質問主意書

第84回国会(常会)

質問主意書


質問第二四号

横浜市内米軍航空機事故に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十三年六月十六日

山中 郁子   


       参議院議長 安井 謙 殿


   横浜市内米軍航空機事故に関する質問主意書

 本年一月二十四日、日米合同委員会で承認した、横浜市内米軍航空機事故に関する事故分科委員会の報告書は、かねてより、わが党が指摘もし、真相の全面的な公開も求めてきたとおりきわめて不充分なものである。
 本報告書における最大の疑問は、本件事故の原因と責任を、「合衆国における中間レベルの整備」過程での「サポートの装着不良」という一点にしぼつていることである。しかし、本件については、さまざまな角度から問題を指摘し、質問もしてきたように、いろいろな原因及び責任が重複して、悲惨な被害を生んだ墜落事故に至つたことは明白である。
 この報告書の立場と結論は、航空機事故解明における、科学・技術のあり方としても重大な問題を残しているといわざるを得ない。
 かかる中でこの質問主意書は、事故機及びそのエンジンを中心とした技術的問題にしぼつて以下の質問をするものである。
 本事故の重大さと政府の責任のおもさ、国会審議の経過にてらして、責任をもつて明白に答弁されることを求める。
 その際、政府の見解とともに、事故分科委員会における米国側からの報告ないし解答がどのようなものであつたかを、あわせて答弁されたい。

一 事故機の型式はRF-4Bであり、同機種は一九六三年二月米海兵隊発注により開発され初飛行が一九六五年三月のF-4Bの偵察型である。報告書にある事故機の製造年月、一九六五年三月というのは、同型機の中でも最も古いRF-4Bであると思うがどうか、また製造番号を明らかにされたい。

二 F-4BはF-4シリーズの中で最初に実戦配備された機種であり、一九六七年に製造終了となつている。現在まで多くはその後に開発された機種と交替しており、残つているものもほとんど予備役になつている。残つているものには老朽化に対し寿命延長のため改修・改良を行つていると聞くが、本事故機についてのこれまでの故障と事故の経歴、及び事故に至らないトラブルも含め不具合の特性、整備や改修及び修理の経緯とその内容について詳細に明らかにされたい。また現役と予備役のそれぞれの期間に所属した部隊の経歴についても明らかにされたい。

三 事故機のエンジンJ79GE-8もまた、J79シリーズの中では最も古い初期型であり、エンジンについても製造年月、これまでの故障と事故の経歴、不具合の特性、整備や改修及び修理の経緯とその内容について詳細に明らかにされたい。

四 J79の後期型はJ79GE-10、GE-17で、GE-8に対し、空気流入量の増大、圧縮比の増大、燃焼温度の増加等による性能向上とアフターバーナ部の大幅な変更を行つている。防衛庁は両型ともよく研究しているはずであり、石川島播磨重工では自衛隊機F-4ET、RF-4E用としてGE-17をIHI17としてライセンス生産している。そこでアフターバーナ部のダクトやライナー、サポート、トラック等の構造、アフターバーナライナーの組み付け作業のマニアル、素材等の両型間の改良点について報告されたい。

五 サポートの不良な装着を行つた「合衆国における中間レベルの整備」から、事故に至るまでのエンジンの経過が、報告書では全く明らかにされていないが、

(1) 航空機の性能向上にともなつて整備も簡易集中化されてきているが、この古いエンジンに対して、報告書のいう「中間レベルの整備」とはどんな整備をさしているのか。また、このとき実際行われた整備の内容と、整備を行つた場所、年・月・日を明らかにされたい。
(2) このエンジンは事故の直前、事故機に載せ換えたのではないか、いつどこで事故機に搭載されたのか明らかにされたい。
報告書によると、離陸後サポートの装着不良によつて第三ライナーが高温ガスの中にフレックスし、ライナーの焼損、さらに排気ダクト焼損、エンジン室シュラウド焼損、第六燃料セル底面外壁部焼損、第六燃料タンクの炎上、右エンジンのファイヤーオーバーヒートライトの点灯と進行し、空中偵察員の証言でも空中爆発は報告されていず、爆発によらずにこの経緯がわずか三〇秒にも満たない時間で進行したことになつている。離陸してすぐ墜落する事故機が、「合衆国における中間レベルの整備」から事故の直前まで、何の異常も発見されずに相当期間、正常に飛行していたとすることには重大な疑問が残る。
(3) 事故機がこのエンジンを搭載した後、飛行した時間と距離、アフターバーナの使用時間、事故までに行つたエンジンテストとその各時間を経過的に明らかにされたい。
(4) 事故機は厚木にはどこから飛行してきたのか。ミッドウエイからか、または岩国からか。事故機は厚木で、エンジンの載せ換え、または事故機もしくはエンジンの修理か整備を行つたのではないか。

