質問主意書

第84回国会(常会)

質問主意書


質問第九号

身体障害者をはじめとするハンディキャップのある人々のための生活環境整備促進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十三年二月十五日

前島 英三郎   


       参議院議長 安井 謙 殿


   身体障害者をはじめとするハンディキャップのある人々のための生活環境整備促進に関する質問主意書

 近年、「福祉の町づくり運動」等が各地で行われ、道路、建築物、交通機関等を、身体障害者をはじめとするハンディキャップのある人々にも利用しやすいように改善、改良するよう求める声が強まつている。身体障害者等を考慮した生活環境整備については、心身障害者対策基本法第二十二条において、「国及び地方公共団体は、心身障害者による交通施設その他の公共的施設の利用の便宜を図るため、施設の構造、設備の整備等について適切な配慮がなされるよう必要な施策を講じなければならない」と規定している。また、中央心身障害者対策協議会は、昭和四十七年十二月、「総合的な心身障害者対策の推進について」と題する報告の中で「現在の物的、社会的環境条件のために、その活動を制限されている多くの障害者の自立更生を図るため、障害者の利用の多い地域から必要な施策を早急に実施されることを強く要望するものである」と述べている。
 これに対して、政府は、昭和四十八年度より三ケ年度にわたり「身体障害者福祉モデル都市設置事業」を実施した他、歩道と車道の段差の解消については昭和四十八年に、盲人用交通信号については昭和五十年に、それぞれ基準の全国的な統一を図り、また、官庁営繕に関しても昭和五十年に「身体障害者の利用を考慮した設計資料」を作成し、関係者に配布し、整備基準の統一を図つた、等の施策を講じ、生活環境整備の促進を図つているとしている。この他、地方公共団体において、独自の要綱等を設けて努力を払つている所もあり、民間においても、身体障害者等の利用を考慮した設計を採り入れる傾向が見られる。これらを総合的に判断して、身体障害者等の生活環境整備が、徐々にではあるが、前進する方向にあることを認めないではない。
 しかしながら、その改善はまだまだきわめて部分的なものである。身体障害者等のハンディキャップのある人々が、その活動を制限されることなく自立更生するためには、生活環境全般にわたつて配慮がゆきわたる必要がある。それがきわめて部分的である現在の段階では、すでに改善がなされた箇所であつても有効に利用することは困難である。特に、交通機関とそれにかかわる建築物や、比較的古い建築物において、整備、改善の遅れが目立つ。また、改善を図つたものの、身体障害者等が実際には使用できなかつたり、使用しにくいという場合が少くない。このことは、環境整備を進めるにあたり、身体障害者等の意見や要望を充分に聴取する努力を怠つたためと指摘せざるを得ない。
 ところで、中央心身障害者対策協議会は、前出の報告の中で、「このような施策の推進にあたつては、一般健常者の理解と協力が不可欠の要素であるので、広く国民の障害者に対する正しい知識と理解を深め、障害者福祉に対する幅広い国民各層の協力が得られるよう積極的な啓蒙活動を実施されること」を政府に要望しているが、積極的な啓蒙活動がなされているかどうか、かつ、正しい知識と理解が深まつているかどうか、いささか心配の念を抱かざるを得ない。例えば、身体障害者等のための、施設、設備の改善に対して、少数者のために多大の費用を要する効率の悪い施策であるとするが如き誤まつた理解がないとは言えない。心身障害者対策基本法第三条は「すべて心身障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と規定している。いうまでもなく、この権利は、憲法において保障された基本的権利の一環をなすものであり、過去長い期間、事実上、基本的権利の一部が制限を受けていたと看做すべきである。従つて、個人の尊厳にふさわしい処遇を保障するための諸施策は可能な限りすみやかに進められなければならないと考える。一方、このような生活環境整備は、決して少数者のみのための施策ではない点が強調されるべきである。身体障害、老齢、病気、一時的な損傷等、個人の可動性が制限される原因は様々である。しかも、何らかの原因で恒常的に又は一時的にハンディキャップを背負う可能性は、すべての人に存在するのである。
 前記のような誤つた解釈をなくし、正しい理解と知識を深めるため、啓蒙活動に一層意を用いる必要があるのは勿論であるが、何にも優る啓蒙は、政府が確固たる姿勢と方針を持ち、それを実行していくことである。
 以上のような見地に立ち、次の諸点について質問するので、明解なる答弁をされたい。

