第82回国会(臨時会)
質問第一八号
金大中事件の政治決着に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。 昭和五十二年十一月二十五日 橋本 敦
金大中事件の政治決着に関する質問主意書 わが国の主権と民主主義の根幹にかかわる重大な金大中事件が発生して以後、すでに四年有余を経過したが、捜査当局による事件の解明は殆んど進展をみていない。この最大の理由が、昭和四十八年十一月二日の、田中角榮元総理と韓国金鐘泌(当時)総理の会談及び昭和五十年七月二十二日三木内閣による金大中事件の外交的決着、いわゆる政治決着であることは、政治決着以降、捜査により判明した新事実が皆無に等しいことでも明白である。
一 政府は、田中親書の全容公表について、外交文書であり、国際慣例から全文の公表はできないとしてきたが、相手国の韓国政府では、昭和四十八年十一月五日、韓国国会に対し、日本政府以上に詳細な報告をおこなつている。その報告によれば、田中親書は、大統領の“このような国際間にあり得る刑事事件によつて、両国間にいささかたりともその友好関係に亀裂が生じてはならない”と述べた意見に対して全面的に考えを一にするものであります。と表明したとされているが、これは事実か。
二 十月二十七日参院法務委員会で、中江アジア局長は、私の質問に対し政治決着について「私どもはちょつと詳細を承知し得ないところで政治判断が下された」と答弁している。
三 十月二十七日参院法務委員会で、三井警察庁警備局長は、私の質問に対し政治決着で金東雲からの直接事情聴取の可能性を放棄することについて、事前の相談がなかつたことを明らかにしている。金東雲からの事情聴取が、金大中事件の真相究明にとつて不可欠であることは、高橋警察庁長官が、昭和四十八年九月十一日衆院地方行政委員会で明瞭に述べているにもかかわらず、なにゆえに、事前の相談もなしに政治決着を強行したのか。 四 福田首相は、十月二十日の参院予算委員会で、政治決着が「時宜の措置であつた」と答弁し、いまさら、政治決着を見直すことは、日韓関係にとつて「大変な問題になります」と答弁している。
五 捜査当局自身が、捜査の制約になつていることを明言している政治決着をなぜ見直さないのか。 六 金総理は昭和四十八年十一月五日韓国国会で、金東雲捜査の問題について、「日本ではこれで捜査が終結」したと明瞭に報告している。これは、日本政府の説明と大きく相違しており、しかもその後の事実経過は、金総理報告の正しさを証明している。従つて、政治決着とそれにいたる全経過に関する外交記録について全容の公表をもとめる。 七 日韓協力委員会が、政治決着に介入したことは、同委員会報告や岸信介氏ら当事者の言明でも明らかである。しかも、この日韓協力委員会には現通産大臣の田中龍夫氏も事務総長として加つていた。そこで朴大統領と岸、田中氏ら日韓協力委員会との会談で何が話し合われ、どういう結論を得たのか。また、その結果、日本政府や田中総理らにいかなる進言をしたのか。この際、政府の責任で日韓協力委員会の動きと政治決着にいたる経過の全容を明らかにせよ。 八 政府は昭和五十一年一月十六日小林進議員の質問主意書に対する回答で「わが国において、外国の公権力の行使により、基本的人権が侵害された事例は承知していない」「韓国中央情報部部員が日本国内に存在し、かつ活動を行つているとの事実は把握していない」と答弁している。しかし、十月二十日参院予算委員会で、私がKCIA要員が来日している事実について調査を要求したところ、中江アジア局長は調査を約束した。その調査結果について明らかにせよ。
右質問する。 |