六 サポートの装着不良の状態は、第三ライナーの同列のサポート全てが外れていたのか。またアフターバーナライナーは取り扱いにくく組み付けがむずかしい作業だけに装着不良は容易に気がつくし、組み付け後は目視検査で簡単に分かるはずである。エンジンテストの段階でも音、振動、排気ガスの異常などで発見できたはずである。報告書はテクニカルマニアルの緊急措置を改正し「強力な白日光を使用する品質保証点検の追加」を行つた、としているが、通常ではあり得ない検査の見おとしがなぜおきたのか、この点についてどのような調査及び究明を行つたのか、明らかにされたい。

七 離陸からファイヤーオーバーヒートライトの点灯にいたる進行を、報告書のような経過として結論づけ得るのか。

(1) 事故機は離陸直後、エンジンからの白い煙を目撃されているが、報告書の立場ではこの煙はダクトを焼損しつつあつた金属を溶かしていた状態での煙と考えるのか。また後方より飛来してきた六一二号機のパイロットが合流の際、事故機からの異常な黒煙と炎をみているが、この時はすでに第六燃料セルの底面外壁部を焼損し、燃料が漏れて火災が発生していたと考えるのか。
(2) このように進行したとすると、離陸直後からライナー、ダクトを溶かし始め、エンジン室のシュラウド、第六燃料セルの底面外壁部など四層、五層の対熱性の高い金属を、三千フィートに到達するまでのわずか十数秒前後の間に溶かしたことになるが、これを可能と考えるのか、各金属の素材と対熱性、圧力に対する値など関係諸元を明らかにされることと、このことについて行つた実験及び実験値について明らかにされたい。あわせて、エンジンの出力の変化とダクトの中の圧力と圧力の方向、変化、ガスの温度について詳細に明らかにされたい。
(3) ライナーのフレックスから右側エンジンのファイヤーオーバーヒートライトの点灯状態に至る事故の進行の状態を、各段階ごとの時間的経過をどう考えたのかを含め詳しく説明されたい。
 報告書は排気ダクトの焼損からエンジン室シュラウドの焼損、第六燃料セルの底面外壁部の焼損という一連の進行を書いているが、この結論に至つた理由を述べていない。とくに残骸物件目録に見るかぎり、このような結論に至る充分な証拠物の回収はされていないのではないかと思われる。事故の進行についてどのような証拠をもつてこのような結論を得たのか明らかにされたい。

