質問主意書

第77回国会(常会)

答弁書


答弁書第二〇号

内閣参質七七第二〇号

  昭和五十一年五月二十八日

内閣総理大臣 三木 武夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員峯山昭範君提出染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビスクロロ・メチールエーテル等)の製造及び使用に従事した従業員の被災救済に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員峯山昭範君提出染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビスクロロ・メチールエーテル等)の製造及び使用に従事した従業員の被災救済に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の条約及び勧告の内容は、我が国においては、労働安全衛生法その他関係法令によりおおむね実施されているところである。
 なお、できるだけ早く関係国内法令を整備し、この条約を批准する方向で、細部について更に検討を加えているところである。

二について

 我が国における染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン及びビス(クロロメチル)エーテル)の製造開始時期は、ベンジジンにあつては大正八年、ベーターナフチルアミンにあつては大正十年、ビス(クロロメチル)エーテルにあつては昭和三十年であるが、前記二品目の本格的な生産が行われたのは昭和二十年代である。製造を中止した時期は、ベンジジンにあつては昭和四十七年、ベーターナフチルアミンにあつては昭和四十五年、ビス(クロロメチル)エーテルにあつては昭和三十七年であり、その間の生産量の推移は、化成品工業協会の調べによると別表のとおりである。

三について

 ベンジジンとベーターナフチルアミンは、昭和四十七年労働安全衛生法に基づき製造禁止となり、IQ品目(輸入割当品目)に指定されて以来輸入実績はない。
 また、ビス(クロロメチル)エーテルは、昭和五十年に同法に基づき製造禁止となり、同時にIQ品目(輸入割当品目)に指定されて以来輸入実績はない。

四について

 染料中間体のユーザーは、染料製造業界であるが、極めて多種多様の染料に使用されているので、個別の使用量についてはは握できていない。

五について

(一) ベンジジンを使用した染料製造工程

 テトラゾ槽でベンジジンをテトラゾ化してカップリング槽に移す。H酸、アニリン-メタ-フエニレンジアミンをカップリング槽に入れカップリングを行う。塩酸で酸析してフイルタープレスでろ過後、減圧乾燥機で乾燥し、次に粉砕機で粉砕して配合機で配合する。

(二) ベーターナフチルアミンを使用した染料製造工程

 縮合釜にトルオール、ベーターオキシナフトエ酸、ベーターナフチルアミンを仕込み三塩化リンを注入した後沸とう点において逆流下反応が終了するまで煮沸する。ケーキ状になつたものにソーダ灰液を加えてかくはんし、フイルタープレスでろ過、洗浄を行う。

(三) ビス(クロロメチル)エーテルを使用した染料製造工程

 塩化アルミとピリジンを冷却しつつかくはんしながらこれにビス(クロロメチル)エーテルとフタロシアニンブルーを少量ずつ加える。
 一方、硫酸を加えて次にパラホルムアルデヒドを加えて冷却しながらかくはんし溶解したものにクロールスルホン酸を少量ずつ加えて前者と反応させる。

六について

 製造等が禁止されている染料中間体等の製造を行つていた事業場において当該業務に従事していた労働者数で、は握されているものは、次のとおりである。

(一) ベンジジン及びベーターナフチルアミンの製造の業務に従事していた労働者数 約一、九〇〇名
(二) ビス(クロロメチル)エーテルの製造に従事していた労働者数 約三〇名
 また、輸入、ユーザー部門に従事した労働者数については、不明である。

七について

 染料中間体に対して政府の「製造許可制度」というものは元来なかつた。その後、染料中間体製造業務従事者に膀胱腫瘍の発生がみられたことから、設備改善について強力な監督指導を行つてきたが、昭和三十九年以降は染料中間体の中で特に発がん性の強いベンジジン及びベーターナフチルアミンについて製造を中止するよう行政指導を行うとともに、代替品の研究、開発についても指導を行つてきた。
 これらの結果、関係事業場においては漸次製造を中止し、昭和四十七年に労働安全衛生法に基づきこれらの製造が禁止される以前に、全事業場における製造は自主的に中止された。

八について

(一) 西ドイツにおいては、バイエル社等でベンジジンによる膀胱がんの発生事例があり、バイエル社は昭和四十六年に自主的に製造を中止した。しかし、ベンジジンの製造は法律上は禁止されていない。
 イギリスにおいては、昭和四十二年十二月に、がん原性物質規制規則によりベンジジン(塩酸塩を除く)等の製造が禁止された。
 アメリカにおいては、労働安全衛生法上、ベンジジン、ベーターナフチルアミン等のがん原性の染料中間体の製造は禁止されていない。
(二) 染料中間体に起因して発生する職業がんの患者に対する諸外国の政府等による補償の実情はつまびらかではないが、イギリスにおいては一九六五年国民保険(労働災害)法、西ドイツにおいてはライヒ保険法(第三編)、アメリカにおいては各州の州法により、業務に起因する傷病についてはそれぞれ所定の補償等が行われている。

九について

 染料中間体等の製造等の業務に常時従事した者で当該事業場において現に使用されているものに対しては労働安全衛生法に基づき、当該事業者に医師による特別の健康診断を実施させている。また、同法においては退職者で一定の期間以上、これらの業務に従事した経験を有するものについては、健康管理手帳の交付を受け国の費用により同様の健康診断を受けることができることになつている。現在これについては約一、一七〇名とは握しているがこの結果、業務に起因する疾病が発見された場合には労災補償を行つている。

十について

(一) 現在は握している職業がんによる死亡者数は一〇二名、被災者数は一一七名である。
(二) 労災保険では、およそ業務に起因する傷病に対しては、事業主の過失の有無にかかわらず、所定の給付を行うこととしている。
(三) なお、労災保険の給付以外に企業が行つているいわゆる上積み補償については、労使間の自主的交渉により決められ、運用されているので、その性格、額、支給方法等も企業によりまちまちであり、実態は必ずしも定かでない。

十一について

 職業がんに関する争訟の事例については、現在のところ承知していない。

十二について

 業務に起因するがんについては、かねてから、内外の情報の収集、調査研究等を行うことにより、取扱物質等と発がんとの因果関係の究明、保険給付の迅速適正な決定に努めているが、がんについては、その発生のメカニズムあるいは治療方法等医学的にまだ研究が進んでいない部分が少なくなく、的確な予防又は治療対策をたてにくい状況にあるので、問題の重要性にかんがみ、今後とも総合的な対策の推進に一層の努力を尽くしてまいりたい。

別表 染料中間体の生産量(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビス(クロロメチル)エーテル)