第80回国会(常会)
質問第五〇号
公害健康被害補償法の認定制度改善に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。 昭和五十二年六月九日 沓脱 タケ子
公害健康被害補償法の認定制度改善に関する質問主意書 本年三月末現在、第一種指定地域は三十九地域であり、被認定患者は五万三、四一六人となつている。しかし、公害健康被害補償法に基づく地域指定の要件が、二酸化硫黄濃度の年平均値三度以上(〇・〇五PPM以上)、有症率二度以上(四十~五十歳代の自然有症率の二~三倍以上すなわち五%以上)とされていることと比較して、昭和五十一年八月末現在の被認定率(当該指定地域における被認定患者数を全対象人口で除した百分率)が最高の尼崎で一・四四%、最低の吹田市が〇・一九%、全指定地域の平均でも〇・三八%にすぎず、自然有症率なみであつて到底公害多発地域の被認定率とはなつていないと考えられる。
一 認定要件について (一) 指定地域の要件について (1) 「相当範囲にわたる著しい大気の汚染」の判定基準につき二酸化硫黄の年平均値が三度以上〇・〇五PPM以上とされているが、これは「旧環境基準」によつており、明らかに有症率の増加が認められる水準であり、これより若干低い濃度でも発病する可能性があり落ちこぼれが出ることになつて適切でない。大気汚染の影響による健康被害を漏らさず救済する見地から新環境基準(年平均値〇・〇一七PPM相当)に基づき大気汚染の程度を見直すべきではないか。
(二) 指定疾病の範囲について 「慢性気管支炎と診断されない程度の咳と痰」及び「眼・鼻・咽喉の炎症性疾病又は症状」については、中公審答申も「疫学的調査及び受診調査」から「大気汚染との関連性は認められる」としており、これまでの各地における調査からも疫学的因果関係が確認されている。したがつて、明らかに大気汚染による疾病又は症状と考えられる「眼・鼻・咽喉」などの被害については、補償法の指定疾病に加えるべきではないか。少なくとも当面医療救済だけでも実施すべきであると思うがどうか。 (三) 曝露要件について 指定地域内に一定の期間居住していて発病しその後大気の清浄な地域へ移転又は入院療養した者について、申請時に当該指定地域に居住し又は通勤しておらず、いわゆる曝露要件を満たしていないとの理由で救済の道を閉ざしているが、このようなケースについては法の趣旨に照らして改善すべきではないか。 二 認定審査制度のあり方について 前述したように、地域指定の要件が四十歳から五十歳代の自然有症率の二~三倍以上、すなわち五%以上の有症率が必要であるとされていることと対比して、実際の指定地域における被認定率(当該指定地域における被認定患者数を全対象人口で除した百分率)の方は平均で〇・三八%にすぎず、被害が「多発している地域」の実態に遠く及ばない数値である。この事情は指定地域が比較的最近に指定された地域も含めて、旧法(公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法)から継続している地域も大阪市西淀川区を除いてほぼ同様の水準であり、極めて異常なことと言わざるを得ない。少なくとも地域指定の要件である基準有症率程度の被認定率が達成されてこそ、ほぼ被害実態に対応する水準に近いと考えられることから、まだ既存指定地域には相当数の潜在患者が存在しているものと予想される。このような不徹底な救済状態は問題であり、早急に被認定率が引きあげられる必要がある。 (一) 指定地域内の住民検診の実施について 補償法による救済を受けるためには、被害者は自ら認定申請を行い、必要な手続きをふまなければならない。しかし、現行の被害者申請主義を前提にすれば、補償法による救済を望む被害者が被認定患者となるためには、主治医となる医師の理解と協力、治療を受け診断書を書いてもらうために最低限必要な医療体制の整備、公害被害者をとりまく世論の動向や隣近所、地域の理解など種々の条件が整う必要性が指摘されている。遺憾ながら、各地域において、「企業が設立運営している病院では医師が認定申請に消極的である」、「公害病患者の受診を断る医師も少なくない」、「肺機能検査など医学的検査の能力が不備なため認定申請ができない地域」「就職のことや将来のことを気遣つて受診も認定申請もしない被害者」等々の問題が数多く指摘されている実情である。