八 本事故における重大な疑問の一つは、ファイヤーオーバーヒートライトの作動と、作動後のパイロットの処置である。

(1) 事故機が三千フィートに到達しアフターバーナを切つた直後に左のエンジンのファイヤーオーバーヒートライトが点灯し、また六一二号機が右側に合流する際、異常な黒煙と炎を見ている。すなわち、事故機のファイヤーオーバーヒートライトが点灯した直後で、まだスロットルを絞つたか絞らないかというとき、右旋回に移行する前、六一二号機が異常な黒煙と炎を見ているということである。このことはファイヤーオーバーヒートライトが点灯したときすでに第六燃料セルの底面外壁部まで焼損し燃料が漏れ、火炎が発生していたことを示している。パイロットの証言が違つているのか、ライトに異常があつたのか、本来、本件事故はダクトの焼きつき程度でとどまつていたはずなのに、全く警報装置の役割を果たしていなかつたといえる。報告書がこれについて一言もふれていないのはなぜか。
(2) 事故機は離陸前に一度、警報装置のライトが作動したと言われているが、作動した警報装置は何を示す装置か、この原因は何か、またこのことについてはどんな調査を行い、どういう結論となつているのか。
(3) 事故機におけるファイヤーオーバーヒートライトはどのような装置か、どういう状態でライトが点灯するのか、またエンジン室にはりめぐらされた熱に感応するワイヤーの装着状態、反応温度、残骸物件リストには不明だが雑小片三カートン中の物件細目を含めどのような証拠品が回収されているか、またその状態について明白にされたい。
(4) 左のファイヤーオーバーヒートライトが点灯した時はすでに、左エンジンは第六燃料セルの燃料が流れこんで火災をおこしていたと考えられるか。
(5) ダクトの焼損中またはエンジンベイへ排気ガスが流れこんだ状態でファイヤーオーバーヒートライトが点灯しなかつたのはなぜか。
(6) 左のファイヤーオーバーヒートライトの点灯後、何秒後に右のライトが点灯したのか。スロットルを絞つてから右旋回開始までの時間は。
(7) 左のファイヤーオーバーヒートライトの点灯後、緊急事態の発生の連絡を無電していないのは重大であるがなぜか、また左エンジンのスロットルをアイドルに絞つてから右旋回を開始しているのは、報告書では「出発指示に従いながら」とあるが、パイロットは目的地(空母ミッドウェイ)に到達できると考えたからか。
(8) 離陸から墜落までの時間は二~三分間ということであるが、ファイヤーオーバーヒートライトの点灯は離陸後二十~三十秒の時点である。六一二号機による確認だけでなく、大和市役所屋上からの写真や目撃証言によつても基地から一マイル程度の距離ですでに異常な黒煙と炎をふいており、左のファイヤーオーバーヒートライトの点灯後、パイロットが直ちに緊急着陸等を考えなかつたのはなぜか、またこの時点で緊急事態発生の連絡をしていないのもあまりにも異常である。いわばまだ滑走路の延長とも言える、基地先端より一マイル程度で発生した緊急事態に対し、三十分も飛行する目的地に向かつてコースを取つているわけで、緊急着陸を選択しなかつたことは、単にこのパイロットの異常な性格を示しているだけではない。同機長のRF-4Bでの飛行時間=六五〇時間はあまりにも短かいと考えるが、同時に本報告書では事故機での飛行経歴が不明である。飛行時間を含め詳細な報告をされたい。

九 結論を出すに至つた残骸の状況及び証拠物件の状態について、

(1) 結論を出すに至つた証拠は、事故機の残骸と乗員等の調書となつているが、証拠の状態は非常に程度が悪い。とくに事故機は墜落と同時に衝突と爆発、大火災をおこしているが報告書には「墜落した航空機は、衝突と火災により破壊された」としている。爆発の有無について明らかにされたい。
(2) 事故原因とされるアフターバーナライナーの組み付け不良は、報告書にもあるとおり全く「まれなできごと」であり、どのような証拠物件とその状態によつて結論づけられたのか、さらに次の物件について回収された状態の詳細な報告を求める。第三ライナー、サポート、排気ダクト、エンジン室シュラウド、第六燃料セルの底面外壁部、第六燃料タンク、左エンジン。
(3) 証拠物件の回収時の状態が、事故原因を示しているのか、それとも地上衝突、爆発、火災等二次的なものによつておこされたものか、この判断をどのようにして行つたのか、各重要な証拠物ごとに詳細な報告を求める。
(4) 報告書では「日本側技術専門委員は、各種資料並びに事故機機体、エンジン残骸の実地調査及び所要の実験により本件事故の原因……を確認した」とあるが、各種資料とは何か(資料名も含め)、所要の実験とはどのような実験を行つたのか、また機体、エンジン残骸の実地調査とはどの程度の調査か、調査の専門的深さが充分保証され行われているのか、調査に付した物件目録、日数、調査方法について明らかにされたい。

十 冒頭でも指摘し、以上の質問でも明白なように、技術的問題にしぼつても、本件事故の原因と責任を、サポートの装着不良という一点にしぼつていることはきわめて異常である。
 かさねて全面的な真相の公開を求めるとともに、事故分科委員会や米国内での技術的解明の段階、日本側技術専門委員等、各セクト、段階でどのような原因や責任の究明が課題となり、また究明が進められてきたかを明らかにされたい。

  右質問する。