質問主意書

第80回国会(常会)

質問主意書


質問第四五号

公害健康被害補償法の費用負担制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年六月九日

沓脱 タケ子   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   公害健康被害補償法の費用負担制度に関する質問主意書

 公害健康被害補償制度の基本的性格は、汚染原因者による被害者に対する民事責任を踏まえた損害填補の制度であつて、本来、本制度に基づく補償事業に要する費用のすべてについて、汚染原因者負担の原則が貫徹されるべきものである。しかるに現状では、当該費用の二割強が国費又は地方公共団体の負担とされており、特に地方公共団体の費用負担については、この負担からくる財政の圧迫が当該地域の全認定患者を対象とした公害保健福祉事業の円滑な実施にとつて重大な障害となつている実情からも看過できない問題である。
 以下、本制度の基本的性格に基づき、公費負担の廃止又は軽減の措置をすみやかに実施し、汚染原因者負担の原則をより徹底すべきことにつき、所要の質問をする。

一 汚染原因者負担の原則の徹底について

(一) 自動車に係る費用負担について

 昭和四十九年度から昭和五十二年度までの期間については、大気汚染の原因物質を排出する自動車に係る費用負担分(固定発生源から徴収する汚染負荷量賦課金が八に対し移動発生源に係る分は二とされている)は、「当該年度の自動車重量税の収入見込額の一部に相当する金額を交付する」よう定められている。
 しかしながら、自動車重量税収の一部引当は、実質的にはこの措置がユーザー負担で自動車製造企業の加害責任の免罪となり、国費による企業負担分の肩代りを意味するので、自動車製造業者から賦課金を正当に徴収する制度に改正すべきである。昭和五十三年度以降はこの方式に転換し、汚染原因者負担の原則を貫くべきではないか。

(二) 補償給付支給事務費、公害保健福祉事業費及び公害健康被害補償協会事務費における国及び地方公共団体の公費負担について

(1) 補償給付支給事務費は、国と地方公共団体の折半による負担
(2) 公害保健福祉事業費は、その二分の一を国と地方公共団体の折半による負担
(3) 公害健康被害補償協会事務費は、その二分の一に相当する額を国が負担

 以上の公費負担分は本制度の基本的性格から本来汚染原因者が負担すべきものであり、是正することが必要である。前述したように公害保健福祉事業費及び補償給付支給事務費の地方公共団体による一部負担は、本事業の実施上、大きな障害とさえなつている。したがつて、公費負担分は廃止または極力軽減する方向で検討すべきではないか。

(三) 地方公共団体の超過負担について

(1) 公害保健福祉事業の実施にあたつては、環境庁が転地療養事業等、各事業の種類ごとに定める承認基準額及びその内訳事項ごとの見積もり単価、及び範囲は、事業実施にあたつて実際に要する費用を下まわる等、実情に合わない面が多く、地方公共団体に前記四分の一負担以外の超過負担を生じさせており、本事業実施上の障害の一つとなつている。右超過負担を生じさせないよう基準を改善すべきではないか。
(2) 本事業の実施に必要な費用のうち、公害健康被害補償協会からの納付金は、地方公共団体が所要の金額を支出した後に納付されるので、地方公共団体は第一次負担者としての利子負担を強いられる。したがつて、当該負担分につき利子補給をすべきではないか。
(3) 補償事業の実施に要する地方公共団体の人件費、公害健康被害認定審査会の事務費等についても国の査定基準では超過負担が生じることが指摘されているので、右費用も実情に合つた基準額とすべきではないか。

二 経団連等の「要望」に対する国の態度について

 指定地域の拡大、認定患者の急増を反映して費用負担額が急増しているのに対し、経団連をはじめ財界は一段と抵抗を強めている実情である。補償法による支出額を抑制しもつて自らの費用負担額を軽減するため、指定地域の一部解除、認定要件を厳しくせよ、公費負担分を増額せよ等の動きを活発にしている。これは、自らの加害責任を回避するための主張であり、環境庁は財界のこの要求に屈しないよう厳格な態度を貫くべきである。最後にその決意をただして本質問主意書の結びとする。