質問主意書

第84回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

福田内閣による成田空港の強行開港に係わる諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十三年二月二十一日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   福田内閣による成田空港の強行開港に係わる諸問題に関する質問主意書

 福田内閣の成立直後である昨年初頭から始められた成田空港の開港強行策は、同年十一月末、来る三月三十日を供用開始の期日にするという田村元運輸相(当時)による「開港宣言」を生み出すに至つた。かかる開港強行策の妥当性については、これ迄三度にわたり質問主意書を提出し、内閣答弁書(内閣参質八〇第五一号、同八一第五号及び同八二第一七号)の送付を受けたところであるが、これら質問・答弁の展開の中で、福田内閣が成田開港をしやにむに急ぐ理由とした二つの要因、即ち、「過密に起因する羽田空港の非常事態」を解消すること及び数千億円の投資を生かすことのそれぞれが、現在の羽田空港が航空需要に対応しきれなくなつていること及び成田空港への既往の投資が長い間活用されるに至つていないことへと変質している。福田内閣に成田空港建設問題の本質に対する正確な認識があつて、開港強行策が決定されたとはとても思料し得ない。
 成田問題は現在的な課題であると同時に歴史的な事件であるとの認識に立ち、したがつて事実関係を将来に向つて明らかにしておく必要があると思料するゆえ、成田空港建設問題及びこれと表裏一体の関係にある羽田空港の運用の実態について、開港強行策の一切のかつ最終的な唯一の責任者である福田赳夫首相の御見解を、この時期に明確に賜つておきたい。

一 田村運輸相に「開港宣言」を出させるにあたり、成田空港の開港要件としてどのようなものが充足されるべきものとしていたのか、次により根拠・理由を添えて具体的に示されたい。

(1) 航空路及び空域の再編並びにそのために必要となる航空保安施設(航空路保安施設)の設置
(2) 空港施設(飛行場保安施設等を含めて)の設置
(3) 都心・空港間を結ぶアクセス施設の設置
(4) ローカル線を含め国内線の大半を羽田空港に分離することにより必要となる羽田・成田両空港間を結ぶアクセス施設の設置
(5) 運行時間の設定及びそれを規定する騒音対策の実施
(6) 航空燃料の安定供給手段の確保
(7) (1)~(6)は暫定措置か、そうであるならば、昭和四十六年四月とした開港予定期日を七年も経過しているにもかかわらず、暫定措置とせざるを得なくなつた原因又は理由並びに責任の所在
(8) (1)~(6)が暫定措置であるならば、それらに代る本格措置の内容、暫定措置に対する処理能力の差異及び完成予定時期

二 暫定措置の積み重ねによる成田開港、つまり成田暫定開港は何をもたらすかについて、次により根拠・理由を添えて具体的に示されたい。

(1) 中華航空公司(台湾)を除く外国航空会社にもたらされる影響について

(イ) 中華航空公司を羽田空港に残したまま、暫定開港に応じて成田空港に移転することによるメリットとディメリット
(ロ) 成田暫定開港にただちに応ぜず、当面又は許容可能な限り羽田空港に居すわることによるメリットとディメリット

(2) 成田暫定開港にもかかわらず、国際線として唯一羽田空港に取り残されることによりもたらされる中華航空公司のメリットとディメリット
(3) 暫定開港に応じて成田空港へ移転することにより日本航空にもたらされる影響について

(イ) 中華航空公司のみを羽田空港へ残す場合のメリットとディメリット
(ロ) 当面日本航空のみが移転することによるメリットとディメリット

(4) 中華航空公司と競合関係にある日本アジア航空について

(イ) 中華航空公司を羽田空港に残したまま、成田空港へ移転しなければならない理由及び法律上の根拠
(ロ) 中華航空公司を羽田空港に残したまま、成田空港へ移転することによるメリットとディメリット

(5) 国際線が成田空港へ移転することによりもたらされる国際線航空利用客のメリットとディメリット
(6) 国際線が成田空港へ移転することによりもたらされる全日本空輸及び東亜国内航空のメリットとディメリット
(7) 国際線が成田空港へ移転することによりもたらされる日本国有鉄道のメリットとディメリット
(8) 成田暫定開港によりもたらされる千葉県、成田空港周辺の市町村及び周辺住民のメリットとディメリット
(9) 成田暫定開港は、国家総体として国の投資を有効に活用したといえるのか、福田首相としての見解

三 去る十七日開催された新東京国際空港関係閣僚会議の席上、福田首相は成田暫定開港について「国家的威信がかかつている」など強く指示したと報じられているが、かかる指示について

(1) 昭和三十八年度に初めて予算措置が講じられて以来、十五年を経たことになるが、今なお暫定開港しか生み出し得ないことにより失つた名誉又は「国家的威信」は、暫定開港により対外関係において或いは国内的にどの程度回復されるとしているのか。その理由は何か併せて示されたい。
(2) 「国家的な威信がかかつている」はずの三月三十日の成田暫定開港が不可能又は延期されることにより失われる「国家的威信」の実態について

(イ) 失われるはずの「国家的威信」の具体的内容は何か。どのような不利益が国民に課せられるのか。
(ロ) 失うものがあるとすれば、それは成田問題の本質を洞察することなく、何故か開港強行策を決定した福田首相個人の「威信」ではないのか。そうでないとするなら、その理由を示されたい。
(ハ) 三月三十日の成田暫定開港に「国家的威信」を課すのであれば、これが不可能又は暫時にしろ延期せざるを得なくなつた場合、当然のことながら福田内閣はその所謂「威信」を賭した政治的責任を一体どのように表現するのか。

  右質問する。