質問主意書

第82回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一八号

内閣参質八二第一八号

  昭和五十二年十二月六日

内閣総理大臣 福田 赳夫   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員橋本敦君提出金大中事件の政治決着に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員橋本敦君提出金大中事件の政治決着に関する質問に対する答弁書

一について

 昭和四十八年十一月二日付けの田中総理大臣発朴大統領あての親書の主たる内容は、これまでに政府が要旨として発表したところに尽きている。右親書は、一国の総理が他国の元首にあてた外交文書であり、全文を公表することは国際慣例からみて適当でないので差し控えたい。

二について

 御指摘の答弁は、金大中氏事件の処理に関しては、外務省、警察庁を含め事務的に種々の角度から検討を進めてきたが、最終的には、これらを踏まえた上で、当時の政府首脳の間で高度の政治判断が行われた旨を述べたものである。

三について

 金大中氏事件の捜査の問題については、昭和四十八年十一月の田中総理大臣と韓国の金鐘泌国務総理との間で、「事件の真相究明については両国の捜査を今後とも続け、韓国側は、金東雲を取り調べたのち相応の措置をとり、捜査の結果とともに日本側に通報する」との了解が成立した。右了解は、もとより同人につき我が国が独自の捜査を続けることを否定するものではなく、また既に、同人の身柄が韓国にあるという状況下においては、韓国が捜査を行うことは当然であり、かつ、その結果を我が国に通報するという内容なのであるから、そもそも捜査当局の了承の有無が問題となるようなものでなかつたものである。

四について

1 金大中氏事件に関連して、韓国は、昭和四十八年十一月、当時の金鍾泌国務総理を我が国に派遣し、日本政府と国民に対し深甚なる遺憾の意を表明するとともに、今後類似の事件が生じないよう万全の策を講じる旨等の意向を表明し、また同時に、同総理が携行した朴大統領親書の中においても同様の趣旨が明確に表現されていた。
 政府としては、韓国の以上のような態度を評価し、日韓友好関係の維持という大局的見地に立つて、この機会に韓国との間で決着をつけた次第であり、かかる措置を「機宜の措置」と述べたものである。
2 将来、韓国側の日本国内における公権力の行使を明白に裏付ける重大な証拠が新たに出た場合には、外交的決着を見直すこともあり得ることは、韓国側に対してもはつきりと念を押してあるが、そのようなことがないのに、両国政府の最高首脳の間で了解をみた決着を覆すことは、国際信義上も問題である。「大変な問題」とは、かかる意味で用いられた言葉である。

五について

去る十月二十日の参議院予算委員会における政府答弁は、本件事件の被害者並びに関係者から、我が国において事情聴取を行うことにつき述べたものであるが、本件に関しては、外交的決着以前にも金東雲書記官の外交特権、被害者並びに関係者が韓国にいるという事実等からくる制約があつた次第であり、外交的決着は、上述のような状況の中で、日韓関係全般という大局的な見地から「四について」で述べた趣旨で行われたものであつて、現在これを見直さねばならないとは考えていない。ただし、我が国捜査当局は同事件の捜査を継続しており、将来韓国側の日本国内における公権力行使を明白に裏付ける重大な証拠が新たに出た場合には外交的決着を見直すこともあり得るというのが、政府の立場である。

六について

 金大中氏事件の捜査の問題については、昭和四十八年十一月の田中総理大臣と韓国の金鍾泌国務総理との間で、「三について」で述べたような了解が成立しており、日本側が捜査を終結させることを約束するというようなことはそもそもあり得ないことである。
 また、外交的決着に至る経過については、国会における政府答弁等を通じて既に充分明らかにされているものと考える。

七について

 政府としては、民間の機関である日韓協力委員会の活動については何ら承知していない。

八について

 一般に、在本邦韓国公館に、韓国中央情報部の機関として活動する者がいるか否かについては、既に昭和四十八年八月に韓国政府に照会した結果、御指摘の委員会において政府委員から御説明したとおりの回答を得た次第であるが、更に橋本敦議員より御指摘のあつた六名の者については、国会質疑において御指摘のあつた諸点を示しつつ、改めて韓国政府に対し照会し、次のとおりの回答を得たところである。

(1) 金在鉉以下六名の者が在京大使館に勤務する間に、中央情報部の肩書を有し、その機関として活動した事実はない。
(2) 「中央情報部駐日公使顧問」なる役職は、存在しない。
(3) 一般的に、韓国政府は、安全保障上の理由から政府各部の公務員の名簿を外部に発表しない方針をとつており、これは中央情報部についても同様である。したがつて、過去及び現在における特定の人物の中央情報部所属の有無について明らかにする立場にない。また、どのような人物が現に中央情報部に所属し、また所属したかについても、中央情報部法第五条の規定により公開しないこととしている。