(二) 医学的検査及び主治医診断報告書について 公害健康被害認定審査会による認定審査及び障害等級の決定にあたつては、主治医の意見、患者の訴え又は自覚障害度、医学的検査所見の三つができるだけ合致することが望ましい。しかるに実際には、多くの被害者が認定審査会の審査結果及び等級付けについて、「まだ主治医の意見が十分尊重されていない」、「医学的検査所見偏重である」等の批判的意見を述べているのが実情である。 (1) 主治医診断報告書の記載事項について 補償給付と直接関連する障害等級の決定は、当該疾患による労働能力喪失度、日常生活困難度の判定が基本とされているのであるから、患者との接触、患者のなまの訴え、患者の病状及び治療の経過等を一番よく知る立場にある主治医の判断は、右審査の決定過程において極めて重視される必要があるものであるが、肝心の主治医診断報告書の書式、項目が患者の真の労働能力喪失度、生活困難度を記載するようにはなつていない。したがつて、主治医診断報告書の書式・記載事項は右要請が容れられるよう、その不備を改善、充実させるべきではないか。 (2) 主治医診断報告書の作成は医学的検査結果を踏まえるよう徹底させることについて 前述したように主治医診断報告書の記載事項に不備があるため、患者の真の障害度についての主治医の判断が十分認定審査会に反映されないうえに、四日市市、川崎市等の指定地域では、主治医が医学的検査結果を踏まえずに主治医診断報告書を作成する仕組になつているので、右報告書が充実した内容となりがたく、また主治医の軽視にもつながる。したがつて、国は主治医が医学的検査結果を見て主治医診断報告書を作成するよう、指導・徹底すべきではないか。 (3) 医学的検査事項の改善について 医学的検査所見のみをもつて当該呼吸器疾患の病像及び障害度の全容を明らかにしうるものではないと思われ、現行の医学的検査事項と検査方法ではなおのこと十分とは言いがたい。従来、認定審査会及び公害医療機関の医師等から、「慢性気管支災、肺気腫の障害度の判定には呼吸機能検査、動脈血ガス組成検査、心電図検査、胸部X線検査は役立つが、気管支ぜん息の場合にはあまり役立つとは言えない。また、細気管支の障害度の判定には、現在重用されているスパイロメーター使用の呼吸機能検査は適切とは言えず、むしろクロージングボリューム、フローボリューム、N2洗い出し検査等が有効である」との指摘がある。
(4) 医学的検査の実施時期及び回数について 前記西淀川公害医療センターにおいて夏期の見直し検査と冬期(十二月、一月)検査を実施した患者のうちから無作為に抽出した患者集団につき呼吸機能指数を比較したところ、約六割の人が冬期指数が夏期指数より低下し、その内約四割強は「心肺機能」の項目につき冬期データによる方が夏期データによるよりも等級区分が高くなるとの結果を得た。
(三) いわゆる「等級外」認定について (1) 指定四疾病罹患が認定される患者は三級以上に等級付ける原則の確立について 「治療を必要とせず、経過観察だけでよい」とのいわゆる「等級外」認定患者は、十五歳以上の人で最高の大牟田市が二六%強、東京都十九区平均が一一%強、全国平均が五%もおり、十五歳未満の児童に至つては、最高の東京都千代田区が八四%、東京都十七区平均が四二%、全指定地域平均が二四%強(以上の数字は昭和五十一年三月末現在)となつており、極めて異常な状況である。しかし、およそ指定四疾病のどれかに罹患している事実が認定され、療養の給付を受け、公害保健福祉事業の健康回復、健康管理を受けている患者は、「常に医師の管理を必要とし、かつ、時に治療を必要とする」との三級相当の管理区分に該当するはずであつて、被害者はこの等級付け処分に極めて不満を感じており、自分の受けている障害の程度に合致していないと考えている。したがつて、国は、できるだけ早期に指定四疾病に罹患している事実が認定される患者については、三級以上相当の管理区分に等級づけることを原則として確立すべきではないか。 (2) 環境庁の「検討」約束の履行状況について 環境庁は、本法施行令作成段階において、「等級外は極めて例外的で、なくすことが課題である」と述べ、昭和五十年五月二十三日の参議院公害環境特別委員会では、「主治医、認定審査会、患者の三者の意見を聞いてこの問題を今年度の非常に大事な問題として検討する」(当時の橋本保健部長)旨の約束をしていたが、その後、「等級外」管理区分の問題につき、右約束による「検討」経過及び結果はどうなつているか、具体的に示されたい。 |