質問主意書

第85回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質八五第二号

  昭和五十三年十月二十四日

内閣総理大臣 福田 赳夫   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員二宮文造君提出硫黄島の復興計画と旧島民の帰島に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員二宮文造君提出硫黄島の復興計画と旧島民の帰島に関する質問に対する答弁書

一について

 小笠原諸島の硫黄島は、第二次世界大戦の激戦地であつたことから、同島の復興に当たつては、遺骨の収集及び不発弾の処理という特別な事情を考慮する必要があり、また同島の立地条件の特殊性として火山活動についての安全性の確認を前提として開発の可能性を検討することが必要であつたところである。
 小笠原諸島復興計画において、硫黄島について帰島及び復興計画の当面の対象としていないのは、このような事情についてその目途を得るに至つていないからである。

二について

 硫黄島については、昭和四十九年から昭和五十年にかけて現地調査を実施したところであり、その結果等を参考に同島の取扱いについて検討しているところであるが、引き続き、各般の事情を勘案のうえ、将来の問題も含めて、小笠原諸島復興審議会の意見等をも聴き、十分検討してまいりたい。

三について

 硫黄島の現況については、不発弾処理等の未済という状況がなお引き続いており、しかも火山活動による地盤隆起という自然条件の下にあり、安全性の確認も得られないことから、現時点における帰島については、慎重に対処すべきものと考える。

四について

 硫黄島の遺骨調査については、昭和二十七年から昭和四十八年までの間に五回にわたつて行い、遺骨収集については、昭和四十四年から現在まで八回にわたつて実施してきており、収集数は、四千八百十五柱となつている。
 同島戦没者約二万人のうち、その多くは、同島に撃ち込まれた鉄量約四万トンといわれる米軍の猛攻撃によつて地上において戦死されたものと推定されるが、昭和二十七年に政府派遣団が同島を訪れたときは、地上において発見される遺骨はほとんどなかつた。現在、同島に残存する遺骨は、地下壕(総延長約十八キロメートル)内に在るものであるが、目下、この地下壕について、機械力を用いて埋没している壕口を掘開し、遺骨収集を実施している。なお、残存遺骨数は壕内に在る数千柱と推定される。
 今後も引き続き遺骨収集を行つてまいりたい。
 また、返還以降自衛隊が行つた同島での不発弾の処理実績は現在までで合計約二十一トンである。
 なお、埋没量は、陸上部における不発弾について、サンプル調査によれば、約千トンと推定される。
 今後の処理については、引き続き検討してまいりたい。

五について

 硫黄島については、不発弾等の存在が農業開発に当たつての障害となると考えられる。
 仮に、その障害を除去した場合においても、火山活動、農業用水の確保等の自然立地的な間題もあり、また、導入作物の選定、当該作物の経済性、消費地への輸送手段等の面の隘路も多く、更に飲料水、医療施設等農業者の生活環境の整備等も必要であるので、慎重に検討すべきものと考える。

六について

 硫黄島周辺の漁業資源は、ほとんどが回遊性魚類であるため、年間を通じて安定的な漁業生産を上げることができず、変動的であると考えられる。
 また、遠洋漁業基地としての位置的価値は認められるが、同島の地形・地質上、漁港その他の各種施設整備について、その適地に乏しく、かつ、その建設は、地盤隆起等の障害があり、極めて困難である。
 このような事情から、同島における漁業については、経営規模、採算性等についても、多くを期待し得ないものと考える。

七について

 硫黄島への帰島可能性については、一について及び三についてで述べたような事情に加えて、同島が隔絶した外海離島である条件にかんがみ、その土地利用、帰島後の生活と就業の見込み、水資源、電力確保等検討すべき数多くの要素がふくそうしているため、結論を得るに至つていないところである。したがつて、帰島可能者数、各種施設の整備目標等について、試算するには至つていないところである。

八について

 硫黄島について、将来その開発が行われ、旧島民の帰島等により同島への交通の確保の必要性が生じた場合には、航路の再開についても検討いたしたい。
 また、同島は火山活動による地盤隆起等があり、民間機との共用については、滑走路の安全性確保等のため、十分な調査、検討が必要であり、慎重な考慮を要する。

九について

 港湾施設を建設すると仮定した場合、現在の技術水準で必ずしも不可能とは考えられないが、建設資材等をすべて本土からの輸送に依存するため、膨大な投資を要し、また、同島の海岸は漂砂現象が激しく、かつ、火山活動による地盤隆起もあり、なお、十分な調査が必要である。
 また、港湾の規模については、人口、産業規模等との関連において考慮されるべきところであり、避難港あるいは中継基地としての役割を果たし得るかについては、その他の条件にもよるものであるが、これらの前提条件について、いまだ結論を得るに至つていないところである。

十について

 硫黄島の土地利用の現況については、総面積約二千二百ヘクタールのうち、自衛隊の施設約五百ヘクタール、駐留軍に提供している施設及び区域約四百五十ヘクタールで、その他約千二百五十ヘクタールは利用されていない土地である。
 同島の土地については、その総面積のほぼ三分の二を占める国有林地以外の土地のほとんどが登記されているが、その筆数は、二百十三筆(民有地百八十六筆、国公有地二十七筆)であり、これらの登記簿上の地目は、ほとんどが畑である。
 また、復帰後現在までになされた土地の所有権移転登記の申請件数は、十件(民有地を国有名義とする売買による移転)である。
 なお、土地の位置及び境界を一応明らかにする地図として防衛施設庁が復帰後作成した地図を現在東京法務局において管理しているが、この地図による境界について争いがある土地については、本土の場合と同じく関係所有者間において、協議又は裁判により境界を確定すべきものである。

十一について

 小笠原諸島内の旧小作地に係る賃借権については、小笠原諸島の復帰に伴う法令の適用の暫定措置等に関する法律(昭和四十三年法律第八十三号)第十三条の規定によりその保護を図ることとしているが、同条の適用をめぐる一部関係者の賃借権の有無に関する事実関係については、民事上の問題であるので関係者間の協議等により解決すべきものと考える。

十二について

 年度別の損失補償費及び賃借料の支払額は、次のとおりである。

年  度          支払額
昭和四十三年度        千六百万円
昭和四十四年度       二千九百万円
昭和四十五年度       三千六百万円
昭和四十六年度       三千九百万円
昭和四十七年度       四千六百万円
昭和四十八年度       四千六百万円
昭和四十九年度         五千万円
昭和五十年度          五千万円
昭和五十一年度         五千万円
昭和五十二年度       四千九百万円

十三について

 小笠原諸島において、地盤隆起が生じているとみられるのは、目下硫黄島のみである。
 同島における地盤隆起の状況は、昭和四十七年及び昭和五十年に行つた調査によると、年平均隆起量は、それぞれ二十八センチメートル、三十六センチメートルであつた。
 地盤隆起の原因は、通常の活火山の地熱地域から放出される量と比較してかなり大量の熱エネルギーの連続的放出と地下深所からの大量の熱供給によるものと考えられ、ひとたび熱放出と供給の均衡が破れた時には、大規模な地かく変動が発生する可能性があるとみられている。

十四について

 硫黄島は、摺鉢山をかなめとした扇形の平坦な台地を形成し、地表は主としてギンネムで被覆された単調な景観であるが、海岸線は比較的変化に富んでいる。
 そのレクリエーション的利用については、戦跡であることによる国民特に遺族の感情についての配慮及び不発弾処理の問題も前提として慎重に考慮する必要がある。