上弘幹部会副委員長と同大阪府委員会の四ツ谷光子文教対策委員会副委員長の両氏は、昨年利用者を対象にした私鉄各社への要求アンケート調査を実施した。その調査によれば、混雑緩和や冷房車増車とともにトイレの改善(増設、水洗化、清潔になど)を要求する声が多数集まつた。この結果をもとに村上氏が昨年十一月四日阪急と交渉したところ、同社はトイレの総点検を約束した。しかし二ケ月経過した現在も、まだ実行していない。
 政府は、同社の約束をすみやかに実行させるとともに、ほかの各社についてもトイレ総点検の実施と、それにもとづく改善を指導するべきだが、どうか。

四 さきの調査によれば、定期券発売駅が少ないことに対し、利用者の不満と要求が強い。たとえば、わざわざ発売駅まで出向いて購入せざるをえないという不便さとともに、その際電車を利用すれば、その運賃を支払わざるをえないことなどである。定期券購入のための運賃は、いわば“不当利得”ともいえるものであるから、大手私鉄各社がその運賃については定期券購入の際払い戻すよう指導されたい。
 さらに要員の増員を行い、発売駅を増設するとともに、それが不可能な場合は、発売しない駅において予約制度(たとえば、朝、購入申込書を受け付け、夜、手交するなど)を導入するよう指導すべきと考えるが、どうか。

五 駅施設や身障者設備の改善が、きわめて不十分であるにもかかわらず、私鉄各社は自民、民社、新自由クラブの各党に巨額の政治献金を行つている。自治省届け出分だけをみても今回値上げ申請前年の昭和五十二年の献金は、合計三億一千五百万円にものぼつている。駅施設や身障者用設備の改善事業費が昭和五十二年度実績で約十八億円でしかないことと比べれば、この三億余円の献金がいかに巨額なものであるかは明白である。
 政府は、私鉄各社の政治献金をすでにやめさせ、その資金をサービス改善事業にまわすよう指導するべきだが、どうか。
 以上の質問のそれぞれについて、政府は、それを実行する意思があるのかどうか、有とすれば、いつ、どのようにして行うのか、万一、無とすれば、それはなぜか、明快な答弁を求める。

  右質問する。