質問主意書

第82回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八号

工業所有権制度の国際化に伴う準備状況及び在外派遣体制に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年十一月九日

戸叶 武   


       参議院議長 安井 謙 殿


   工業所有権制度の国際化に伴う準備状況及び在外派遣体制に関する質問主意書

一 今年度中にも、特許協力条約(以下条約という)の発効が確実視され、我が国としてこの条約にどのように対処するかが目下緊急な課題となりつつあるといわれる。しかるに、これまでの国会審議を踏まえて先日公表された工業所有権審議会中間報告(以下中間報告という)をみると、我が国の外交政策におけるこの条約の位置づけ、またこの条約における発展途上国問題への対応の課題、世界知的所有権機構等国際諸機関の活動に対応する体制の準備状況について懸念されるところがある。
 この懸念に基づき、以下の諸点について質問する。

(1) 一九六六年に開催されたパリ同盟執行委員会以来のこの条約の設立の経過を、主要会議(総会、調整委員会、専門家委員会)を追つて年表で示し、その会議内容(概要)およびアメリカ、イギリス、西ドイツおよび我が国の発言内容をそれぞれ示されたい。
 また、この条約が発効しても、いわゆるパリ同盟条約に基づく外国への出願のルートは残されるといわれるが、パリ同盟条約に基づく優先権主張を伴う我が国から外国への出願件数を、外国一ケ国へ優先権を主張した件数、以下二ケ国、三ケ国、四ケ国、五ケ国、六ケ国、七ケ国以上へ優先権を主張した件数にわけて、過去五ケ年の推移で示されたい。また、この七通りの場合について、出願に際して要する経費を事項別に内訳で示すと共に、特許協力条約に基づく出願に際して要する経費を事項別に内訳で示し、比較されたい。
 更に、我が国がこの条約に加盟した際、この条約に基づく出願件数は、年あたりどの位と予想しているか。その推定根拠は何か。分担金はどの位か。その算出方式はどうか。またアメリカ、イギリス、西ドイツにおけるこの条約に基づく出願件数の予想および各国の分担金を比較されたい。
(2) 国際特許分類、出願公開制度、審査請求制度の諸制度はもともとヨーロッパにおいて生まれ、その後、国際特許分類に関するストラスブール協定、特許協力条約の形で国際制度になつたといわれる。一方、ECブロック化の一環としての欧州特許協力条約は、特許協力条約の発効を前にして、最近発効したといわれる。また、アメリカは、国際特許分類に関するストラスブール協定、特許協力条約を批准しながらこれらの制度を自国の制度として採用していないともいわれる。これらの諸制度が諸外国、特にアメリカ、イギリス、西ドイツ、ソ連においてどのように採用されているか、またその背景について示すと共に、我が国の外交、国内政策においてこの特許協力条約をどのように位置づけているのか政府の見解を示されたい。
(3) 発展途上国への援助問題が国連等において重要な問題として論議されているが、第七十七回国会において、田中議員の質問に対して政府は「我が国は……開発途上国の要望に……積極的に応じていく」旨答弁されている。しかるに中間報告では、我が国に対する発展途上国の要望が強いといわれる国際予備審査機関への立候補については留保する旨結論づけられている。どのような理由でそうしたのか。また政府の見解はどうか。
(4) 右中間報告に関して、

(イ) 右(3)の国際予備審査機関に関してアメリカ、イギリス、西ドイツ、ソ連はどのように対応しようとしているのか。また留保している国にあつては、何故留保しようとしているのか政府の見解を示されたい。
(ロ) 右中間報告における、第二外国語による国際出願の場合の所定の翻訳文の取扱い、改正の趣旨における項目五について「特許庁における翻訳文と原語の国際出願との照合を第三者の協力により行うことが適当である」旨解説されている。これは、現行特許法第五十五条の異議申立制度を利用するものと考えてよいか。
(ハ) 同第七その他六(五)に、「出願人の過度の負担とならないよう既に低い水準で設定されている」旨報告されているが、この「既に低い水準」の設定基準、経緯等はどのようになつているか。
(ニ) 同第七その他七にいう国際出願に関する手続の代理について、受理官庁および国際調査機関に対する手続の代理については、「(a)我が国の現行制度、(b)条約の作成における従来の経緯、(c)各国の動向、(d)国際事務局の考え方等の総合的判断」(以下「判断」という)を要する旨報告されているが、右判断中の(b)、(c)、(d)の各点について現在どのようになつているのか。
(ホ) 右(ニ)に次いで、指定官庁としての特許庁に対する手続の代理については「現行制度に準ずるのが適当である」旨報告されているが、この点の検討はどのようになつているか。

二 工業所有権制度の国際化は、第七十五回国会における物質特許、多項制に関する法律改正、第七十七回国会における国際特許分類に関するストラスブール協定の批准、また現在進められている特許協力条約批准の準備、商標登録条約、ブカレスト条約、発展途上国問題への対処等にみられる如く目ざましいものがある。
 それに応じ我が国が迫られる国際的対応体制整備は急務であり、第七十七回国会審議においてもこの点につき強く要請されているとこであつた。
しかるに現在、特許庁から海外に派遣されている職員は世界知的所有権機構(以下「WIPO」という)へ二名、日本貿易振興会へ二名程度であるので、海外の情報を収集し適切に対処していくうえに、情報不足からくる混乱がしばしば指摘されているところでもあつて、現状は工業所有権制度の国際的対応体制としては極めて不十分な憾みがあるというほかない。
 かかる懸念に基づき、以下の点について質問する。

(1) 特許協力条約(以下条約という)の批准等、工業所有権制度の国際化への体制を準備するうえに不可欠の前提として、第七十七回国会参議院外務委員会において、「工業所有権制度の国際化に対応し得るよう専門の職員を内外に確保すること。特にジュネーブ国際機関日本政府代表部の人員の確保を早急に行なうこと」が要請され、これに対し外務大臣は「特許制度の国際化に対応する体制を整えますために、政府といたしましては、関係省庁間で十分に協議をし、努力をいたす所存でございます」旨答弁されている。この点に関し、

(イ) 専門の職員を内外に確保するために、(a)研修制度をどのように充実し、有効に活用してきたのか、過去三ケ年の経緯および五十三年度予算方針、また、特に(b)人事院の在外研修制度の特許庁としての利用につき、その後の検討状況はどのようになつているか。
(ロ) ジュネーブ国際機関日本政府代表部の人員の確保について、その後の検討状況はどのようになつているか。

(2) WIPOの状況について

(イ) 現在、加盟国の分担金納入について、上位十ケ国とその金額はいか程であるか。また、その額はどのように決められているか、その算定根拠を示されたい。
(ロ) 現在、正規の職員の各国別比率はどのようになつているか。
(ハ) 条約加盟後、日本から派遣される正規職員数に変動はあるか。あるとすればその内容(予定人数等)およびそのための対処法はどのようなものか。

(3) パリ同盟条約の改正、特許協力条約における予備審査制度、技術移転等、発展途上国問題への適切な対応を求められているが、このことと関連して、WIPO以外の国連機関への職員の派遣についての対応策はどのようなものか。

  右質問する。