一 身体障害者福祉モデル都市設置事業に関して

(1) 本事業の目的は、身体障害者のための模範的な生活環境施設、設備を整備する身体障害者福祉モデル都市を設置することにある。しかし、一都市あたりの予算額はわずか一千万円であり、指定五十三市における本事業による整備状況を見ても、きわめて部分的、選択的な範囲にとどまつている。これでは模範的な環境整備には程遠いと言わねばならない。政府は、本事業が指定五十三市の環境整備に対してどの程度寄与したか、また、これらの施策を進めるにあたり今後どのような配慮が必要であるか検討していると思うが、その内容を示されたい。
(2) 本事業は、昭和五十年度で打ち切られたが、それ以降、独自の要綱等を設け、継続的に整備を進めている地方公共団体がある。地方財政が逼迫している中で、政府は、これらの事業に対してどのような財政援助をしていく考えがあるか。
(3) 政府は、本事業の使命は終り、これを他の都市や町村にも普及するよう、今後一般行政の方で努力する、としているが、具体的にはどのような方策、予算措置を講じているか。

二 官庁営繕に関して

(1) 政府は、第八十二国会における本院地方行政委員会において、わたしの質問に対し、「政府所管の官庁施設については身体障害者の利用を考慮した設計を採用しており、また、既存の庁舎等についても改修を進めている」旨を答弁した。ついては、身体障害者の利用を考慮した設計を採用した庁舎施設の比率はどの程度となつているか示されたい。また、既存の庁舎等の改修について、本年度及び来年度においてどのような予算措置をとられているか示されたい。さらに、既存の庁舎等については、改修の年次計画を策定する必要があると思うが、その考えはないか。
(2) 政府所管のもの以外の公共建築物についても、整備基準の統一を図るとともに、整備を促進するため、政府は、「身体障害者の利用を考慮した設計資料」を関係者に配布したとしているが、その後、関係者において、この資料に沿つてどの程度整備が進んでいるか。

三 身体障害者等の生活環境整備における国際的な動向に関して

 欧米諸国を中心に、すでに十八ケ国以上の国々において、身体障害者等のハンディキャップのある人々を考慮した生活環境の整備を、法的に義務づけるか、又は、建築基準等の中に明記する等の方法により法制化していると伝えられる。また、国連においても、障害者生活環境専門家会議を開催し、最低限の設計基準等を勧告している。政府は、第八十二国会における本院地方行政委員会において、わたしに、「これらの点につき勉強中である」旨答弁している。当然、前記の国際的動向に関して資料を収集し検討を加えていると思うが、現在までにどのような資料を収集したか、また、その検討内容を明らかにされたい。

四 「福祉の町づくり法制化」に関して

(1) 第八十二国会における本院地方行政委員会において、わたしは、身体障害者等ハンディキャップのある人々の利便を考慮した生活環境整備について、その必要性及びその方法を明示する基準を、然るべき法律の中に明記すべきである旨を主張し、政府の見解を質した。これに対して、「中央心身障害者対策協議会において、立法措置をも含めて鋭意検討を進めている」との主旨の答弁があつた。現在の段階で同協議会の検討がどこまで進んでいるか、その内容を明らかにされたい。また、何時までに結論を出す予定かを示されたい。
(2) 今国会における本院予算委員会において、本質問主意書の内容に関連のある質疑が行われた。その際、建設大臣より、「法的措置まではいかがかと思う」との答弁があつた。この答弁は、中央心身障害者対策協議会が立法措置をも含めて検討中であるにもかかわらず、政府が、立法措置に対して消極的又は否定的な見解をとつているとも受けとられかねない。ここに、あらためて、政府の見解を明確にしていただきたい。
(3) 心身障害者対策基本法第八条は、「政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない」としている。我が国における生活環境整備の諸経過、先進諸外国の例等に鑑み、すでに、法制化を具体的に検討すべき段階にたちいたつていると思量される。この際、身体障害者等の生活環境整備を強力に推進し、国民の正しい理解を深めるため、政府は、法制化の方針をすみやかに打ち出すべきと思うが、その意思はないか。

  右質問する。